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開発惑星『ベル』
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「あれ?これでよかったはずなのですが、おかしいなぁ。また地球の礼儀作法を間違えてしまいましたかねぇ」
紳士は不意に口を開いた。そう呟いた言葉は間違いなく日本語だった。
「あ、あんた、どうして日本語を話しているんだ?」
そう問い掛けた修也の声は確かに引きつっていた。紳士はニヤリと笑いながら言った。
「それはあなた方の飛ばす電波で覚えましたからね」
「電波?」
修也はピンとこなかったようだが、ジョウジは違う反応を見せた。
その姿を見た紳士は優しげな微笑みを浮かべながら言った。
「おや、そちらのお方は既に理解されたようですね?」
「えぇ、日本や世界各国は百年以上前から宇宙にいると言われる他の知的生命体に向けて各国で流しているテレビ番組の電波を宇宙に向けて飛ばしているんです。これは私の推測ですが、あなたはいいや、あなた方はその電波を聞かれて日本語或いは各国の言語を覚え、文化風俗を理解した。違いありませんか?」
「ビンゴ! 流石です! 地球のアンドロイドも捨てたものではありませんね!」
紳士は楽しげな顔を浮かべて指を鳴らした。その口ぶりからは出来の良い生徒を褒める教師のようだった。
「ついでに言えば今の姿も変装です。最初の接触というのは大事だとお聞きしましたから、地球人たちを驚かせないように、と思いまして」
紳士は穏やかな顔を浮かべると指をパチリと鳴らした。すると紳士の姿は煙を払うかのように消え失せ、代わりにカメレオンのよう姿を見せた。
全身を緑色に包んでいるその姿は緑色の装甲に覆われているかのようだ。顔にはカメレオンのように大きく突き出した眼球の姿が確認できた。丸くて大きな黄色くて突出した両目が印象的だった。
団子鼻であることには変わらないが、人間態の時よりもその鼻は低く見えた。
口元からは赤くて長い舌が垣間見えた。本当にカメレオンのようだった。
「これが私の真の姿です」
カメレオンのような姿をした宇宙人は得意気な顔を浮かべて言った。
「あ、あんたは何者なんです?」
動揺したためか普段よりも口調が乱れてしまった。それでもなんとか敬語は保てていたので一息を吐いた。
「おや、これは失礼しました。私は……いいや我々はグレン星人と申します。この惑星ベルより三光年先にある惑星グレンに住んでいます」
「グレン星? そんな星はデータにありません。それにあなた方のことも……」
ジョウジが目を丸くしながらグレン星について意見を述べようとした。
だが、その意見をグレン星人はあっさりと跳ね除けた。
「ホッホッホッ、当然でしょう。我々はずっとあなた方から身を隠し続けてきたんですから」
「それはなぜです?」
修也は恐怖と緊張のために声を震わせながら問い掛けた。
「決まっているじゃあないですか、あなた方地球人の活動を妨げないためです。我が星……いいや、惑星連合は地球人が貿易や開発のため宇宙に進出したのを確かに確認しました」
修也とジョウジの両名はグレン星人が発した『惑星連合』という言葉を聞いて互いの顔を見合わせた。
『惑星連合』なる組織が宇宙に存在するなどということは知らなかったし、恐らく今この場にグレン星人なる宇宙人が現れなければ生涯知ることもなかっただろう。
「おや、『惑星連合』という言葉を聞いて表情を強張らせましたね。当然の反応です。なにせこの『惑星連合』はかなり高度な文化を持った惑星のみが参加できる星の名称ですからね」
「その『惑星連合』とやらには他にどれだけの星が加盟しておられるんですか?」
「そうですね。他銀河からの星も含め、ざっと五百ほどでしょうか」
「ご、五百……」
修也は惑星連合に加盟している星々の数に圧倒されていた。22世紀の地球人類よりも高度な文化や文明を持つ惑星が他銀河を含めても他に五百も惑星が存在するのだ。
