魔法刑事たちの事件簿

アンジェロ岩井

文字の大きさ
127 / 233
聖杯争奪戦編

名古屋城の戦いーその②

しおりを挟む
木部の出す手を見るなり、絵里子は思わず後ろに飛び跳ねる。
木部という男はどのような魔法を使うのだろうか。もしや、何かしらの写真に関係する魔法なのだろうか。
絵里子がそう考えた時である。タイミングを見計らったかのように、木部がカメラを取り出し、絵里子をシャッターに収めた。
「一体何をしたの……?」
「決まっているだろ?オレの魔法だよ、そのカメラに映されたら、最後……オレの意のままさッ!」
その言葉は嘘ではなかったらしい。絵里子がその場を動こうとした瞬間に。
「なっ、どうして、あたしの体が動かないのッ!」
そう、先ほど木部に写真を撮られた位置から一歩も動く事ができないのだ。
「写真と言っても、甘く見てもらっては困るね、写真というのはその場にあった出来事を永遠に保存しておくものなんでね、例えるのなら、20世紀になってから、歴代日本の首相やら、大統領の写真はハッキリと残っていて、今日の我々は初代内閣総理大臣の顔を容易に思い浮かべる事が出来るんだ……だが、決してその場からは動こうとしはしないんだ……それが、写真さッ!映像と違って、その場から動く事はできないが、そこで何があったのかを永遠に保存できるッ!」
つまり、木部が言いたいのは、自分がカメラに収めた人物は全て、その場に固定したままに出来るという事だろう。
回りくどい言い方ね。絵里子はそう毒づいたものの、決して口に出そうとはしない。
いずれ、来るであろう脱出のチャンスを伺うためである。
「よし、その場から動くなよ」
木部は武器保存ワーペン・セーブにもう一度締まったであろう45口径のオート拳銃を絵里子に向ける。
「悪く思うなよ、昌原会長にあんたを殺した事を告げれば、聖杯を手に入れる確率が格段に上がるとお喜びになるだろうからなッ!」
木部は銃をプルプルと震わせながら、言っていたので、これは教祖の機嫌を取るためにやっているのだと、絵里子は推測した。
「ねぇ、あたしを殺して、何かメリットでもあるのかしら?あたしを殺せば、孝ちゃんは間違い無く、あなたを殺すでしょうし、仮にそれを免れたとしても、あなたは第二級殺人容疑で無期懲役……いえ、下手したら、第一級殺人容疑で錠剤死の刑いや、辺境惑星の流域が確定するかもしれないわ」
絵里子はこの国の人間が恐れといると思われる、罰を次々と並べ立てる。木部も生唾を飲み込んでいる事から、現在は昌原への忠誠心と罰への恐怖の両方に苛まれているようだ。
さて、どう出るのかしら。絵里子は時間稼ぎにはこうやって、話を引き延ばすのが一番だと考えた。



