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第三十七話 レジオ解放 その②
しおりを挟むデカいオークは、声も出さずに黒いバスタードソードを振りあげた。
「が!」
そのまま強力なたたき落とし。
「むん!」
こちらもバスタードソードを斜めにして、それを右に逸らした。
「ごあ!」
そんなこと予測もしていなかったのか、盛大に肩からがくりと体勢を崩す。
俺の目の前に、醜悪な顔と鋭い角が迫って来た。
「うら!」
反射的に、オークのこめかみにひざ蹴りを繰り出す。
めきょ!
厭な音がして、頭蓋骨にひびが入る感触。
「ごおおお!」
やっと悲鳴が聞けた。
「どおせえええい!」
担ぎあげたバスタードソードを、思い切りたたき落として、オークの眉間を割る。
「ごあああああ!」
黒っぽい血をまき散らして、咆哮を上げるオーク。
右手に持ったバスタードソードを、むちゃくちゃに振り回す。
バックリ開けた眉間からは、灰色の脳細胞がはみ出している。
もはや目は血糊で開けることもかなわず、足元もおぼつかない。
そりゃまあ、出血多量で目眩がするだろうさ。
「下がれラル。」
「お、おう。」
振り回すソードは、無茶苦茶でも、まぐれ当たりと言うこともある。
俺は慎重に、奴の背後に回る。
「おりゃ!」
狙いはたがわず、俺のバスタードソードは、ざくりとオークのアキレス腱に吸い込まれた。
オークの膝が、がくりと落ちる。
訳も判らず、オークがふるバスタードソードが、空を斬る。
もはや手振りなので、たいした剣圧もない。
「もういっちょう!」
メクラ蛇におじず。
メクラオークなんざ、恐くもねえ。
俺はためらいなく、もう一本のアキレス腱もぶった切った。
ここは、腰が引けちゃあいけねえ、がっしりと喰い込ませることこそ肝要だ。
ぱっと鮮血がほとばしり、オークはもう一方の膝もがくりと落ちる。
こうなると、歩くこともできない、血は流れて力も出ない。
オークは、剣を杖にぜーぜーと荒い息をついた。
「へへん、ザマミロ。」
ここで楽にはしてやらない。
オークの剣を持つ右手のひじから先に、短剣で切れ目を入れる。
縦に裂く感じ。
「ごおお!」
から~ん。
もちろん、オークのバスタードソードは、手から離れて床を滑る。
「ラル!」
「がってんでい!」
こうなると阿吽の呼吸だ。
ラルは、オークの剣を持って隅に逃げた。
オークは動く左手を振り回すが、力はない。
もう一方のひじ関節にも切れ目を入れると、心臓の鼓動に会わせてビュービューと血が噴き出す。
間欠泉のようだ。
「ごあ…」
オークは、大量の出血に動きが鈍くなり、やがて沈黙した。
「ふう、ラル、収納だ。」
「あいよ。」
男爵邸のダンスホールには、大量の血の池ができていた。
まるで、死の舞踏を踊った跡のようだ。
俺は魔法のウエーブを送り、男爵邸の内部を探る。
そうそう、パッシブソナーだよ。
あんな感じで、引っ掛かれば波が乱れて、こちらに伝わってくるんだよ。
「げげ、まだ三匹いるぞ。」
「え~。」
ラルも嫌そうな顔をしている。
「しゃあねえなあ、罠でもかけるかな。」
そう言っていると、二階の踊り場から剣が飛んでくる。
がきん!
「おわ!アブねえ!」
「ごわああああ!」
「がああああ!」
二階から二匹のオークが、剣と棍棒を持って飛び降りてきた。
ずるん!
がん!がん!
「「ごわああああ!」」
アホ、死んだオークの血糊に滑って、後頭部を思い切り床にぶつけている。
「アホやな。」
「うん。」
すかさず、マイナス三〇度!
オークの血はその場で凍りつく。
「ごわあああ」
「うごおおお」
アホ二匹は、その場で滑って立ち上がれなくなった。
「アイスアロー!」
ずががががががが!
