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第一章『伝説の始まり』
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突然の宣告を受け、差し出されたお茶を手にしたまま凍ったように動かない修也に対してフレッドセンは自身の顔を近付け難しそうな顔を浮かべながら言った。
「大津さんあなたもご存知でしょう? 我が地球から植民星から荷物を運ぶ宇宙船のことを」
修也は小さく首を縦に動かす。
それを見た村井は満足そうな笑みを浮かべながら問い掛けた。
「どうでしょうか、大津さん。最新技術を誇る我が社の様子は?」
「いや、素晴らしいの一言に尽きますな。前職が小さな企業であったものですから、余計にその……ギャップのようなものを感じます」
お世辞ではない。心の底からの賛辞であった。それを聞いて、フレッドセンが笑みを浮かべながら言った。
「気に入っていただけたようで何よりです。それでは、我が社に入社していただけますか?」
「は、はぁ」
しかし、修也はまだ気が乗らない様子であるらしい。どこか曖昧な調子で言葉を返していた。
「まだ不満があるんですか」
水色のワンピースを着た女性は両頬を膨らませて不満気に訴えた。
だが、修也としてはどこか引っ掛かって仕方がなかったのだ。
『メトロポリス』のような巨大企業が自分のような市場価値が低いサラリーマンをわざわざ雇うメリットが思い浮かばないのだ。
自分の仕事のできなさぶりは年下の上司にも酷評されていたほどであるし、『ロトワング』を身に付けて行う仕事が酷なものであることはテレビや電子式新聞を通して知っていた。
『ロトワング』。それは人間を宇宙空間にも適用することができる魔法の服であった。人類の叡智の象徴であり、同時にこれまでアンドロイド専属となっていた仕事を人類が行うための道具であったのだ。
というのも、これまでアンドロイドは人類に変わって危険な惑星への荷物の運搬作業や各惑星における貿易調査などを行い、人類と他惑星の交易を手伝ってきたからだ。
その任務を生きた人間が行うことで人類はようやくアンドロイドと対等な立ち位置に立てるというのが昨今の世界における風潮であった。
少なくとも有識者とされる人々はインターネット番組や電子ニュースの誌面上においてはそのような主張を繰り返していた。
アンドロイドと人類との共存はフェアなものではない。人類が『ロトワング』を身に付け、同じ土俵に立つことで初めて共存が成り立つのだ、と。
その土俵へと降り立つための装置を作り上げたのが『メトロポリス』社であった。
その『メトロポリス』の一員として働けるというのならばそれまでの企業とは比較にならないほどの美味い汁が啜れるだろう。
妻に対する負担も減るだろうし、二人の子どもにもいい教育を受けさせられるし、いい学校にやることもできるだろう。
正直なところ修也としてはフレッドセンの意向を受け、このまま『メトロポリス』に就職したかった。
そのことを伝えると、水色のワンピースを着た女性は笑顔を向けながら、
「大丈夫ですよ、なーんにも不安はいりません。研修中であったとしてもお給金の方は支給致しますし、社内では正社員と同じ待遇を受けられますよ」
ワンピースの女性から伝えられた言葉は今の自分からしてみれば破格の条件のように思えてならなかった。
だが、どうも引っ掛かってしまった。まるで、喉の奥に魚の小骨が引っかかって取れないような違和感が残ったのだ。
それでも修也がその場から動けずにいたのは破格の条件というものに目を奪われてしまっていたからだ。
そればかりではない。『メトロポリス』からの内定を蹴ったというのならばまた新たに職を見つけなくてはならない。
21世紀の時代とは異なり、22世紀の現在ではインターネットのタウンワークページからオンラインを通して自由に各企業のAIとコンタクトを取ることができるが、それでも手間であることに変わらない。
修也は今現在感じている違和感と家族の生活を守るためだという一面を天秤にかけた。しばらくの間は声を唸らせていたが、しばらくの後に違和感を無理やり引っ込めて生活を取るということを決めた。
修也が内定承諾の旨を伝えると、青色のワンピースを着た女性は手を叩いて喜ぶ姿を見せた。
「そうですか! それはよかった! きっと、社長もお喜びになられるとお思いますよ!」
