348 / 493
第五部
344
しおりを挟む
心配は多少あったものの、それでも『祭り』という名前がついている行事が近付くのはわくわくする。街がそれに向けて活気づいていくのが露骨に分かるとなおのこと。
そんなわけで、今日から祝集祭が始まる。
街はいろんなところで花にあふれかえっていた。花屋の露店が増えたのは勿論、普通の店先にも花が飾ってあったり、祝集祭の服を着た人が花で着飾っていたり。
シーバイズでは花と言えば作物に咲くもの、道端に咲くもの、というイメージが強くて、わざわざ育てる人は少なかった。師匠や兄弟子みたいに、温室まで持っている人が稀有なのだ。まあ、師匠はシーバイズ人じゃないから例外なんだろうけど。
前世の記憶をたどったって、こんなにも花があふれかえる祭りに参加したことはなかった。でも、嫌じゃない――どころか、あちこち綺麗な花であふれかえっているのは気分がいい。
前世では花見に参加することはあったけど、あれは大体一種類の花を愛でることが多くて、色のバリエーションはあっても、これほどまで種類が豊富なのは初体験だ。
一応、皆の予定を擦り合わせて、五人で集まる約束はしているものの、そこは皆社会人なので、祭りの期間中ずっと休みを取ることは出来ない。特に飲食店に勤めるフィジャは、今が一番稼ぎどきだろう。
ウィルフも、最近冒険者を正式に辞め、民間警護団に入って研修をしているようだが、こういう祭りどきにスリとかが増えて仕事が増える為、新人だからといって休みをたくさん貰えるわけじゃないらしい。むしろ、今こそ経験を積め! とばかりにあちこち駆り出されるらしい。
唯一まとまった休みが取れるのはイエリオだ。なんでも、常に観察を続けないといけないような研究をしている人以外はみんな、祭りの期間は休みらしい。それはそれで凄いな。
イエリオは今、大きな研究を抱えていないようで、時折顔を出しに行けばいい程度で、ほとんどまるっと休み、と行ってもいいくらいの休みを貰っているらしい。
イナリも結構自由に休みを取れるらしい。祝集祭の服を買う人で店が忙しくなるのは祝集祭が始まる直前まで。それ以降はほとんど暇になるので、営業時間を縮小するため休みが増えるそうだ。冒険者も、この時期は休む人が多いらしく、一応防具を売る日はあれど、そこまで売り上げにならないと言っていた。
まあ、祭りが終わる頃には、次のシーズンの服を売り出すために、棚卸とか商品の入れ替えとかで仕事が増えるらしいのだが。
そんな感じの四人なので、祝集祭初日は、イエリオと合流して、イエリオの家族と会うことになっていた。
うう、祝集祭の雰囲気は楽しいけど、イエリオの家族に会うのは緊張するなあ。イエリオって、いかにも良いところのお坊ちゃんと言うか、お金持ち一族って感じあるもの。イエリオを見ていると、「うちの家柄にはふさわしくない」と言うような親に育てられたようには見えないけども。
緊張しながらも、わたしはイナリに作ってもらった服に身を包み、待ち合わせの場所に向かうのだった。
そんなわけで、今日から祝集祭が始まる。
街はいろんなところで花にあふれかえっていた。花屋の露店が増えたのは勿論、普通の店先にも花が飾ってあったり、祝集祭の服を着た人が花で着飾っていたり。
シーバイズでは花と言えば作物に咲くもの、道端に咲くもの、というイメージが強くて、わざわざ育てる人は少なかった。師匠や兄弟子みたいに、温室まで持っている人が稀有なのだ。まあ、師匠はシーバイズ人じゃないから例外なんだろうけど。
前世の記憶をたどったって、こんなにも花があふれかえる祭りに参加したことはなかった。でも、嫌じゃない――どころか、あちこち綺麗な花であふれかえっているのは気分がいい。
前世では花見に参加することはあったけど、あれは大体一種類の花を愛でることが多くて、色のバリエーションはあっても、これほどまで種類が豊富なのは初体験だ。
一応、皆の予定を擦り合わせて、五人で集まる約束はしているものの、そこは皆社会人なので、祭りの期間中ずっと休みを取ることは出来ない。特に飲食店に勤めるフィジャは、今が一番稼ぎどきだろう。
ウィルフも、最近冒険者を正式に辞め、民間警護団に入って研修をしているようだが、こういう祭りどきにスリとかが増えて仕事が増える為、新人だからといって休みをたくさん貰えるわけじゃないらしい。むしろ、今こそ経験を積め! とばかりにあちこち駆り出されるらしい。
唯一まとまった休みが取れるのはイエリオだ。なんでも、常に観察を続けないといけないような研究をしている人以外はみんな、祭りの期間は休みらしい。それはそれで凄いな。
イエリオは今、大きな研究を抱えていないようで、時折顔を出しに行けばいい程度で、ほとんどまるっと休み、と行ってもいいくらいの休みを貰っているらしい。
イナリも結構自由に休みを取れるらしい。祝集祭の服を買う人で店が忙しくなるのは祝集祭が始まる直前まで。それ以降はほとんど暇になるので、営業時間を縮小するため休みが増えるそうだ。冒険者も、この時期は休む人が多いらしく、一応防具を売る日はあれど、そこまで売り上げにならないと言っていた。
まあ、祭りが終わる頃には、次のシーズンの服を売り出すために、棚卸とか商品の入れ替えとかで仕事が増えるらしいのだが。
そんな感じの四人なので、祝集祭初日は、イエリオと合流して、イエリオの家族と会うことになっていた。
うう、祝集祭の雰囲気は楽しいけど、イエリオの家族に会うのは緊張するなあ。イエリオって、いかにも良いところのお坊ちゃんと言うか、お金持ち一族って感じあるもの。イエリオを見ていると、「うちの家柄にはふさわしくない」と言うような親に育てられたようには見えないけども。
緊張しながらも、わたしはイナリに作ってもらった服に身を包み、待ち合わせの場所に向かうのだった。
12
あなたにおすすめの小説
異世界推し生活のすすめ
八尋
恋愛
現代で生粋のイケメン筋肉オタクだった壬生子がトラ転から目を覚ますと、そこは顔面の美の価値観が逆転した異世界だった…。
この世界では壬生子が理想とする逞しく凛々しい騎士たちが"不細工"と蔑まれて不遇に虐げられていたのだ。
身分違いや顔面への美意識格差と戦いながら推しへの愛を(心の中で)叫ぶ壬生子。
異世界で誰も想像しなかった愛の形を世界に示していく。
完結済み、定期的にアップしていく予定です。
完全に作者の架空世界観なのでご都合主義や趣味が偏ります、ご注意ください。
作者の作品の中ではだいぶコメディ色が強いです。
誤字脱字誤用ありましたらご指摘ください、修正いたします。
なろうにもアップ予定です。
【完結】身分を隠して恋文相談屋をしていたら、子犬系騎士様が毎日通ってくるんですが?
