魔法刑事たちの事件簿

アンジェロ岩井

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聖杯争奪戦編

名古屋城の戦い

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昌原道明こと、松中鈴雄が名古屋城へと派遣した弟子は木部義栄という教団専属のカメラマンであり、尚且つ教団の中では強い魔法師に位置する男であった。
木部は海賊黒ひげのような顎髭を生やし、どこか鋭いサメのような目をした男である。教団では教祖の昌原を始め、多くの幹部の写真を鮮明に撮る男であった。
「お前は、これから名古屋城に向かうんだ。いいな、これはワシの意思でもあり、聖なる我らが主イエス・キリストの意思でもあるんだ。絶対に失敗したりするなよ」
昌原は念を押すためだろうか、木部の前に指した人差し指で丸をかきながら言った。
「善処いたします」
木部はそれだけ言うと、教団の名古屋支部を跡にした。昌原のために作られた地下の瞑想室の階段を登っていくのが確認できた。
「よし、いいぞ……聖杯の欠けらをワシの手に握らせるんだ」
昌原は興奮しているのだろうか、いつの間にか作っていた両手の拳をプルプルと震わせていた。
「そして、時間を支配して、ワシはこの国の教皇となれる……」
昌原は自分のみを崇拝し、忠誠を誓うロボットの国を思い描く。子供の頃に昌原はギムジナウムの先生に将来は何になりたいかと尋ねられた時と同じ夢を今も夢見ている。驚いた、真面目そうな女性の担任はかけていた黒縁の大きな丸メガネを上下させながら、昌原に繰り返し質問する。
「鈴雄くんはどうして、ロボットの国を作りたいの?」
「ぼく、ロボットが好きなんだ! ロボットは人間の言う事を何でも聞いてくれるでしょ! 」
と、無邪気に答えた。
その時に担任の先生にはこの子は将来は恐ろしい子になると囁いていたそうだが、そんな事は昌原にとってはどうでもいい事だった。
今の昌原の頭にはロボットの国の事ばかりが浮かび上がっていた。


孝太郎たちが名古屋に到着したのは、木部が昌原に名古屋城に向かわされる1時間ほど前であった。一行が名古屋駅に降り立つなり、名古屋県警に連れ去られ、パトカーに乗せられ、名古屋城へと案内される。
「一体、何があったんですか?おれ達を急に攫うように、連れて行くなんて! 」
孝太郎はいきなりの事で、気が動転していたが、抗議するところはハッキリと抗議する事にした。
すると、助手席の若い警官の視線が下に俯くのを確認する。それから、警官は鼻と口の前に右手の側面を当てながら、
「本当に申し訳ありませんでした。ですが、宇宙究明学会は既に名古屋城に手を出そうとしているのです」
その言葉を聞くなり、孝太郎の顔色が変わるのを隣の席に座っていた絵里子は確認した。そう、猿のように真っ赤だった顔から、いつものハンサムな青年に変わるのを。
「で、我々は何をすれば?」
「簡単な事です。名古屋城に侵入し、聖杯の欠けらを奪おうとする賊を捕らえて欲しいのです」
助手席の警官の代わりに答えたのは、運転手の髪も白く染まった壮年の警察官である。
「おれのどこを見て、そう判断したんですか?それに、あなた方も知っていると思いますが、車を動かしている時にトラブルに……」
その孝太郎の言葉を聞くなり、初老の警官は空いている左手で制服の襟を引っ張りながら言う。
「井川森繁の逮捕ですよ、小田原城でのあなたの逮捕劇は見事なものでした、我々はあなたの手腕に期待しているんです。勿論、後ろの二人も……」
恐らく、もう片方のパトカー。つまり、後方のパトカーの後部座席に座っている明美と聡子の二人の事だろう。
「分かりました。名古屋城では懸命にやらせていただきますよ、ですが、その代わりに……」
「分かっていますよ、現場の封鎖でしょう?我々も警察官ですから……それくらいは心得ていますよ」
と、バツが悪そうに言っている初老の警官の姿を見ながら、孝太郎は申し訳ない事をしてしまったなと、自責の念に駆られてしまう。