内定を受け入れた修也はその後目の前の女性が映し出したモニターの中に記された契約書に己の人差し指を差し込み、契約書の内容に合意を示す旨を書き記していく。
「おめでとうございます。これであなたも我が社の一員ですよ!」
「こ、光栄ですな」
修也はまだ緊張が抜けないらしい。寛大な笑顔を見せる社長に向かってペコペコと頭を下げている。水色のワンピースを着た女性はそんな修也の姿が面白くて仕方がなかったらしい。口元に笑みを浮かべながら肩の力を抜くように指示を出す。
「そ、そうですか」
「えぇ、じゃあこれから『ロトワング』の試着室にご案内致しますね」
水色のワンピースを着た女性は修也を更に別室へと案内していく。いくつもの声認証や指紋認証のシステムを潜り抜けて二人がたどり着いたのは『メトロポリス』社の最奥部に存在する『ロトワング』の保管室である。
培養液が入ったカプセルの中には修也からすればネットニュースでしか見たことがないような宇宙開発や対外宇宙生命体用のパワードスーツが所狭しと並べられていた。その中でも一際目立っていたのが中央に飾られている満月なような光を帯びた兜に銀色の装甲を纏った黒色のパワードスーツだった。
修也が予想もしなかったような大物を見て思わず圧倒されていると水色のワンピースを着た女性が笑顔を浮かべながら解説を行なっていく。
「こちらが大津さんが着用されることになられる『ロトワング』の我が社が誇る最新式モデル『メトロイドスーツ』となります」
修也は呆気に取られた。目の前に起きていることが信じられずまだカプセルの中に眠っているパワードスーツをマジマジと見つめていた。契約書によればこれを自分が着用して植民星で社員を守るため多くの宇宙生物と戦っていくということだが、果たして自分にできるのだろうか。
この時修也の頭の中に強い不安が過ぎっていく。それは今後のことであった。もし自分が植民星で殉職してしまうようなことがあれば誰が家族を食べさせていくのだろうか。もし自分が宇宙の中で朽ち果ててしまえば墓も建てられず、永久に忘れ去られてしまうのではないだろうか。
修也は仮定の恐怖を受け耐え切れなくなってしまい、両手で頭を抱えて蹲ってしまった。水色のワンピースを着た女性は保育士の女性が怒られて泣いている園児を宥めるかのように修也の背中を優しく摩っていくのであった。
「大津さんあなたもご存知でしょう? 我が地球から植民星から荷物を運ぶ宇宙船のことを」
修也は小さく首を縦に動かす。
それを見た村井は満足そうな笑みを浮かべながら問い掛けた。
「どうでしょうか、大津さん。最新技術を誇る我が社の様子は?」
「いや、素晴らしいの一言に尽きますな。前職が小さな企業であったものですから、余計にその……ギャップのようなものを感じます」
お世辞ではない。心の底からの賛辞であった。それを聞いて、フレッドセンが笑みを浮かべながら言った。
「気に入っていただけたようで何よりです。それでは、我が社に入社していただけますか?」
「は、はぁ」
しかし、修也はまだ気が乗らない様子であるらしい。どこか曖昧な調子で言葉を返していた。
「まだ不満があるんですか」
水色のワンピースを着た女性は両頬を膨らませて不満気に訴えた。
だが、修也としてはどこか引っ掛かって仕方がなかったのだ。
『メトロポリス』のような巨大企業が自分のような市場価値が低いサラリーマンをわざわざ雇うメリットが思い浮かばないのだ。
自分の仕事のできなさぶりは年下の上司にも酷評されていたほどであるし、『ロトワング』を身に付けて行う仕事が酷なものであることはテレビや電子式新聞を通して知っていた。
『ロトワング』。それは人間を宇宙空間にも適用することができる魔法の服であった。人類の叡智の象徴であり、同時にこれまでアンドロイド専属となっていた仕事を人類が行うための道具であったのだ。
というのも、これまでアンドロイドは人類に変わって危険な惑星への荷物の運搬作業や各惑星における貿易調査などを行い、人類と他惑星の交易を手伝ってきたからだ。
その任務を生きた人間が行うことで人類はようやくアンドロイドと対等な立ち位置に立てるというのが昨今の世界における風潮であった。
少なくとも有識者とされる人々はインターネット番組や電子ニュースの誌面上においてはそのような主張を繰り返していた。