二匹のオークにアイスアローが何十本と迫る。
そのうち何本かは一匹のオークの目に刺さり、そのまま脳天まで突き抜けた。
「ごあ!」
「やったね、ラッキー。」
一声吼えて、オークはその場に崩れた。
だが、幸運は続かない。
ぱす。
情けない音がして、アイスアローが途切れた。
「ほえ?」
「兄ちゃん!」
「ま、魔力切れ?」
ぱすぱす
「で~、魔法が出ねえ!」
「兄ちゃん休まねえと。」
「そ、そうか。」
「ごああああああ!」
血のスケートリンクから脱出したオークは、棍棒を振りまわして俺に迫る。
「どえええええ!」
オークの棍棒をよけながら、右に左に飛ぶ飛ぶ飛ぶ!
オークが氷を踏んで、ずりんと右足が前に滑った!
「おりゃあああああ!」
その、オークの脛に、思い切りバスタードソードを振り下ろした。
がきい!
ソードは足の真ん中に喰い込んで、そこから折れた。
「ちっ!」
折れたソードの握りを、オークの顔めがけて、おもきしブン投げる!
「ごあ!」
棍棒で避けるが、折れた刃がオークの手を傷つける。
「ぐわ!」
俺は、腰の袋から、チグリス謹製伝家の宝刀を引きぬいた。
「抜けば玉散る氷の刃、避けられるものなら避けてみるが好い!」
ざしゅ!
いくら頑丈なオークと言えども、足がハンバ切れていて、氷の上で立ち上がれない状態では抵抗も空しい。
延髄から綺麗に切れた。
首の三分の一は残ったが、そこを軸にオークの首がだらりと落ちた。
「で~!兄ちゃん、いくらいい剣だつっても、オークの首が切れるなんて聞いたこともねえ!」
「さすが名工チグリスだな。」
俺は、惚れ惚れと刀を見上げた。
がん!
ちゃり~ん
俺の手にあった剣が、弾き飛ばされて床に転がる。
あたりを見回すと、前方に黒い人影があった。
「ぐるるるる」
「おいでなすったな。」
さっき見つけた一番大きなオークの影。
どう見ても、こいつはオークキングだ。
頭にブッとい角が四本、黒い髪は若布のように上に向かって揺れている。
どうやら怒っている様子で、頭から湯気が出ている。
体は黒っぽい褐色、背中にはタテガミのように黒い毛が生えている。
手に持ったバスタードソードは、まるで短剣のように見える。
身長はどう見積もっても五メートルはありそうだ。
ぜんたい、どうやったらここまで育つもんなんだか?
軽く振った剣からの剣風は、こっちがふらつくほどの恐ろしい圧力だ。
オークキングが、最後の魔物なことはわかっているが、こいつばかりはどうしようもない。
「ラル、なんでもいいから逃げろ!もう、他に魔物はいない!」
「で、でも…」
「邪魔だ!おれの足を引っ張るな!」
「うう…」
ラルは、玄関から外に飛び出した。
そうでも言わないと、この場から出て行かないと思ったんだが、とにかくこいつをここから離さないと。
しかし、振り回す剣がシャンデリアを粉砕し、自分の頭にガラスが舞い散る。
「この野郎、どうしたら…」
魔力が枯渇して、魔法が使えない…
袋から短槍を取り出して、低く構える。
とにかくあの剣がヤバい。
せめてあの剣風だけでもなんとかできないものか?
し、しまった…
男爵邸から外に出るなんて、あいつの有利なフィールドじゃねえか!
やべえ!
あいつ、足はええんだよ!
こっちは必死になって走ってるってぇのに、余裕で追いついてきやがる!
俺は、路地を右に左に曲がりながら走る。
オークキングは、たまに家を破壊しながら追いかけてくる。
あいつには、俺は新鮮な食いものにしか見えてないのかもしれん。
「ごああああああ!」
まったく!
剣を離せ!
俺は、建物の隙間から短槍を投擲!
ざくり!
槍は、右の脇の下に命中して、かなり深く刺さった。
あそこは柔らかくて、なかなか鍛えられないところだからな。
オークキングは、痛みで剣をとり落とした。
がしょん!
重い音がする。
隙をついて、剣を持ってあとじさる。
「ごわあ!」
オークキングは、剣を取り戻そうと手を振りまわすが、脇の槍が邪魔をする。
左手で抜けばいいのに、そういう知恵はないのかね?
でも、手を振りまわしたおかげで、槍は抜けおちる。
オークキングはそれを持ち上げて振り回すが、すぐに家の角に当たってヘチ折れた。
「ごわ?」
その隙に、俺はバスタードソードを、隣の家の中に隠す。
さて、どう料理するか?
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