足枷《あしかせ》無しでも、Stay with me

ゆりえる

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気まずい空気と……

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 翌朝、打ち合わせ通り、午後から母親が家に戻った。
 昼食後、鏡を見ながら髪をとかし、約束通り瑞輝みずき凌空りくが来た時の為に、備えていた詩奈しいな
 何度も鎮痛剤の副作用である睡魔が襲って来たが、手の甲をつねりながら耐えていた。

 昨日の時刻より少し遅れて、期待していたノックが聞こえた。

「はい、どうぞ」

 昨日は母だと油断し、寝ぼけたような返事をしたが、今日は少し改まったような余所《よそ》行きの声を出した詩奈しいな

「なんか、昨日と違うような……? あっ、車椅子か!」

「牧田さん、もう使ってみた?」

 病室の片隅に置かれた車椅子に気付き、好奇心で目を輝かせた瑞輝みずき凌空りく

「ううん。さっき、看護師さんが持って来てくれたけど、コケたら困るから、1人で乗る勇気が無くて……」

 家に戻った母と入れ替わりのタイミングで、看護師がやって来て、好きな所に自由に行けるようにと置いていった。

「危なかったら、俺達が手伝うから、乗ってみる?」

「うん、お願いしていいかな?」

 瑞輝みずきが折り畳んであった車椅子を広げ、詩奈しいなのベッドまで寄せた。
 詩奈しいなは、枕に乗せていた右足をまず下ろし、左足を軸にし、車椅子に移ろうとしたが、丸二日以上自分の足で立っていなかったせいか、何でもないはずの左足がぐらつき、バランスを失い倒れそうになった。

「危ない!」

 瑞輝みずきが素早い動きで自分の背を貸し、詩奈しいなの右腕を取り、身体を支えてから、車椅子に乗せた。

「ありがとう、矢本君の反射神経のおかけで助かった! やっぱり、1人じゃ無理だった。寝たきり生活だと、元々無い体力が、あっと言う間に落ちるね……」

 瑞輝みずきに助けられたのは嬉しかったが、自身を支えられなかった左足にショックを隠し切れない詩奈しいな

「はい、今日の板書のノート。勉強もだけど、リハビリも大事だね」

 瞬時に判断出来た、瑞輝みずきの瞬発力に感心しながら、詩奈しいなの苦難を気の毒に思う凌空りく

「ありがとう、北岡君。昨日、早速、教科書と照らし合わせて見たけど、すごく分かりやすかった!」

「そうか、良かった! もし、分からないところが有ったら、また来るから聞いて」

「うん、北岡君が同じクラスで助かった。でも、そんな毎日じゃなくてもいいから、無理しないでね、矢本君も」

「別に無理な事なんて無いよな、凌空りく?」

「そうだよ、僕らに出来る事有ったら、何でも言って」

 試験前期間というのに、彼らが詩奈しいなを気遣って見舞いに来ているのを心苦しく感じつつ、その2人の好意に甘える癒し時間も、今の詩奈しいなの折れた心には必要だった。

「ありがとう、車椅子も初めてだけど、こんな風にベッドから離れられたのも、久しぶりな感じで新鮮だね! もし、時間まだ大丈夫だったら、車椅子で、少しだけ散歩させてもらえると嬉しいんだけど……」

 入院して以来、詩奈しいなの居場所がベッドだけだった事を改めて認識させられた瑞輝みずき凌空りく

「いいよ! 病院の見取り図は大体もう覚えたから、僕が道案内するから、瑞輝みずきが車椅子押して」

「OK! 牧田はどこに行きたい?」

 2人が快く引き受けてくれて、喜ぶ詩奈しいな
 
「天気いいから、まずは、お日様浴びたいな! ほら、矢本君、日光浴でビタミンDを摂取しないと骨折しやすいって言ってたしね!」

 明るい口調で、瑞輝みずきから言われた事を思い出した詩奈しいな

「覚えていたんだ。痛みがきつくて、あの時の会話なんか抜けてると思ってた」

「抜けてないよ~! そんな簡単に」

(特に、矢本君との会話だったら、私、一字一句覚えていて、絶対に忘れたりしない!)