修也は衝撃を受けて思わず両足をふらつかせてしまった。
一方で修也ほどではないがジョウジも『惑星連合』の話を聞き大きな衝撃を受けていた。自分たちを生み出した地球人類よりも素晴らしい科学力を持つ星が五百もあったという事実はそれこそ頭をガツンと殴られるほどの衝撃であったのだ。
唖然とした顔で自分の姿を見つめるジョウジに向かってグレン星人は穏やかな顔を浮かべながら言った。
「アンドロイドであるあなたにも嬉しい話があるんですよ。『惑星連合』の中にはアンドロイドが支配する惑星も含まれているんです。名前は確か第四惑星にあったーー」
「そ、そんなことよりもあなた方の目的は何です?」
修也は遮るように言った。
「あぁ、忘れていました。あなた方の始末ですよ」
と、ここまで和やかに話していた男は急に懐からジョウジたちが使っているようなボールペンを模したようなポインターを取り出した。
「これはあなた方が使用している物より数倍の威力を誇るグレン星特製のビームポインターでしてね。これであなた方の息の根を止めさせていただきます」
「な、何で私たちがここで死ななくてはならないんですか!?」
修也は声を荒げた。当然である。『死ね』と言われても動揺しない人間など滅多にいないからだ。
「それはボクもでしょうか?」
ジョウジは己の体を人差し指で差しながら確認するかのように問い掛けた。
「もちろんです。あなたは地球人に製造されたアンドロイドだ。当然でしょう?」
言葉の意味が理解できなかった。何が『当然』なのだろうか。コンピュータにもそれ相応のデータがないので反論することができなかった。
「で、では始末される理由をお聞かせください。死ぬ前にそれを聞く権利くらいは我々にもあるでしょう?」
修也の声は恐怖のためかブルブルと震えていた。
それを見たグレン星人は己の細く尖った人差し指を二本立てた後に一本を下ろし、淡々とした口調で言った。
「死ぬ前に聞く権利ですか……いいでしょう。教えてあげます。一つは我々からの報復です。この惑星に先に目を付けていたのは我々でした。しかし図々しくもあなた方は無人調査船を派遣してこの星を開発しようとした……それが許せなかったんです。見せしめのために地球人や地球のアンドロイドを木っ端微塵に破壊して地球に送り付けてやろうと思いましてね」
それを聞いて何も言えずに固まっている修也たちを見てグレン星人は最後の指を下ろして言った。
「第二の理由……これは少し長くなります」
と、グレン星人は前置きを述べた後で空咳を行った。それか大学で講師が生徒たちに講義を行う時のように穏やか且つ大きな声で説明を行なっていった。
「あなた方地球人が自分たちよりも文化レベルの低い惑星に対して『侵略』行為に出ないかという危険性です。確かにこの星には私が急に増やさせた蠍しかいません。ですが、この惑星が開発されるにあたってもし先に住まわれている方がいたとしたらあなた方はどうしていましたか?」
修也は言葉に詰まった。もし仮に住民たちがいたとすれば会社の利益のためだけに住民を苦しめる……。そんなことがないようにはしたかった。
だが、絶対にしないとは言い切れない。
「滅ぼす。もしくは奴隷にしていたでしょう。あなた方人間の歴史を見ていればよーく分かりますよ」
そんな修也の心境を推し量ったかのようにグレン星人は楽しげな声だ言った。心なしかその時のグレン星人の顔が醜く歪んでいるように見えた。
「それが私たちが死ぬ理由とどう関係あるんですか?」
修也の抗議を受けてグレン星人は窘めるように言った。
「話は最後まで聞きなさい。と、まぁ、我々としては『かもしれない』という危険性だけで惑星を滅ぼすことはできません。ですが、警告の意味合いも兼ねて開発に訪れた地球人を殺すことは可能です」
「つまり我々は見せしめと報復に殺されるというわけですね?」
グレン星人は首を縦に動かした。みすみす殺されるつもりは毛頭ない。どうやらもう戦うしかないようである。