エス
恋愛
前世で日本の文房具好き書店員だった記憶を持つ伯爵令嬢ミリアンヌは、父との約束で、絶対に身分を明かさないことを条件に、変装してオリジナル文具を扱うお店《ことのは堂》を開店することに。
文具の販売はもちろん、手紙の代筆や添削を通して、ささやかながら誰かの想いを届ける手助けをしていた。
そんなある日、イケメン騎士レイが突然来店し、ミリアンヌにいきなり愛の告白!? 聞けば、以前ミリアンヌが代筆したラブレターに感動し、本当の筆者である彼女を探して、告白しに来たのだとか。
もちろんキッパリ断りましたが、それ以来、彼は毎日ミリアンヌ宛ての恋文を抱えてやって来るようになりまして。
「あなた宛の恋文の、添削お願いします!」
......って言われましても、ねぇ?
レイの一途なアプローチに振り回されつつも、大好きな文房具に囲まれ、店主としての仕事を楽しむ日々。
お客様の相談にのったり、前世の知識を活かして、この世界にはない文房具を開発したり。
気づけば店は、騎士達から、果ては王城の使者までが買いに来る人気店に。お願いだから、身バレだけは勘弁してほしい!!
しかしついに、ミリアンヌの正体を知る者が、店にやって来て......!?
恋文から始まる、秘密だらけの恋とお仕事。果たしてその結末は!?
※ほかサイトで投稿していたものを、少し修正して投稿しています。
せっかく転生したのにモブにすらなれない……はずが溺愛ルートなんて信じられません
嘉月
恋愛
隣国の貴族令嬢である主人公は交換留学生としてやってきた学園でイケメン達と恋に落ちていく。
人気の乙女ゲーム「秘密のエルドラド」のメイン攻略キャラは王立学園の生徒会長にして王弟、氷の殿下こと、クライブ・フォン・ガウンデール。
転生したのはそのゲームの世界なのに……私はモブですらないらしい。
せめて学園の生徒1くらいにはなりたかったけど、どうしようもないので地に足つけてしっかり生きていくつもりです。
少しだけ改題しました。ご迷惑をお掛けしますがよろしくお願いします。
ちょっと不運な私を助けてくれた騎士様が溺愛してきます
五珠 izumi
恋愛
城の下働きとして働いていた私。
ある日、開かれた姫様達のお見合いパーティー会場に何故か魔獣が現れて、運悪く通りかかった私は切られてしまった。
ああ、死んだな、そう思った私の目に見えるのは、私を助けようと手を伸ばす銀髪の美少年だった。
竜獣人の美少年に溺愛されるちょっと不運な女の子のお話。
*魔獣、獣人、魔法など、何でもありの世界です。
*お気に入り登録、しおり等、ありがとうございます。
*本編は完結しています。
番外編は不定期になります。
次話を投稿する迄、完結設定にさせていただきます。
異世界から来た華と守護する者
桜
恋愛
空襲から逃げ惑い、気がつくと屍の山がみえる荒れた荒野だった。
魔力の暴走を利用して戦地にいた美丈夫との出会いで人生変わりました。
ps:異世界の穴シリーズです。
【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!
桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。
「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。
異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。
初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!
『えっ! 私が貴方の番?! そんなの無理ですっ! 私、動物アレルギーなんですっ!』
伊織愁
恋愛
人族であるリジィーは、幼い頃、狼獣人の国であるシェラン国へ両親に連れられて来た。 家が没落したため、リジィーを育てられなくなった両親は、泣いてすがるリジィーを修道院へ預ける事にしたのだ。
実は動物アレルギーのあるリジィ―には、シェラン国で暮らす事が日に日に辛くなって来ていた。 子供だった頃とは違い、成人すれば自由に国を出ていける。 15になり成人を迎える年、リジィーはシェラン国から出ていく事を決心する。 しかし、シェラン国から出ていく矢先に事件に巻き込まれ、シェラン国の近衛騎士に助けられる。
二人が出会った瞬間、頭上から光の粒が降り注ぎ、番の刻印が刻まれた。 狼獣人の近衛騎士に『私の番っ』と熱い眼差しを受け、リジィ―は内心で叫んだ。 『私、動物アレルギーなんですけどっ! そんなのありーっ?!』
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる