メトロポリス社へようこそ! ~「役立たずだ」とクビにされたおっさんの就職先は大企業の宇宙船を守る護衛官でした~

アンジェロ岩井

文字の大きさ
2 / 237
第一章『伝説の始まり』

2

しおりを挟む
「しかし、大丈夫でしょうか?」

 大津修也は不安気な様子で運転席の女性に向かって問い掛けた。

「大丈夫ですよ。いくらコンピューターによる適性検査に合格したといってもあなたはまだ素人です。まずは御社にて適切な研修を行いますのでそこはご安心くださいねー」

 運転席の女性は随分と気楽な口調で言った。まるで、幼稚園のバスで幼稚園に向かうことを不安がる児童を慰める保育士のようであった。
 修也はそれを聞いても侮辱に顔を赤く染めるどころか、なお顔を青ざめながら、

「そうですか」

 と、尻すぼみした様子を見せていた。

 修也はあの後疲れが溜まってしまったのか、そのまま地面の上に倒れ込んでしまったらしい。なかなか帰ってこない夫を心配した妻によって部屋に運ばれたらしく、修也は一晩中眠りに就いていた。翌日スーツ姿のまま妻に起こされ、迎えに来たという球型の浮遊車エアカーへと乗り込んだのであった。

 浮遊車エアカーは凄まじいスピードを出しながら首都圏を走っていく。
 浮遊車エアカーのために作られた真空管の高速道路を30分ほど走ったかと思うと、東京都の丸の内に位置する『メトロポリス』本社の前へとあっという間に到着した。

 かつての自分、いいや自分の周りの人たちの給料であるならばガソリンで動く四輪車しか買えなかったので、いつかはこの車に乗ってみたいと密かに夢見ていたものだが、まさかこうした形で乗る羽目になるとは夢にも思わなかった。
 ぼやぼやとしていると運転手の女性に案内され、巨大なビルへと誘われていく。

 そのビルは見上げれば首が痛くなるほどの大きさを誇っていた。玄関の表札には切り文字で『メトロポリス』と記されていた。
 日本でも有数の大企業とされる『メトロポリス』の本社ということもあり、玄関も立派だ。セキリュティシステムとして一人一人を識別するセンサーが導入されているし、人間の警備員の代わりとしてアンドロイドの警備員が門の前に立って玄関を行き来する人々を睨んでいる。

 制服の肩の部分には無線機のようなものがあり、そこと連動した監視カメラが作動し、不法侵入者を彼らの手で弾いていくというシステムになっているのだろう。
 修也は思わず気遅れしてしまったが、心して会社の中へと入っていった。
 何百階もある巨大企業というだけのこともあり、移動は大きなエレベーターを使った。

 階と階の移動には前時代的な階段を使っていた前の企業とは大違いである。
 修也はエレベーターの中で改めて自分がどうしてこんな巨大企業に選ばれたのかを思案していく。
 難しく考え続けていたが、理由は思い浮かばない。自分はそんなに有名な大学を出た覚えも優秀な資格を収めた覚えもない。

 四十四年間の人生において自慢できることは都心の郊外でありながらも一軒家を建てることができたこと、二人の子どもを高校生まで育てることができたことくらいだ。

 あとは酒や煙草を嗜む程度にしか楽しまないこと、それからこれまでの人生を女房一筋で過ごしてきたことくらいだろうか。

 だが、そんなものが転職のスキルに結び付くとは思えない。
 修也がエレベーターの中で難しい顔をしながら考えていると、先ほどの女性が満面の笑みを浮かべながら言った。

「着きましたよ」

 エレベーターの大きな扉の向こう側には大きな社長室が広がっていた。
 大きな本棚が広がり、その中央には応接用のソファーと椅子が置かれている。
 そして、その一番向こうには社長のための大きなデスクが置かれていた。

 背後には大都会を一望できる巨大なガラスが張り詰められている。
 何か書き物をしていた社長は女性と修也の姿が見えるのと同時にペンを止めて社長室の椅子の上から立ち上がったのであった。

