メトロポリス社へようこそ! ~「役立たずだ」とクビにされたおっさんの就職先は大企業の宇宙船を守る護衛官でした~

アンジェロ岩井

文字の大きさ
37 / 237
皇帝の星『オクタヴィル』

しおりを挟む
「およしなさい。何があったのかは知りませんが、大人が子どもに向かって理不尽な暴力を振るうなどあってはならないと思いますよ」

 修也は強い目で幼い少女を丸太のように大きな拳で殴り付けようとした男を睨み付けながら言った。それでもその口調は子どもを諭すかのように穏やかであった。
 ダコティアヌ帝国語が喋ることができぬ修也が発した警告の言葉は当然ながら日本語である。それ故男に言葉が伝わるはずはなかった。

 だが、修也の放つ剣幕から修也が何を言いたいのかは察したらしい。
 彼はダクティアナ帝国語で修也を睨み付けながら言った。

「退け、貴様のような化け物には分からんだろうが、人間には人間のルールがあるんだ。貴様には分からんだろうが、その小娘はおれの妻でありながらオレを侮辱した。それ故に罰を喰らわせてやるんだ。分かったら退け」

 威圧感を交えての忠告を発したので、いかに他の星から来た男であったとしても体の全身から放たれる殺気に怯え、皇女を見捨てて逃げるはずだ。

 だが、目の前にいる男は予想に反して逃げようとはしなかった。それどころか歯を食いしばりながら、キッと両目を見開きながら男を睨み付けていた。

(……ッ!こいつッ!)

 男の両頬はまだら色に染め上がっていった。彼の心の中に生じた怒りの念は炎のように高く燃え上がっていった。
 そして男は勢いに乗ったまま修也を殴り飛ばそうとした。

「待てッ!」

 と、背後から声が聞こえてきた。男が振り返ると、そこには激昂した様子の皇帝が男をジッと睨んでいた。
 ダクティアナ帝国最高の権力者に睨まれればさしもの男であっても怯えの感情を感じずにはいられなかったらしい。
 拳を下ろし、皇帝を見つめていた。

「ヒードルを倒した英雄とはいえ空より来た使節に暴力を加えてよいなどという権利はなかったぞ」

「しかし陛下」

「黙れッ! 下郎! 今喋っているのはわしだ! ダクティアナ帝国皇帝デ・ラナであるぞッ!」

 より正確にいえばデ・ラナ二世である。彼の父親がデ・ラナ一世であったのでその名前をそのまま受け継いだ息子の彼は二世となっているのだ。

「も、申し訳ありませんぬ」

 男は深く頭を下げながら謝罪の言葉を口に出した。いかに男といえども皇帝の持つ権威の前には逆らえないらしい。

「この場はここに侵入したガーゴイルを討伐したということであの男を許してやれ、ラ・レクスよ」

 皇帝から命令されればラ・レクスは従わざるを得なかった。
 ラ・レクスは両肩を強張らせそのまま頭を下げて部屋を後にしていった。

 だが、去り際に修也をギロっと睨むのも忘れていなかった。
 ギリシャ神話に登場する伝説の英雄ヘラクレスを彷彿とさせるような凄まじい筋肉を持つ男から睨まれてしまえば修也としても両肩を強張らせざるを得なかった。

 修也が完全に密閉した二重扉を唖然とした様子で見つめていた時だ。
 自身の裾を強く引っ張られていたことに気が付いた。背後を振り返ると、そこには修也自身の手で守り抜いた幼い少女の姿が見えた。

「どうしたのかな?」

 修也はアハハと困ったような笑みを浮かべながら幼い皇女に向かって問い掛けた。
 当然ながら修也の発した言葉は日本語である。幼い皇女に理解できるはずがなかった。

 だが、幼い皇女はそんなことは気にも留めず小さく頭を下げて言った。

「先ほどは助けていただきありがとうございます。私はダクティアナ帝国の第二皇女でデ・レマと申します。以後お見知り置きを」

 幼い皇女の言葉は当然ながら修也には届かない。

 だが、それでも真剣に何かを訴え、最後の方では自身に向かって丁寧な一礼を行うレマの姿から修也は彼女が何を言いたいのかを察せられた。

 修也は何も言わなかった。言葉が通じなかったかったのでどのように返せばいいのか分からなかったからだ。

 代わりにデ・レマに対し黙って頭を下げた。そして優しく微笑んでみせた。デ・レマはその時の修也の顔からは「どういたしまして」という彼の返事が浮かんで見えたような気がした。