孝太郎は木部は逃走したものの、絵里子がいるだろうから、安心だという考えはあったが、それでも、やはり、木部がどのような魔法を使うのかは知らないというのは孝太郎を途轍もなく不安な気持ちに押しやるのだ。
「なぁ、聡子」
「どうしたんだい?」
聡子は信者の一人に手錠をかけながら、孝太郎の言葉に答えた。
「悪いけれど、姉貴を見てきてくれないか?心配なんだ……」
「あんたも心配性だなぁ~絵里子さんなら、大丈夫だよ! すっごく強い魔法を使うのは、あんたも知ってるだろ?」
確かに、姉は自分の破壊の魔法とは対照的な何かを生み出す能力を使う。だけれど、あの魔法は、いや、この23世紀において使われている魔法の殆どは右腕を潰されると、何もできなくなってしまうのだ。
(姉貴の魔法は、どちらも右腕に頼らなければ、使えない……もし、相手の魔法が人物をその場に固定するような魔法だったら……?)
孝太郎は急いで、聡子に絵里子の元に行くように命令した。
「一体、どうしたんですか?あんな風に声を荒げるなんて、あなたらしも無いですよ」
明美が自分の右腕をギュッと抑えながら、言った。
「いいや、今回は嫌な予感がするんだ。何となく、木部だけじゃあなくて、何かもっと大きな、奴が動いているような……」
その時だ。誰かのパトカーのテレビが付けっ放しだったらしく、何かの討論番組が映っていた。
孝太郎は思わず、そのテレビに見入ってしまう。何故なら、そこには宇宙究明学会の顧問弁護士赤川友信とジャーナリストの実山聖子が映っていたからだ。
「あなた方の話を総合すると、小田原城での井川森繁の謎の行動は、全て彼らの暴走だと主張される訳ですね?」
「ええ、あれは井川森繁が勝手に信者を連れて、小田原で騒動を起こそうと、警察に逮捕されただけです」
赤川は何のためらいもなく言ってみせる。しかも、その言葉のどこにも『聖杯の欠けら』という言葉は入っていない。
上手く、隠し通すつもりなのだろうか。
「井川氏は教団の中でも、過激な主張している方でね、我々としても悔いているんですよ、昌原会長もどれだけ、自分を責めたか……」
赤川は勝ち誇ったような顔をしていた。
が、聖子は引き下がらない。今度は失踪した藤村誠弁護士のことを持ち出し、教団と赤川を追求する。
「教団は無関係です」
赤川はそうは言ったものの、一瞬だけ聖子を睨み付けたような表情をしたのを、孝太郎は見過ごさない。
「そうでしょうか?なら、彼が失踪したと思われる、弁護士事務所にあなたのイエスの紋章が落ちているでしょうか?」
その言葉に会場内が湧き立つ。それは、藤村誠弁護士失踪事件に、教団が関わっていたという決定的な証拠になるからだ。
だが、赤川は懸命に反論する。しかも、腕を組んだまま、余裕めかした表情で。
「イエスの紋章は我が教団に悪意を持つ人物が落としたのかもしれないかもしれないじゃないですか?藤村誠弁護士は他にも、様々な問題を抱えていたとも聞きますよ、暴力団関係者とも立ち退きをめぐる一件で、対立していたと……彼らが我々の犯行に見せかけるために、イエスの紋章を盗んで、投げ込んだのかもしれないじゃないですか?」
そこから、激昂したのか、赤川は強く机を叩いてから、聖子の顔を覗き込まんとばかりに、身を乗り出しながら、言った。
「他にも、彼は三年前のイル・モストロ見えない怪物事件にも関わっていました。犯人が我々と藤村弁護士が対立しているのをチャンスとして、藤村弁護士を誘拐したのかも、しれないじゃないですか!?」
イル・モストロ見えない怪物事件は三年前に発生した連続殺人事件で、犯人と思われるイタリア人がターゲットにしたのは(そのために、犯人の名称がイタリア語なのだ)若いカップルたちだった。犯人の手口は残酷極まるものであったのだが、あまりにも悲惨な手口の為に、ここでは割愛させていただきたい。
「犯行は確かに、三年間止んでいます。ですが、再び彼らが動き出したと見ても、よろしいのでは?」
「じゃあ、イル・モストロが何故、今になって、藤村弁護士を襲わなくては、ならないのかを教えてほしいわね」
「ですから! 好機を見つけたから、襲ったんだとさっきも言ったでしょう! 」
赤川は何度も何度も机を叩きながら、言った。
「あなた、おかしいわよ、どうして、そんなに声を荒げているの?」
「あなた方が我々に対して、宗教弾圧を行っているからです」
赤川は鼻息を膨らせながら言った。
と、ここで宇宙究明学会のもう一人の幹部村西秀夫が現れた。
「どうも、ご心配をお掛け致しました。ここからは、私が答えていきたいと思います」
ここで、コマーシャルが流れた。
(やはり、教団が関わっているんじゃあないのか?藤村弁護士の失踪事件には……?)
そう考えていた時だった。明美が何かを警戒するかのように、辺りを見渡す。
「どうしたんだ?」
孝太郎は疑問に思って、尋ねてみる。
「大変ですよ、あのトニー・クレメンテが、昌原の命を狙うために来日したらしいんです。あくまでも噂ですけれど……」
成る程。明美が周囲を警戒していた理由も分かった。トニーが来ないか見張っていたのだ。
「分かった。オレも警戒するとするよ」
孝太郎はリボルバーを握りながら言った。
しおりを挟む
感想 29

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

本能寺からの決死の脱出 ~尾張の大うつけ 織田信長 天下を統一す~

bekichi
歴史・時代
戦国時代の日本を背景に、織田信長の若き日の物語を語る。荒れ狂う風が尾張の大地を駆け巡る中、夜空の星々はこれから繰り広げられる壮絶な戦いの予兆のように輝いている。この混沌とした時代において、信長はまだ無名であったが、彼の野望はやがて天下を揺るがすことになる。信長は、父・信秀の治世に疑問を持ちながらも、独自の力を蓄え、異なる理想を追求し、反逆者とみなされることもあれば期待の星と讃えられることもあった。彼の目標は、乱世を統一し平和な時代を創ることにあった。物語は信長の足跡を追い、若き日の友情、父との確執、大名との駆け引きを描く。信長の人生は、斎藤道三、明智光秀、羽柴秀吉、徳川家康、伊達政宗といった時代の英傑たちとの交流とともに、一つの大きな物語を形成する。この物語は、信長の未知なる野望の軌跡を描くものである。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

強制ハーレムな世界で元囚人の彼は今日もマイペースです。

きゅりおす
SF
ハーレム主人公は元囚人?!ハーレム風SFアクション開幕! 突如として男性の殆どが消滅する事件が発生。 そんな人口ピラミッド崩壊な世界で女子生徒が待ち望んでいる中、現れる男子生徒、ハーレムの予感(?) 異色すぎる主人公が周りを巻き込みこの世界を駆ける!

サイレント・サブマリン ―虚構の海―

来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。 科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。 電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。 小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。 「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」 しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。 謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か—— そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。 記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える—— これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。 【全17話完結】

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件

こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。

処理中です...