アンドロイドと人類との共存はフェアなものではない。人類が『ロトワング』を身に付け、同じ土俵に立つことで初めて共存が成り立つのだ、と。
その土俵へと降り立つための装置を作り上げたのが『メトロポリス』社であった。
その『メトロポリス』の一員として働けるというのならばそれまでの企業とは比較にならないほどの美味い汁が啜れるだろう。
妻に対する負担も減るだろうし、二人の子どもにもいい教育を受けさせられるし、いい学校にやることもできるだろう。
正直なところ修也としてはフレッドセンの意向を受け、このまま『メトロポリス』に就職したかった。
そのことを伝えると、水色のワンピースを着た女性は笑顔を向けながら、
「大丈夫ですよ、なーんにも不安はいりません。研修中であったとしてもお給金の方は支給致しますし、社内では正社員と同じ待遇を受けられますよ」
ワンピースの女性から伝えられた言葉は今の自分からしてみれば破格の条件のように思えてならなかった。
だが、どうも引っ掛かってしまった。まるで、喉の奥に魚の小骨が引っかかって取れないような違和感が残ったのだ。
それでも修也がその場から動けずにいたのは破格の条件というものに目を奪われてしまっていたからだ。
そればかりではない。『メトロポリス』からの内定を蹴ったというのならばまた新たに職を見つけなくてはならない。
21世紀の時代とは異なり、22世紀の現在ではインターネットのタウンワークページからオンラインを通して自由に各企業のAIとコンタクトを取ることができるが、それでも手間であることに変わらない。
修也は今現在感じている違和感と家族の生活を守るためだという一面を天秤にかけた。しばらくの間は声を唸らせていたが、しばらくの後に違和感を無理やり引っ込めて生活を取るということを決めた。
修也が内定承諾の旨を伝えると、青色のワンピースを着た女性は手を叩いて喜ぶ姿を見せた。
「そうですか! それはよかった! きっと、社長もお喜びになられるとお思いますよ!」
内定を受け入れた修也はその後目の前の女性が映し出したモニターの中に記された契約書に己の人差し指を差し込み、契約書の内容に合意を示す旨を書き記していく。
「おめでとうございます。これであなたも我が社の一員ですよ!」
「こ、光栄ですな」
修也はまだ緊張が抜けないらしい。寛大な笑顔を見せる社長に向かってペコペコと頭を下げている。水色のワンピースを着た女性はそんな修也の姿が面白くて仕方がなかったらしい。口元に笑みを浮かべながら肩の力を抜くように指示を出す。
「そ、そうですか」
「えぇ、じゃあこれから『ロトワング』の試着室にご案内致しますね」
水色のワンピースを着た女性は修也を更に別室へと案内していく。いくつもの声認証や指紋認証のシステムを潜り抜けて二人がたどり着いたのは『メトロポリス』社の最奥部に存在する『ロトワング』の保管室である。
培養液が入ったカプセルの中には修也からすればネットニュースでしか見たことがないような宇宙開発や対外宇宙生命体用のパワードスーツが所狭しと並べられていた。その中でも一際目立っていたのが中央に飾られている満月なような光を帯びた兜に銀色の装甲を纏った黒色のパワードスーツだった。
修也が予想もしなかったような大物を見て思わず圧倒されていると水色のワンピースを着た女性が笑顔を浮かべながら解説を行なっていく。
「こちらが大津さんが着用されることになられる『ロトワング』の我が社が誇る最新式モデル『メトロイドスーツ』となります」
修也は呆気に取られた。目の前に起きていることが信じられずまだカプセルの中に眠っているパワードスーツをマジマジと見つめていた。契約書によればこれを自分が着用して植民星で社員を守るため多くの宇宙生物と戦っていくということだが、果たして自分にできるのだろうか。
この時修也の頭の中に強い不安が過ぎっていく。それは今後のことであった。もし自分が植民星で殉職してしまうようなことがあれば誰が家族を食べさせていくのだろうか。もし自分が宇宙の中で朽ち果ててしまえば墓も建てられず、永久に忘れ去られてしまうのではないだろうか。
修也は仮定の恐怖を受け耐え切れなくなってしまい、両手で頭を抱えて蹲ってしまった。水色のワンピースを着た女性は保育士の女性が怒られて泣いている園児を宥めるかのように修也の背中を優しく摩っていくのであった。
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