修也は改めてレーザーガンを構え、グレン星人からの攻撃に備えた。
戦う覚悟はできている。後は迎え撃つだけだ。
紳士は不意に口を開いた。そう呟いた言葉は間違いなく日本語だった。
「あ、あんた、どうして日本語を話しているんだ?」
そう問い掛けた修也の声は確かに引きつっていた。紳士はニヤリと笑いながら言った。
「それはあなた方の飛ばす電波で覚えましたからね」
「電波?」
修也はピンとこなかったようだが、ジョウジは違う反応を見せた。
その姿を見た紳士は優しげな微笑みを浮かべながら言った。
「おや、そちらのお方は既に理解されたようですね?」
「えぇ、日本や世界各国は百年以上前から宇宙にいると言われる他の知的生命体に向けて各国で流しているテレビ番組の電波を宇宙に向けて飛ばしているんです。これは私の推測ですが、あなたはいいや、あなた方はその電波を聞かれて日本語或いは各国の言語を覚え、文化風俗を理解した。違いありませんか?」
「ビンゴ! 流石です! 地球のアンドロイドも捨てたものではありませんね!」
紳士は楽しげな顔を浮かべて指を鳴らした。その口ぶりからは出来の良い生徒を褒める教師のようだった。
「ついでに言えば今の姿も変装です。最初の接触というのは大事だとお聞きしましたから、地球人たちを驚かせないように、と思いまして」
紳士は穏やかな顔を浮かべると指をパチリと鳴らした。すると紳士の姿は煙を払うかのように消え失せ、代わりにカメレオンのよう姿を見せた。
全身を緑色に包んでいるその姿は緑色の装甲に覆われているかのようだ。顔にはカメレオンのように大きく突き出した眼球の姿が確認できた。丸くて大きな黄色くて突出した両目が印象的だった。
団子鼻であることには変わらないが、人間態の時よりもその鼻は低く見えた。
口元からは赤くて長い舌が垣間見えた。本当にカメレオンのようだった。
「これが私の真の姿です」
カメレオンのような姿をした宇宙人は得意気な顔を浮かべて言った。
「あ、あんたは何者なんです?」
動揺したためか普段よりも口調が乱れてしまった。それでもなんとか敬語は保てていたので一息を吐いた。
「おや、これは失礼しました。私は……いいや我々はグレン星人と申します。この惑星ベルより三光年先にある惑星グレンに住んでいます」
「グレン星? そんな星はデータにありません。それにあなた方のことも……」
ジョウジが目を丸くしながらグレン星について意見を述べようとした。
だが、その意見をグレン星人はあっさりと跳ね除けた。
「ホッホッホッ、当然でしょう。我々はずっとあなた方から身を隠し続けてきたんですから」
「それはなぜです?」
修也は恐怖と緊張のために声を震わせながら問い掛けた。
「決まっているじゃあないですか、あなた方地球人の活動を妨げないためです。我が星……いいや、惑星連合は地球人が貿易や開発のため宇宙に進出したのを確かに確認しました」
修也とジョウジの両名はグレン星人が発した『惑星連合』という言葉を聞いて互いの顔を見合わせた。
『惑星連合』なる組織が宇宙に存在するなどということは知らなかったし、恐らく今この場にグレン星人なる宇宙人が現れなければ生涯知ることもなかっただろう。
「おや、『惑星連合』という言葉を聞いて表情を強張らせましたね。当然の反応です。なにせこの『惑星連合』はかなり高度な文化を持った惑星のみが参加できる星の名称ですからね」
「その『惑星連合』とやらには他にどれだけの星が加盟しておられるんですか?」
「そうですね。他銀河からの星も含め、ざっと五百ほどでしょうか」
「ご、五百……」
修也は惑星連合に加盟している星々の数に圧倒されていた。22世紀の地球人類よりも高度な文化や文明を持つ惑星が他銀河を含めても他に五百も惑星が存在するのだ。
修也は衝撃を受けて思わず両足をふらつかせてしまった。
一方で修也ほどではないがジョウジも『惑星連合』の話を聞き大きな衝撃を受けていた。自分たちを生み出した地球人類よりも素晴らしい科学力を持つ星が五百もあったという事実はそれこそ頭をガツンと殴られるほどの衝撃であったのだ。