 デ・レマはその姿を見て黙って微笑み返した。慈父のような笑みに対して皇女としての微笑みではなく、年相応の子どもとしての笑みを返すことこそが今自分が与えられる精一杯の褒美だと考えたのだ。

 本来であるのならば自身を二度も助けてくれた英雄に対してその頬に対して口付けでも与えたかったのだが、それを実行に移せば父親がどのような行動に出るのかを知らなかったわけではなかったのだ。

 修也が微笑ましい気持ちになって見つめていると、修也の前にヘ・リーマとジョウジの両名が姿を現した。

「失礼致します。オオツ様。本日の夕食はこれで終了となります。陛下は翌日のお昼に改めて会談をご希望なされているということですので、また出直しを願います」

「は、はい。了解致しました」

 以上のやり取りは全てジョウジ一人の通訳によって担われていた。
 修也と二人のアンドロイドはそのままヘ・リーマの案内で部屋に戻されていった。

 部屋の中に戻った修也はヘ・リーマと彼が呼んだメイドたちの手で衣装を返却される羽目になった。

 中世の衣装を思わせる堅苦しい服から元の宇宙服へと着替え終えると、修也は用意されていたベッドの上に腰を掛けた。そこでようやくホッとして小さく溜息を吐いていった。

 寝心地を優先されて作られたベッドマッドであるのか、少し体の負担を掛けただけで修也の掌が真っ白なシーツが敷かれたベッドマットの中へと沈んでいった。

 修也は自身の掌が沈んで掌のクレーターを作っている姿を見て、自身の体全体もベッドマットの中に沈ませようと考えたのだろう。そのまま体をベッドの上に預け、大の字に手足を伸ばして休んでいた。

 ジョウジはその横、窓際の席で何も言わずに暗くなり何も見えなくなった窓の外を見つめていた。

「ジョウジさん何をやっているんですか?あなたもお疲れでしょうし、今日のところは休んだ方がいいですよ」

「大津さん、少し妙だとは思いませんか?」

 ジョウジがいつになく神妙な顔を顔を浮かべて言った。

「妙と言いますと?」

「今日の夕食会です。夕食会の最中にガーゴイルなるこの星の凶悪な動物が乱入したことは覚えていますよね?」

「もちろんです。それを私が倒しましたね」

「えぇ、ですが、あのガーゴイル。本当はあのラ・レクスなる男が倒す予定だったというのならば?」

 どうやらあの英雄ヘラクレスを思わせるような素晴らしい筋肉を持った男の名はラ・レクスというらしい。
 ますます英雄に相応しいような名前だ。
 修也が腕を組んでうんうんと唸っていた時だ。

「大津さん、私の話聞いてますか?」

 ジョウジの忠告を聞いて修也は頭の中で考えていたことが大きく逸れたことを思い出し、大きく空咳を行なって話を本筋に戻した。

「つまり、ラ・レクスは自作自演で皇帝一家の危機を救おうとしていたと?」

「そうなります。恐らくデ・レマ皇女との婚約を円滑に進ませるための舞台装置としてどこからか放ったのでしょう。ガーゴイルに皇帝一家や重臣たちを襲わせ、十分に恐怖を味合わせたところでガーゴイルを倒して自身の存在をアピールするというものだと考えられます」

 ジョウジの言葉は理にかなっていた。バラバラだったはずの点と線が繋がったように思えた。

「それは明日皇帝に話した方がよろしいでしょうか?」

「今日の会談を見た限り皇帝はラ・レクスという男を嫌っておりますので話した方がプラスに働くような気はしますね」

 頭に内蔵されているコンピュータから計算を導き出すジョウジが言うのならば間違いはあるまい。修也はこの事実を明日の会談で皇帝に話してやることに決めた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

異世界宇宙SFの建艦記 ――最強の宇宙戦艦を建造せよ――

黒鯛の刺身♪
SF
主人公の飯富晴信(16)はしがない高校生。 ある朝目覚めると、そこは見たことのない工場の中だった。 この工場は宇宙船を作るための設備であり、材料さえあれば巨大な宇宙船を造ることもできた。 未知の世界を開拓しながら、主人公は現地の生物達とも交流。 そして時には、戦乱にも巻き込まれ……。