 瑞輝みずき詩奈しいなの会話の内容が、自分が救急車の手配や、詩奈しいなの家に知らせに行っている間の事だと分かった凌空りく
 考えているような凌空りくの表情に気付き、彼の知らない話題を瑞輝みずきと2人でしている事で、負い目を感じた詩奈しいな

「それよりも北岡君、もう病院内を覚えたんだね! スゴイ記憶力! この病院って広いから、入院している私でも、どこに何が有るのか、まだ把握出来てないのに……」
 
「そういうの覚えるのだけは得意なんだ! あっ、瑞輝みずき、そこのエレベーター乗るから」

 凌空りくが早歩きで、エレベーターを呼んだ。
 
 エレベーターで降りて、外に出ると、車椅子で通るには丁度良いくらいの庭園と小径が有り、そこを3人で散策した。
 
「気持ちいい~! お日様の光って、こんなに心地良かったんだ~!」

 3日ぶりに日差しを浴びながら、両腕を広げた詩奈しいな
 彼らが今まで見た事も無いほど、明るい笑顔の詩奈しいなに、散歩に出て正解と思った2人。
「庭をもう1周する?」

「今日はもういいかな……また今度、天気良い時に来たい」

 もう少し外に出ていたい気持ちは有ったが、中間試験前だから、あまりここに長居させて2人の勉強時間を奪うのは気が引けた。
 またエレベーターの方に戻ろうとした時、

詩奈しいな、どこに行ってたの?」

「えっ? 矢本君と北岡君じゃん! どうして、ここにいるの?」

 先にエレベーターの前で待っていたのは、意外そうな顔をした詩奈しいなの友人、恵麻えま芽里めりだった。
 彼女達は、瑞輝みずき詩奈しいなの車椅子を押し、凌空りくも一緒にいる状況が飲み込めなかった。

恵麻えま芽里めり、お見舞いに来てくれたの? ありがとう!」

 友人達に会えて嬉しい反面、瑞輝みずき凌空りくと一緒にいるのを見られ、友人達から誤解されてしまうのではと心配になった。

「大丈夫なの、詩奈しいな?」

「なんか右足、すごく痛々しいんだけど!」

 恵麻えま芽里めりが、心配そうに駆け寄り、詩奈しいなの包帯が厚く巻かれた右足を見た。

「大丈夫、鎮痛剤効いているし。見かけほど、そんな大した事無いから」

 瑞輝みずきの前で、大袈裟に右足の状態を騒がれたくなかった詩奈しいな

 病室に戻り、車椅子からベッドに移る時に、スムーズに瑞輝みずき詩奈しいなの身体を支えてベッドに戻りやすく誘導していた様子をジッと見入っていた恵麻えま芽里めり
 特に瑞輝みずきを想う恵麻えまは、詩奈しいなに羨望の眼差しを向けていた。

「言っとくけど、牧田がこうなったのは、俺のせいだから」

 この病室内に男子2人がいる事に対し、明らかに疑問に感じている恵麻えま芽里めりの視線に、臆すること無く瑞輝みずきの方から言った。

「え~っ、そうだったの~!」

 恵麻えまが、わざとらしいくらいほどの声で驚いた。

「で、北岡君は......?」

 恵麻えまと違い、凌空りくがいる理由が気になる芽里めり

「僕は、第一発見者」

「第一発見者なだけなら、別にお見舞いに来てなくても大丈夫なのに」

 面会に瑞輝みずきばかりか、凌空りくまでいる事が納得いかない様子で言った芽里めり

瑞輝みずきは親友だし、牧田さんとは同じクラスだから、板書を届けているんだ」

 一方、瑞輝みずきは、いつ詩奈しいなの父と遭遇するかも分からず、凌空りくが同行してくれている事が心強く思えていた。
 凌空りくにしても、詩奈しいなの父が見せた、自分と瑞輝みずきに対する態度の違いをハッキリ感じ取れてからは、自分が同行する事で1クッションを置けるのではと願っていた。

