転生からの魔法失敗で、1000年後に転移かつ獣人逆ハーレムは盛りすぎだと思います！

第五部

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　あれこれ買い込んで、広場の開いているベンチに座る。食べ歩くことも出来るとは思うが、人はそれなりにいて込んでいるし、少しよそ見をすればさっきのように誰かとぶつかってしまいそうだから、どこかで落ち着いて食べた方がいいだろう。

　白い服を着ている人ばかりなので、もしぶつかって食べ物でもつけてしまったら汚れが目立つ。揉め事になるのは分かり切っているし、もしあっさり許してもらっても、その人は今日、汚れた祝集祭の服で祭りに参加しないと行けなくなる。
　それは流石に申し訳ない。

　ベンチに座ると、一番に焼き鳥の串にかぶりついた。焼き鳥、といっても、前世の居酒屋で食べたような、小ぶりの肉がいくつかついているものではなく、チキンステーキに串を刺したようなものだ。

「やば、美味しい」

　柔らかい鳥肉と、たっぷりの肉汁、それとたれが非常にマッチしていて美味しい。
　買ってきたものはどれもウィルフが選んだものだが、これは他も期待出来そうだ。流石、いろいろな店で物を食べているだけある。この街の、料理が美味しいお店はウィルフに聞くのが一番なんじゃないだろうか。

　ぺろっと一本食べてしまうと、わたしはちょっと行儀が悪いのは分かっているけれど、指の腹を軽く舐めた。たれがついてしまって、すごくべったりしていたのだ。
　イエリオとかフィジャ相手だと、マナーにうるさそうだからあまり出来ないけど、ウィルフ相手だとうるさく言わなそうだからつい、その辺は気が緩んでしまう。

「――なあ」

　ウィルフの声に、顔を上げると、鼻をきゅっとつままれた。「んぎゅ」と変な声が出てしまう。
　ウィルフにしてはなんか固い感触だな、と思っていたら、紙ナフキンでわしゃわしゃと鼻を拭かれた。

「鼻にもついてたぞ」

　気が付かなかった。そんなに慌てて食べたつもりはなかったんだけど。恥ずかしさに、つい、鼻を触ってしまった。

「屋台に夢中になって他人とぶつかったり、鼻や手をたれでべとべとにするとか、ガキかよ」

　ふっとウィルフが笑う。言いぐさとは裏腹に、優しい声音と、柔らかい笑み。
　なかなか見れないその表情にドキドキしながらも、わたしは照れ隠しをするように、次なる食べ物にかぶりついた。

「あっ、これ美味しい！」

　しょっぱいやつの次は甘いやつ、と、穴のないドーナツのような揚げパンらしきものを食べたのだが、めちゃくちゃ美味しい。

「ん、ぐ、ふふっ……」

　わたしのその代わり様が面白く、ツボに入ったらしい。ウィルフは珍しく、笑うのを堪えていた。
　でも、美味しいものは美味しいんだもん。

　じと、と反抗の意思を込めて軽く睨んだのがトドメだったらしい。ウィルフは声を上げて笑った。
　声を上げて笑う彼を見れることなんてなかなかないんじゃないだろうか。

　珍しいものを見た、ここまで打ち解けられたんだ、と軽く感動すらして、最初は黙っていたけれど――いや、それにしたって笑いすぎでは？
　しかし、何を言ってもさらに笑われる未来しか見えなかったので、元気に笑ってりゃいいよもう、と、ウィルフを無視して揚げパンドーナツを咀嚼するのだった。