木部義栄はこの名古屋城に着くやいなや、観光客の姿が少ないのを変に思う。
どうして、こんなにも歩いている人達がまばらなのだろうか。そして、この人たちがどうして、揃いも揃って城の方ではなく、入口の方へと向かって行くのだろうか。
木部はそう考えた瞬間に思わず身震いしてしまう。それはまさに全身を震わせる震えであった。
(まさかな……)
木部は自分の頭の中にこびり付いて離れそうにない、ある考えを頭を大きく横に振りかざして、打ち消す。
(気のせいだ……おれには昌原道明会長が付いているんだ)
木部がそう考え込んでいた時である。仲間の一人が何かに気がついたらしく、木部を肘で小突く。
木部が背後を振り返ると、そこには……。
「その服からすると、宇宙究明学会の信者だな?大丈夫だ。大人しく着いてくれば、手荒な真似はしないさ」
昌原道明会長の信頼する弟子の一人である井川森繁を逮捕した中村孝太郎が45口径の拳銃をあろう事か、自分の頭に突きつけていた。
「おれに何か用なのか?」
「とぼけるな、用件はもう分かっているだろ?」
聖杯の事を勘付かれたらしい。木部としてはここで誤魔化したい所なのだが、彼の凶悪殺人犯を見るような目から察するに、もはや、口で誤魔化せるものではないだろう。
木部は武器保存ワーペン・セーブから、直ぐさま38口径のリボルバーを取り出し、孝太郎にその銃口を向ける。
それを合図に他の信者達も、一斉に武器保存ワーペン・セーブから、AK47を取り出し、その銃口を孝太郎に向ける。
「悪いけれど、あんたに簡単に殺される程にオレは甘くないんでね、これでも昌原道明会長のカメラマンを務めている男だぜ」
木部はぎごちない笑顔を浮かべながら言った。そして、忙しなさそうに下唇を動かす。
「なら、どちらの方が早いか……競いあってみないか?」
孝太郎は45口径のオート拳銃を木部の頭上に定め続けている。
「いいだろう、オレの銃の方が早いに決まっているッ!」
木部が銃を発砲しようとした時だ。仲間の一人が何者かに襲われるのを。いや、この場合「襲う」という言葉は適切な言葉ではないだろう。何故なら、孝太郎の周りを囲っていた左端の仲間のを抑えたのは、制服を着た警察官だったから。そして、彼の逮捕をキッカケに他の仲間たちも次々と逮捕されていく。
「……」
「お前の言いたい事は分かる……どうして、自分たちが逮捕されているのか、分からないという事だろ?」
「……」
相変わらず、木部は答えない。
「簡単さ、あんたらがここに来るのを予測していた……とでも、言っておくよ」
木部は悔しさからか、歯をギリギリと噛み締めていた。
「逮捕の時間だ、信者さん」
孝太郎は何の感情も込めずに言った。いや、もしかしたら、その言葉には自分には気が付かなかっただけで、どこか憐れみのような感情が入っていたのかもしれない。
いずれにせよ、木部には選択権がない。
無論、警察に逮捕されるという筋書きは木部にはない。なので……。
木部は空中に拳銃を発砲し、孝太郎やその他の警察官を驚かせた後に、名古屋城へと向かう。仲間の殆どは捕まえられてしまったが、自分の身だけは無事だ。
後は聖杯の欠けらを手に入れるだけ……。
だが、そんな木部の砂糖水のように甘い考えはすぐに打ち砕かれてしまう。
「ふふふ、あなたがこのルートを通るのは予測済みよ、孝ちゃんが万一の場合に備えて、あたしに名古屋城天守閣の前で待ち構えていてほしいと言われていたのよねぇ~」
間違いない。孝太郎の姉の折原絵里子だ。まさか、彼女までいたとは。木部としては不測の事態ばかりが続いたのだが、幸いにも、ここにいるのは絵里子一人のみ。
「そこを退いてもらおうか」
木部は自分の右腕を見せながら尋ねる。
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