「初めまして、私がメトロポリスの社長、フレッドセン=克之かつゆき村井むらいです。以後お見知り置きを」

 と、フレッドセン社長は自らの手を差し出した。

 修也がその手を受け取ると、想像していた以上に社長の手が大きいことに気が付いた。それは社長がハーフだからだろうか。
 修也はフレッドセン社長の日本人離れした金色の髪に青色と黒色の瞳というオッドアイ、それに高い鼻に引き締まった体型を見て納得せざるを得なかった。
 フレッドセン社長は修也がマジマジと見ていることに気が付き、クスクスと笑うと、

「なんです。そんなに見つめられると照れてしまうではありませんか」

 と、冗談混じりに言った。それを見た修也は慌てて頭を下げて非礼を詫びた。
 だが、フレッドセン社長は気にしていないらしい。
 彼は満面の笑みを浮かべながら修也を許したのであった。
 握手を終えた後はフレッドセン社長自らが淹れたほうじ茶と子饅頭のセットを修也へと差し出す。

「きょ、恐縮です。社長自らそのような真似をしていただくだなんて」

「なぁに、気にする必要はありませんよ。あなたは近い未来に我が社を……いいや、アンドロイドと人類の将来を担っていく存在なんです。むしろ、私がこれくらいしなくてどうするんですか?」

「あ、アンドロイドと人類の未来!?」

 修也からすれば寝耳に水の出来事であった。自分は単に大企業『メトロポリス』に職があるというだけで社長の後ろで和かに笑っている女性に従ってやって来ただけに過ぎないのだ。

 それに自分には人並みの平凡な人生しか進んできていない。とてもではないが、アンドロイドと人類との共存などという大任を自分の手で果たすことができるようになるとは思えなかった。

 せっかくの優良企業の内定ではあるが今となっては辞退した方が良さそうだ。修也は席を立とうしたのだが、フレッドセン社長によって半ば強引に席へと戻されてしまう。
 いわゆる細マッチョの体系であるフレッドセン社長に対し、修也は痩せ方なのだ。

 あちらこちらにあばら骨が見えている。いわゆる痩せたおじさんである。
 そんな人物が一角の体型を持つ人物に勝てるわけがない。
 修也は体格さが改めて浮き彫りとなったことで萎縮し愛想笑いを浮かべながら席に戻った。これで場の空気が和ごめばよいかと考えていたが、修也に対するフレッドセン社長の表情は真剣そのものであった。

「いいですか、大津さん。私はあなたを我が社の一員として是非とも迎え入れたいんです。もし来てくださるのならば前職の年収における三倍の報酬をお約束致します。そればかりではありません。会社の方からあなたにさまざまな特典をお付けいたしますよ」

「特典?」

「えぇ、まずはこれをご覧ください」

 フレッドセン社長はその大きな手で指を鳴らした。すると、あちらこちらからモニターのディスプレイが表示されてそれぞれの映像の中にジムを楽しむ女性の姿やプールで楽しげに泳ぐ男性の姿、別荘と思われる田舎の豪邸のベンチの上でくつろぐアロハシャツ姿の男女の姿などが映し出されていく。

「これは我が社が引き抜いた方に対して特別に与えられる報酬の一部です。無論、これは家族にも適応されます」

 そういえば家族に対して最後に旅行に連れて行ってあげたのはいつの日のことだっただろうか。
 修也は遠き日の記憶に想いを馳せて行ったが、ついに答えには辿り着けなかった。
 とてもではないが旅行に行く余裕などなかったのだ。
 海外旅行などもってのほか、国内ですら行ったことがない。
 そんな修也に対してフレッドセン社長はフレンドリーな笑顔を浮かべながら言った。

「どうぞ、これは御社に入社した人に与えられる当然の権利ですので、宜しければご家族と共に向かわれてはいかがですか?」

 提示される条件は破格だ。受け入れた方がいいだろう。修也はフレッドセン社長が差し出したお茶を啜りながら思った。
 だが、次のフレッドセン社長の言葉で修也は凍りつくことになってしまう。

