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開発惑星『ベル』
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敵を倒したものの、病み上がりの身の上で激しく戦っていたということもあって修也は戻ってからというものの、ずっと椅子の上で疲れたように眠りこけていた。
その一方でカエデからの報告を受けたジョウジは難しそうな顔で唸り声を上げていた。
「まさか、そこまでベルドクガニの姿が確認できるとは思いもしませんでしたよ」
調査船からの報告では確認できるベルドクガニの数はせいぜい十数体であった。
惑星ベルに向かう前、会社の中でフレッドセンと話し合った時もベルドクガニのことなどほとんど会話に出てこなかった。
それくらいの認識であった存在が外に出るたびに自分たちを大量の数で編隊を組んで襲ってくる。
そこまで考えたところでジョウジはどこかに違和感を覚えた。
そもそも湿地が続き、ベルドクガニ以外には餌となる昆虫や水の中に住む未知のバクテリアくらいしか住まないような星に千匹もの固体が住まうということ自体が変だった。
第一生きるためにそれだけの固体が生きるために必要な餌が取れないはずだ。そこに疑問を抱いていた時だ。
修也が椅子の上から立ち上がっていった。急な変化を見た修也のことが気になったジョウジは声を掛けてみた。
「どうしたんですか? 大津さん?」
「そ、その実は……」
修也はモジモジと体を動かしながら腹を抑える真似を見せた。耳を澄ませると、グゥと腹の虫が鳴る音が聞こえてきた。
どうやら腹を空かせているらしい。ジョウジは大きく溜息を吐いて貨物室から固形食料を持ってきた。
修也はジョウジからの食料を受け取り、固形物を口にしていく。
固形物といってもブロック状のクッキーであった。ガリガリボリボリとものを噛む音が聞こえてきて、それが少し煩く感じられた。
保存食を食べ終えると修也は腹を摩りながら満足げにフゥと息を吐いた。
「満足ですか? 大津さん?」
「えぇ、満足な味でしたよ」
お世辞ではない。修也が食べた保存食はチョコレート味であった。百年前より保存食は進歩していたが、今では保存食は一種の食事であった。無論一般の人々は朝と昼は保存食であったとしても忙しさから食すことができない。
では、どういう時に人々が口にするかといえばそれは災害時などの非常事態であった。災害時の不安を解消するため保存食には菓子にも匹敵するような甘い味が付けられているのだ。
そのため修也の感想も格別におかしいという旨のものではなかった。
食事を終えた修也は気難しそうに顔を歪めるジョウジに対して問い掛けた。
「何かあったんですか?」
「大津さん、妙だとは思いませんか?」
と、前置きを行い、先ほどカエデに向かって喋ったことを修也にも語り出していった。
「そ、そんなことがあったんですか……」
「あくまでも推測です。何者かによってこの星の生態系に手が加えられた可能性があるんですよ」
その話を聞いて修也は惑星ラックスフェルンで見つかったアメーバの話を思い出した。
ジョウジによればラックスフェルンの住民を襲ったアメーバたちは別の惑星からやってきたものだそうだ。
惑星ベルではラックスフェルンのように外来種を放っていくのではなく、既存の凶悪な生物を更に増大させる方法を担ったのだと推測された。
それをジョウジから聞かされた修也は背中を震わせて、
「あ、あまりにも勝手だ! 自分たちの都合だけで生態系を変えるなんて! そんな勝手なことが許されていいものなのかッ!」
修也は己の欲望のためだけに生態系を見出した何かに対する強い憎悪念を燃やしていた。
拳を震わせ、歯を軋ませていることからも修也がどれだけ怒っているのかが分かる。
「落ち着いてください。大津さん。仮に何者かが居たとしても我々にできることは限りあるんですよ」
「で、でもあんまりじゃあないですか!」
修也はまたしても『感情』の赴くままに叫んでいた。彼の悪い癖だ。人間はよくテレビの中に映る凶悪犯に対して怒りを燃やしたりするが、今の彼はそうした人々と全く同じ状況であったといってもよかった。
その様子を見たジョウジは頭痛が痛いとばかりに額に手を当てていた。
今のように興奮しきった状態において説得は難しいだろう。ジョウジは立て籠り犯の説得が難しいという警察の心理を知ったような気がする。
「……とにかく、今日は大津さんもお疲れでしょうし、このまま眠ってしまいましょう。何者かの調査にしろ生態系の解明にしろ、それは明日でもいいのではないですか?」
ジョウジの言葉は正論だった。修也は自身の椅子に戻り、両手を伸ばして瞼を閉じていった。
瞼を閉じていると、ふと瞼の裏側から地球に残してきた家族の姿が思い浮かんできた。
今家族は何をしているのだろうか。懐かしさに駆られた修也は両方の瞼から透明の白い液体を溢した。
これがいわゆるホームシックによって引き起こされる涙なのだろう。