「ふーん、ノートだったら、私も詩奈しいなと同じクラスだから、届けてあげるのに!」

 芽里めりは、凌空りくに自分を良い人アピールした。

「ありがとう、芽里めり。でもね、北岡君のノートすごいの! 私も頭良くなれそうなくらいに! 見て見て」

 芽里めりの申し出は嬉しかったが、せっかくだから凌空りくの好意を受けたかったのと、瑞輝みずきもまた1人で来るより、親友である凌空りくと一緒の方が、見舞いに来やすいのではと、詩奈しいななりに考慮していた。

「ホントだ~、さすがは北岡君! 板書の取り方からして、頭良い人って違うんだね~!」

 詩奈しいなが見せた凌空りくのノートのコピーに感心している芽里めり

「2人は、これからも毎日、詩奈しいなのお見舞い来るつもりなの?」

 チャンス到来! とばかりに、目を輝かせて恵麻えまが尋ねた。

「急用とか入ったら、来られない時も有るかも知れないけど、そうじゃなかったら、来るよ」

 当然の如く、瑞輝みずきが言った。

「あっ、そろそろ、塾の時間だから、僕らは帰るよ」

 壁時計を見て、凌空りく瑞輝みずきが病室から出かけた時、恵麻えま芽里めりに目で合図した。

「私達は、もう少しゆっくりしとく」

「そんな、いいよ。恵麻えま芽里めりも試験勉強しなきゃならないのに」

 遠慮がちに詩奈しいなが言った。

「色々話したいし。ねえ、芽里めり?」

「うん、明日からは、一緒に帰るにしてもね~」

 友人達の心は、もうすっかり自分の面会よりも、もっと関心を引く存在の方に向けられているのを感じ取れた詩奈しいな

「矢本君が言っていた事って、ホントなの?」

 彼らの足音が病室から遠退いてから、恵麻えまが尋ねた。

「うん……でもね、寝坊して、不注意だった私が悪いんだけど……」

 恵麻えま芽里めりの前でも、瑞輝みずきを悪者扱いしたくなかった詩奈しいな

「それで、責任を感じた矢本君が毎日会いに来てくれるなら、私が詩奈しいなと立場変わりたい!」

「矢本君ばかりか、北岡君まで! 第一中の人気者2人に囲まれて、詩奈しいなばっか、ズルイよ~!」

 芽里めりの言う通り、小学校2校分が第一中学校に合わさり、他の小学校から同じくらいの顔触れがいる中でも、瑞輝みずき凌空りくは目立つ男子のツートップで、女子からはアイドル級の扱いをされていた。

「私も怪我をして、まさか、こんな事になるなんて思わなかった……」

 詩奈しいなとしては、瑞輝みずきがいてくれるだけで十分過ぎるくらいだが、凌空りくのあの分かりやすいノートや、一緒にいると和む雰囲気もまた有難かった。

「でも、考えてみたら、すごく私達にとっても、メリット大有りだよね!」

 恵麻えまが、この状況を有効利用しようとしているのが伝わる。

恵麻えまも、やっぱりそう思った? 私も! だって、詩奈しいなのお見舞いに来たら、北岡君達に自動的に会えて話せるわけだし! 私達もラッキーに違いない! 詩奈しいなの怪我に感謝しなきゃね!」

 詩奈しいなの怪我を出汁にして、上機嫌の2人。

恵麻えま芽里めりにも、そんなふうに思ってもらえるなら良かった……」

 と、二人の手前、合わせて言ったものの、2人のあからさまに喜ぶ様子に、内心穏やかではなかった詩奈しいなだった。
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