S級スキル『剣聖』を授かった俺はスキルを奪われてから人生が一変しました

白崎なまず
ファンタジー
この世界の人間の多くは生まれてきたときにスキルを持っている。スキルの力は強大で、強力なスキルを持つ者が貧弱なスキルしか持たない者を支配する。 そんな世界に生まれた主人公アレスは大昔の英雄が所持していたとされるSランク『剣聖』を持っていたことが明らかになり一気に成り上がっていく。 王族になり、裕福な暮らしをし、将来は王女との結婚も約束され盤石な人生を歩むアレス。 しかし物事がうまくいっている時こそ人生の落とし穴には気付けないものだ。 突如現れた謎の老人に剣聖のスキルを奪われてしまったアレス。 スキルのおかげで手に入れた立場は当然スキルがなければ維持することが出来ない。 王族から下民へと落ちたアレスはこの世に絶望し、生きる気力を失いかけてしまう。 そんなアレスに手を差し伸べたのはとある教会のシスターだった。 Sランクスキルを失い、この世はスキルが全てじゃないと知ったアレス。 スキルがない自分でも前向きに生きていこうと冒険者の道へ進むことになったアレスだったのだが―― なんと、そんなアレスの元に剣聖のスキルが舞い戻ってきたのだ。 スキルを奪われたと王族から追放されたアレスが剣聖のスキルが戻ったことを隠しながら冒険者になるために学園に通う。 スキルの優劣がものを言う世界でのアレスと仲間たちの学園ファンタジー物語。 この作品は小説家になろうに投稿されている作品の重複投稿になります

蒼穹の裏方

Flight_kj
SF
日本海軍のエンジンを中心とする航空技術開発のやり直し 未来の知識を有する主人公が、海軍機の開発のメッカ、空技廠でエンジンを中心として、武装や防弾にも口出しして航空機の開発をやり直す。性能の良いエンジンができれば、必然的に航空機も優れた機体となる。加えて、日本が遅れていた電子機器も知識を生かして開発を加速してゆく。それらを利用して如何に海軍は戦ってゆくのか?未来の知識を基にして、どのような戦いが可能になるのか?航空機に関連する開発を中心とした物語。カクヨムにも投稿しています。

異世界転移魔方陣をネットオークションで買って行ってみたら、日本に帰れなくなった件。

蛇崩 通
ファンタジー
 ネットオークションに、異世界転移魔方陣が出品されていた。  三千円で。  二枚入り。  手製のガイドブック『異世界の歩き方』付き。  ガイドブックには、異世界会話集も収録。  出品商品の説明文には、「魔力が充分にあれば、異世界に行けます」とあった。  おもしろそうなので、買ってみた。  使ってみた。  帰れなくなった。日本に。  魔力切れのようだ。  しかたがないので、異世界で魔法の勉強をすることにした。  それなのに……  気がついたら、魔王軍と戦うことに。  はたして、日本に無事戻れるのか?  <第1章の主な内容>  王立魔法学園南校で授業を受けていたら、クラスまるごと徴兵されてしまった。  魔王軍が、王都まで迫ったからだ。  同じクラスは、女生徒ばかり。  毒薔薇姫、毒蛇姫、サソリ姫など、毒はあるけど魔法はからっきしの美少女ばかり。  ベテラン騎士も兵士たちも、あっという間にアース・ドラゴンに喰われてしまった。  しかたがない。ぼくが戦うか。  <第2章の主な内容>  救援要請が来た。南城壁を守る氷姫から。彼女は、王立魔法学園北校が誇る三大魔法剣姫の一人。氷結魔法剣を持つ魔法姫騎士だ。  さっそく救援に行くと、氷姫たち守備隊は、アース・ドラゴンの大軍に包囲され、絶体絶命の窮地だった。  どう救出する?  <第3章の主な内容>  南城壁第十六砦の屋上では、三大魔法剣姫が、そろい踏みをしていた。氷結魔法剣の使い手、氷姫。火炎魔法剣の炎姫。それに、雷鳴魔法剣の雷姫だ。  そこへ、魔王の娘にして、王都侵攻魔王軍の総司令官、炎龍王女がやって来た。三名の女魔族を率いて。交渉のためだ。だが、炎龍王女の要求内容は、常軌を逸していた。  交渉は、すぐに決裂。三大魔法剣姫と魔王の娘との激しいバトルが勃発する。  驚異的な再生能力を誇る女魔族たちに、三大魔法剣姫は苦戦するが……  <第4章の主な内容>  リリーシア王女が、魔王軍に拉致された。  明日の夜明けまでに王女を奪還しなければ、王都平民区の十万人の命が失われる。  なぜなら、兵力の減少に苦しむ王国騎士団は、王都外壁の放棄と、内壁への撤退を主張していた。それを拒否し、外壁での徹底抗戦を主張していたのが、臨時副司令官のリリーシア王女だったからだ。  三大魔法剣姫とトッキロたちは、王女を救出するため、深夜、魔王軍の野営陣地に侵入するが……