修也はどこか切ない思いに駆られていた。頭の中に『あなたを探してここまで来たの』という古い時代劇で使われた主題歌の歌詞が流れてきた。
初めて聞いた時には何とも思わなかった曲だが、今となっては胸に染み込んでくる素晴らしい曲に聞こえた。
その日は夢でも地球を見たということもあって旅愁に駆られながら修也は椅子の上から起き上がった。
「おはようございます。みなさん」
「おはようございます。大津さん。今日は私と外で実地検証を行いますよ」
「じっ、実地検証ですか?」
予想外の言葉を聞いて修也は思わず目を丸くした。
だが、その姿を見ても動じることなく淡々とした口調で言った。
「えぇ、前に大津さんが仰られたという水の濾過実験です」
修也はジョウジの運んできた保存食を食し、手鏡を使って髭や頭を整えるとカプセルトイを服の胸ポケットの中にしまってジョウジと共にキックボードに乗って適当な湿地へと向かった。
ジョウジは水のサンプルを回収するために銀色をした水筒を持って現れた。
どこかの星の飲料水を調達するには一番最適な保存装置であった。
水筒に水を入れ、回収しているのを近くで待っていると、どこからか足音が聞こえてきた。
カエデの足音ではない。彼女は宇宙船で留守を任されているはずだし、第一仮に宇宙船を出たとしてもこんなに早い時間に修也たちの元へと追いつけるはずがなかった。
「誰だ?」
用心のためカプセルトイを取り出し、『メトロイドスーツ』を装着した修也が横に下げていたレーザーガンを突き付けながら足音がした方向に向かって問い掛けた。
返事はない。もしかすれば惑星ラックスフェルンに現れた喋るアメーバのような存在であるかもしれない。
ベルドクガニが六本の高い足を捨て、両手の鋏を投げ捨ててまで高い頭脳と二本足を身に付けたのだろうか。
そんなことを考えつつも修也が警戒の目を向けていると、霧の向こうからは山高帽を深く被った男の姿だった。
服装は地球人のように黒色のフロックコートを羽織り、その下にはフロックコートと同じ色のラウンジスーツを着ていた。
唯一首元には一般的なネクタイではなく、アスコットタイと呼ばれる幅広の蝉型ネクタイを巻いていた。
修也が警戒の目を向けてレーザーガンを向けていると、その男がいきなり帽子を取って一礼を行なっていった。
一礼を行う姿からは霧の街で過ごしていたヴィクトリア朝のイギリス紳士が霧によってこの星に迷い込んできたように思えてならなかった。
しばらくの間は深々と頭を下げていたが、頭を上げてその姿を見せると修也たちを驚かせた。
口元の髭は文句の付けようがないほどに整えられていたし、逆に顎の下に生えている髭は全て剃られていた。
顔は大きくて丸い茶色の瞳に団子鼻と呼ばれる大きな毛穴が目立つ鼻をしていた。口元も穏やかそうに笑っている姿が見られた。
その笑みも修也にはどこか素敵なものに感じられた。
「あなたは何者ですか?」
ジョウジが日本語で問い掛ける。これまでに遭遇したことがないため一応日本語で問い掛けることにしたのだろう。
だが、イギリス紳士は答えなかった。答える代わりにもう一度頭を下げた。
その一方でカエデからの報告を受けたジョウジは難しそうな顔で唸り声を上げていた。
「まさか、そこまでベルドクガニの姿が確認できるとは思いもしませんでしたよ」
調査船からの報告では確認できるベルドクガニの数はせいぜい十数体であった。
惑星ベルに向かう前、会社の中でフレッドセンと話し合った時もベルドクガニのことなどほとんど会話に出てこなかった。
それくらいの認識であった存在が外に出るたびに自分たちを大量の数で編隊を組んで襲ってくる。
そこまで考えたところでジョウジはどこかに違和感を覚えた。
そもそも湿地が続き、ベルドクガニ以外には餌となる昆虫や水の中に住む未知のバクテリアくらいしか住まないような星に千匹もの固体が住まうということ自体が変だった。
第一生きるためにそれだけの固体が生きるために必要な餌が取れないはずだ。そこに疑問を抱いていた時だ。
修也が椅子の上から立ち上がっていった。急な変化を見た修也のことが気になったジョウジは声を掛けてみた。
「どうしたんですか? 大津さん?」
「そ、その実は……」
修也はモジモジと体を動かしながら腹を抑える真似を見せた。耳を澄ませると、グゥと腹の虫が鳴る音が聞こえてきた。
どうやら腹を空かせているらしい。ジョウジは大きく溜息を吐いて貨物室から固形食料を持ってきた。
修也はジョウジからの食料を受け取り、固形物を口にしていく。
固形物といってもブロック状のクッキーであった。ガリガリボリボリとものを噛む音が聞こえてきて、それが少し煩く感じられた。
保存食を食べ終えると修也は腹を摩りながら満足げにフゥと息を吐いた。
「満足ですか? 大津さん?」
「えぇ、満足な味でしたよ」
お世辞ではない。修也が食べた保存食はチョコレート味であった。百年前より保存食は進歩していたが、今では保存食は一種の食事であった。無論一般の人々は朝と昼は保存食であったとしても忙しさから食すことができない。