「引き受けてくださいますね? 我が社の無人惑星からの積荷を宇宙生物や蛮族たちの手から護衛する『ガーディナル守人』の仕事を」


しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

異世界宇宙SFの建艦記 ――最強の宇宙戦艦を建造せよ――

黒鯛の刺身♪
SF
主人公の飯富晴信(16)はしがない高校生。 ある朝目覚めると、そこは見たことのない工場の中だった。 この工場は宇宙船を作るための設備であり、材料さえあれば巨大な宇宙船を造ることもできた。 未知の世界を開拓しながら、主人公は現地の生物達とも交流。 そして時には、戦乱にも巻き込まれ……。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

蒼穹の裏方

Flight_kj
SF
日本海軍のエンジンを中心とする航空技術開発のやり直し 未来の知識を有する主人公が、海軍機の開発のメッカ、空技廠でエンジンを中心として、武装や防弾にも口出しして航空機の開発をやり直す。性能の良いエンジンができれば、必然的に航空機も優れた機体となる。加えて、日本が遅れていた電子機器も知識を生かして開発を加速してゆく。それらを利用して如何に海軍は戦ってゆくのか?未来の知識を基にして、どのような戦いが可能になるのか?航空機に関連する開発を中心とした物語。カクヨムにも投稿しています。

俺得リターン!異世界から地球に戻っても魔法使えるし?アイテムボックスあるし?地球が大変な事になっても俺得なんですが!

くまの香
ファンタジー
鹿野香(かのかおる)男49歳未婚の派遣が、ある日突然仕事中に異世界へ飛ばされた。(←前作) 異世界でようやく平和な日常を掴んだが、今度は地球へ戻る事に。隕石落下で大混乱中の地球でも相変わらず呑気に頑張るおじさんの日常。「大丈夫、俺、ラッキーだから」

S級スキル『剣聖』を授かった俺はスキルを奪われてから人生が一変しました

白崎なまず
ファンタジー
この世界の人間の多くは生まれてきたときにスキルを持っている。スキルの力は強大で、強力なスキルを持つ者が貧弱なスキルしか持たない者を支配する。 そんな世界に生まれた主人公アレスは大昔の英雄が所持していたとされるSランク『剣聖』を持っていたことが明らかになり一気に成り上がっていく。 王族になり、裕福な暮らしをし、将来は王女との結婚も約束され盤石な人生を歩むアレス。 しかし物事がうまくいっている時こそ人生の落とし穴には気付けないものだ。 突如現れた謎の老人に剣聖のスキルを奪われてしまったアレス。 スキルのおかげで手に入れた立場は当然スキルがなければ維持することが出来ない。 王族から下民へと落ちたアレスはこの世に絶望し、生きる気力を失いかけてしまう。 そんなアレスに手を差し伸べたのはとある教会のシスターだった。 Sランクスキルを失い、この世はスキルが全てじゃないと知ったアレス。 スキルがない自分でも前向きに生きていこうと冒険者の道へ進むことになったアレスだったのだが―― なんと、そんなアレスの元に剣聖のスキルが舞い戻ってきたのだ。 スキルを奪われたと王族から追放されたアレスが剣聖のスキルが戻ったことを隠しながら冒険者になるために学園に通う。 スキルの優劣がものを言う世界でのアレスと仲間たちの学園ファンタジー物語。 この作品は小説家になろうに投稿されている作品の重複投稿になります

現代錬金術のすゝめ 〜ソロキャンプに行ったら賢者の石を拾った〜

涼月 風
ファンタジー
御門賢一郎は過去にトラウマを抱える高校一年生。 ゴールデンウィークにソロキャンプに行き、そこで綺麗な石を拾った。 しかし、その直後雷に打たれて意識を失う。 奇跡的に助かった彼は以前の彼とは違っていた。 そんな彼が成長する為に異世界に行ったり又、現代で錬金術をしながら生活する物語。

帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす

黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。 4年前に書いたものをリライトして載せてみます。

処理中です...