地味スキル「ためて・放つ」が最強すぎた!~出来損ないはいらん!と追い出したくせに英雄に駆け上がってから戻れと言われても手遅れです~

かくろう
ファンタジー
【ためて・放つ】という地味スキルを一生に一度の儀式で授かってしまった主人公セージ。  そのせいで家から追放され、挙げ句に異母弟から殺されかけてしまう。  しかしあらゆるものを【ためる】でパワフルにできるこのスキルは、最高ランクの冒険者すらかすんでしまうほどのぶっ壊れ能力だった!  命からがら魔物の強襲から脱したセージは、この力を駆使して成り上がっていく事を決意する。  そして命の危機に瀕していた少女リンカニアと出会い、絆を深めていくうちに自分のスキルを共有できる事に気が付いた。 ――これは、世界で類を見ない最強に成り上がっていく主人公と、彼の元へ集まってくる仲間達との物語である。

俺得リターン!異世界から地球に戻っても魔法使えるし?アイテムボックスあるし?地球が大変な事になっても俺得なんですが!

くまの香
ファンタジー
鹿野香(かのかおる)男49歳未婚の派遣が、ある日突然仕事中に異世界へ飛ばされた。(←前作) 異世界でようやく平和な日常を掴んだが、今度は地球へ戻る事に。隕石落下で大混乱中の地球でも相変わらず呑気に頑張るおじさんの日常。「大丈夫、俺、ラッキーだから」

スキル【土いじり】でパーティを追放された俺、開墾した畑からダンジョンが生えてきた。

夏見ナイ
ファンタジー
「役立たず」の烙印を押され、パーティを追放されたアルフォンス。彼のスキルは戦闘に不向きな【土いじり】。失意の彼は都会を離れ、辺境の地で静かに農業を営むことを決意する。 しかし、彼が畑を耕すと、そこから不思議なダンジョンが生えてきた! ダンジョン内では、高級ポーションになる薬草や伝説の金属『オリハルコン』が野菜のように収穫できる。地味だと思われた【土いじり】は、実はこの『農園ダンジョン』を育てる唯一無二のチートスキルだったのだ。 噂を聞きつけ集まる仲間たち。エルフの美少女、ドワーフの天才鍛冶師……。気づけば彼の農園は豊かな村へ、そして難攻不落の要塞国家へと発展していく。 一方、彼を追放したパーティは没落の一途を辿り……。 これは、追放された男が最強の生産職として仲間と共に理想郷を築き上げる、農業スローライフ&建国ファンタジー!

《レベル∞》の万物創造スキルで追放された俺、辺境を開拓してたら気づけば神々の箱庭になっていた

夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティーの雑用係だったカイは、魔王討伐後「無能」の烙印を押され追放される。全てを失い、死を覚悟して流れ着いた「忘れられた辺境」。そこで彼のハズレスキルは真の姿《万物創造》へと覚醒した。 無から有を生み、世界の理すら書き換える神の如き力。カイはまず、生きるために快適な家を、豊かな畑を、そして清らかな川を創造する。荒れ果てた土地は、みるみるうちに楽園へと姿を変えていった。 やがて、彼の元には行き場を失った獣人の少女やエルフの賢者、ドワーフの鍛冶師など、心優しき仲間たちが集い始める。これは、追放された一人の青年が、大切な仲間たちと共に理想郷を築き、やがてその地が「神々の箱庭」と呼ばれるまでの物語。

処理中です...