では、どういう時に人々が口にするかといえばそれは災害時などの非常事態であった。災害時の不安を解消するため保存食には菓子にも匹敵するような甘い味が付けられているのだ。
そのため修也の感想も格別におかしいという旨のものではなかった。
食事を終えた修也は気難しそうに顔を歪めるジョウジに対して問い掛けた。
「何かあったんですか?」
「大津さん、妙だとは思いませんか?」
と、前置きを行い、先ほどカエデに向かって喋ったことを修也にも語り出していった。
「そ、そんなことがあったんですか……」
「あくまでも推測です。何者かによってこの星の生態系に手が加えられた可能性があるんですよ」
その話を聞いて修也は惑星ラックスフェルンで見つかったアメーバの話を思い出した。
ジョウジによればラックスフェルンの住民を襲ったアメーバたちは別の惑星からやってきたものだそうだ。
惑星ベルではラックスフェルンのように外来種を放っていくのではなく、既存の凶悪な生物を更に増大させる方法を担ったのだと推測された。
それをジョウジから聞かされた修也は背中を震わせて、
「あ、あまりにも勝手だ! 自分たちの都合だけで生態系を変えるなんて! そんな勝手なことが許されていいものなのかッ!」
修也は己の欲望のためだけに生態系を見出した何かに対する強い憎悪念を燃やしていた。
拳を震わせ、歯を軋ませていることからも修也がどれだけ怒っているのかが分かる。
「落ち着いてください。大津さん。仮に何者かが居たとしても我々にできることは限りあるんですよ」
「で、でもあんまりじゃあないですか!」
修也はまたしても『感情』の赴くままに叫んでいた。彼の悪い癖だ。人間はよくテレビの中に映る凶悪犯に対して怒りを燃やしたりするが、今の彼はそうした人々と全く同じ状況であったといってもよかった。
その様子を見たジョウジは頭痛が痛いとばかりに額に手を当てていた。
今のように興奮しきった状態において説得は難しいだろう。ジョウジは立て籠り犯の説得が難しいという警察の心理を知ったような気がする。
「……とにかく、今日は大津さんもお疲れでしょうし、このまま眠ってしまいましょう。何者かの調査にしろ生態系の解明にしろ、それは明日でもいいのではないですか?」
ジョウジの言葉は正論だった。修也は自身の椅子に戻り、両手を伸ばして瞼を閉じていった。
瞼を閉じていると、ふと瞼の裏側から地球に残してきた家族の姿が思い浮かんできた。
今家族は何をしているのだろうか。懐かしさに駆られた修也は両方の瞼から透明の白い液体を溢した。
これがいわゆるホームシックによって引き起こされる涙なのだろう。
修也はどこか切ない思いに駆られていた。頭の中に『あなたを探してここまで来たの』という古い時代劇で使われた主題歌の歌詞が流れてきた。
初めて聞いた時には何とも思わなかった曲だが、今となっては胸に染み込んでくる素晴らしい曲に聞こえた。
その日は夢でも地球を見たということもあって旅愁に駆られながら修也は椅子の上から起き上がった。
「おはようございます。みなさん」
「おはようございます。大津さん。今日は私と外で実地検証を行いますよ」
「じっ、実地検証ですか?」
予想外の言葉を聞いて修也は思わず目を丸くした。
だが、その姿を見ても動じることなく淡々とした口調で言った。
「えぇ、前に大津さんが仰られたという水の濾過実験です」
修也はジョウジの運んできた保存食を食し、手鏡を使って髭や頭を整えるとカプセルトイを服の胸ポケットの中にしまってジョウジと共にキックボードに乗って適当な湿地へと向かった。
ジョウジは水のサンプルを回収するために銀色をした水筒を持って現れた。
どこかの星の飲料水を調達するには一番最適な保存装置であった。
水筒に水を入れ、回収しているのを近くで待っていると、どこからか足音が聞こえてきた。
カエデの足音ではない。彼女は宇宙船で留守を任されているはずだし、第一仮に宇宙船を出たとしてもこんなに早い時間に修也たちの元へと追いつけるはずがなかった。
「誰だ?」
用心のためカプセルトイを取り出し、『メトロイドスーツ』を装着した修也が横に下げていたレーザーガンを突き付けながら足音がした方向に向かって問い掛けた。
返事はない。もしかすれば惑星ラックスフェルンに現れた喋るアメーバのような存在であるかもしれない。
ベルドクガニが六本の高い足を捨て、両手の鋏を投げ捨ててまで高い頭脳と二本足を身に付けたのだろうか。
そんなことを考えつつも修也が警戒の目を向けていると、霧の向こうからは山高帽を深く被った男の姿だった。
服装は地球人のように黒色のフロックコートを羽織り、その下にはフロックコートと同じ色のラウンジスーツを着ていた。
唯一首元には一般的なネクタイではなく、アスコットタイと呼ばれる幅広の蝉型ネクタイを巻いていた。
修也が警戒の目を向けてレーザーガンを向けていると、その男がいきなり帽子を取って一礼を行なっていった。
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