唖然とした顔で自分の姿を見つめるジョウジに向かってグレン星人は穏やかな顔を浮かべながら言った。
「アンドロイドであるあなたにも嬉しい話があるんですよ。『惑星連合』の中にはアンドロイドが支配する惑星も含まれているんです。名前は確か第四惑星にあったーー」
「そ、そんなことよりもあなた方の目的は何です?」
修也は遮るように言った。
「あぁ、忘れていました。あなた方の始末ですよ」
と、ここまで和やかに話していた男は急に懐からジョウジたちが使っているようなボールペンを模したようなポインターを取り出した。
「これはあなた方が使用している物より数倍の威力を誇るグレン星特製のビームポインターでしてね。これであなた方の息の根を止めさせていただきます」
「な、何で私たちがここで死ななくてはならないんですか!?」
修也は声を荒げた。当然である。『死ね』と言われても動揺しない人間など滅多にいないからだ。
「それはボクもでしょうか?」
ジョウジは己の体を人差し指で差しながら確認するかのように問い掛けた。
「もちろんです。あなたは地球人に製造されたアンドロイドだ。当然でしょう?」
言葉の意味が理解できなかった。何が『当然』なのだろうか。コンピュータにもそれ相応のデータがないので反論することができなかった。
「で、では始末される理由をお聞かせください。死ぬ前にそれを聞く権利くらいは我々にもあるでしょう?」
修也の声は恐怖のためかブルブルと震えていた。
それを見たグレン星人は己の細く尖った人差し指を二本立てた後に一本を下ろし、淡々とした口調で言った。
「死ぬ前に聞く権利ですか……いいでしょう。教えてあげます。一つは我々からの報復です。この惑星に先に目を付けていたのは我々でした。しかし図々しくもあなた方は無人調査船を派遣してこの星を開発しようとした……それが許せなかったんです。見せしめのために地球人や地球のアンドロイドを木っ端微塵に破壊して地球に送り付けてやろうと思いましてね」
それを聞いて何も言えずに固まっている修也たちを見てグレン星人は最後の指を下ろして言った。
「第二の理由……これは少し長くなります」
と、グレン星人は前置きを述べた後で空咳を行った。それか大学で講師が生徒たちに講義を行う時のように穏やか且つ大きな声で説明を行なっていった。
「あなた方地球人が自分たちよりも文化レベルの低い惑星に対して『侵略』行為に出ないかという危険性です。確かにこの星には私が急に増やさせた蠍しかいません。ですが、この惑星が開発されるにあたってもし先に住まわれている方がいたとしたらあなた方はどうしていましたか?」
修也は言葉に詰まった。もし仮に住民たちがいたとすれば会社の利益のためだけに住民を苦しめる……。そんなことがないようにはしたかった。
だが、絶対にしないとは言い切れない。
「滅ぼす。もしくは奴隷にしていたでしょう。あなた方人間の歴史を見ていればよーく分かりますよ」
そんな修也の心境を推し量ったかのようにグレン星人は楽しげな声だ言った。心なしかその時のグレン星人の顔が醜く歪んでいるように見えた。
「それが私たちが死ぬ理由とどう関係あるんですか?」
修也の抗議を受けてグレン星人は窘めるように言った。
「話は最後まで聞きなさい。と、まぁ、我々としては『かもしれない』という危険性だけで惑星を滅ぼすことはできません。ですが、警告の意味合いも兼ねて開発に訪れた地球人を殺すことは可能です」
「つまり我々は見せしめと報復に殺されるというわけですね?」
グレン星人は首を縦に動かした。みすみす殺されるつもりは毛頭ない。どうやらもう戦うしかないようである。
修也は改めてレーザーガンを構え、グレン星人からの攻撃に備えた。
戦う覚悟はできている。後は迎え撃つだけだ。
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