いじめられ勇者が世界を救う!?〜双子のいじめられっ子が転生した先で亡国の女王を助け、世界を救うと言うありふれた話〜

アンジェロ岩井

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第一部 第三章 ドラゴンを従えし王

霧の向こうの不思議な街

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黒十字架シュヴァルツ・クロインツ家の当主、カール・フォン・シュヴァルツ・クロインツは弟の戦死の報告を聞き、笑った。だが、報告に訪れた部下の前では顔を見せずに、鎧を着た部下の男が書斎の扉を閉めたのと同時にカールは声を出して笑う。
そして、再びノックの音が聞こえた瞬間にカールは笑いを引っ込めて、来客を出迎えた。
「アルフレードだな?入れ」
「失礼致します。閣下……」
アルフレードは厳粛に弟を亡くした悲劇の兄を慰める顔を浮かべて入室して来た。
「よもや、オットー王子が亡くなられるとは……」
悲しげな顔を浮かべたアドルフ・フォン・アルフレードに対して、カールは口元を歪めて、
「下手な芝居は寄せ、ここは余と貴様の二人だけだ。粗大ゴミの死を悲しむ父上も母上もおらぬ」
王族用の高価な茶色の絹の服を着た青年は冷たく笑う。
「流石はあなただ。確かに、私も演技の方が大袈裟になり過ぎたようだ。オットーなどどうでも良いでしょうな?あなた様には?」
「勿論だ。なぜ、オレがあんなカスに同情せねばならぬ。ガラドリエルにはこの件では勲章をやりたいくらいだな」
カールの冗談にアドルフは微笑を浮かべて、次にカールの冗談にある事実を付け足す。
「あなた様の性格ならば、勲章をガラドリエルに与えた後に、反逆の罪で逮捕するのでしょうな?」
相変わらず氷のように冷たい声だ。カールは苦笑した。
「その通りだ。敵が敵を殺した場合の処置はな……それより、白十字架ヴァイス・クロインツ家のあの女はどうした?」
カールの指摘にアドルフは片眉を動かす。
「その件ですが、閣下……あの女ーーザビーネ・フォン・ヴァイス・クロインツはイカれた女ですよ。あの女は転移魔法で、北へと向かい、ガラドリエルを始末すると仰っております」
「それはたくましいな、ザビーネ殿がガラドリエルを始末してくれれば、儲け物だし、仕留められずに逆に殺されても、ヴァンス・クロインツ家は後継となるための一人娘を殺されて、家を絶たれてしまう」
「我々にすれば、どちらに転んでも得のある話です。先のオットーの件同様に」
アドルフは不敵な笑いを浮かべながら言った。




女王を載せた馬車はベリュンブルグを経って、北へと向かっていた。
コロコロと車輪の音を立てて向かっていく馬車の中で、女王ーーガラドリエル・フォン・ヴァレンシュタインはユーノから勧められた『ユートピア・サガ』を読んでいた。
ガラドリエルは気が付けば、本の半分まで読んでいた事に気付く。
面白い本とは恐ろしいものだ。そう思わざるを得ない。
ガラドリエルが本から目を上げると、そこには目を輝かせて本の内容を聞かせて欲しいとせがむマートニアと早く内容を語り合いたくてうずうずとしているユーノの姿が見えた。
どうやら、もう少し早く読む必要があるかも知れない。
そんな時だ。急に馬車が停止した。ガラドリエルは御者を務めるディリオニスとガートールードに向かって、突然の停止の原因を問う。
「わ、分からないよ……急に霧が濃くなってきて……ぼくにもどうなっているのか分からないんだ」
「陛下、私もディリオニスと同意見です。これ以上進むのは危険かと判断して、馬車を止めさせたのです」
ガラドリエルは本を閉じ、しばらく顎に右手の人差し指と親指を当てて思案にふける。
「ふうむ、ではここで馬車を停止させるとするか……」
ガラドリエルをの指示に従い、馬車を停止させ、ガートールードとディリオニスの二人は馬車を走らせている場所は安全な場所かどうかを見渡す。
ガラドリエルも二人に倣って、外に降り立つ。ガラドリエルは腕を組みながら、馬車の停止した場所を見渡す。
霧が濃くてよく分からないが、どうやらここは森の中らしい。
だが、森の中というのはあくまでも推測に過ぎない。それは天に向かって届きそうな程の大きな木が立ち並んでいる事を根拠に今、決めただけに過ぎない。
もしかしたら、林の中かもしれないし、何処かの地主や地方貴族の所有地なのかもしれない。
ガラドリエルは馬車の見張りをユーノとマートニアの両名に任せて、フィールドワークに出かける事に決めた。
ディリオニスとガートールードの2名を共に連れて、森と仮定した場所の中を歩いていく。
霧が深くて濃いために、ガラドリエルは事前にランタンの中に火を灯すようにユーノに指示を出し、それをディリオニスに持たせ、更には先頭に立たせて歩いていく。
足下に落ちていた落ち葉が3人の足で壊れていく音が聞こえていく。
それ以外の音が殆ど聞こえない事をガラドリエルは不気味に思っていた。
この時、微かにガラドリエルが眉をひそめた事にガートルードは気付いた。
「陛下どうかなされましたか?」
「いや、昔似たような出来事に遭ったことを思い出してな、『夢を見たのに忘れてしまった』……こんな感覚だ。分かるか?」
ガートールードは首を横に振る。ガラドリエルは溜息を吐き、
「だろうな、経験の無い者には分からぬ。どうしてなのかは分からぬ。だが、私はどこかで今と似たような経験をした事があるのだ」
ガラドリエルが空中を向きながら、半ばうわ言のように言っていると、近くの木に矢が放たれた事に気付く。
ガートールードとディリオニスの2名の護衛が剣の鞘から剣引き抜く。
ガートールードは剣を抜いて、大きな声で叫ぶ。
「無礼者めッ!このお方がヴァレンシュタイン家の御令嬢にして女王、ガラドリエル・フォン・ヴァレンシュタインだと知っての狼藉か!?」
矢を放った人間は答えない。ガートールードはもう一度森の中に響き渡る程の大きな声で呼び掛ける。
「もう一度問うぞッ!貴様らは我々の目の前にいるお方がガラドリエル・フォン・ヴァレンシュタイン女王陛下だと知っての狼藉かと問うておるのだッ!」
ここでようやく、深い霧の向こうから農夫と思われる麦藁の帽子を被った緑色の服を着た男性が頭をかきながら歩いて来た。男の輪郭がハッキリと見えるのと同時に、霧は吹き飛ばされたかのように消え去り、鮮明な青色の空と真っ赤な太陽が姿を見せていた。
口元を無精髭で覆った男性はヘコヘコと頭を下げながら、ガラドリエルに非礼を詫びる。
「いや、すんません……それ程のお方とは知らなかったもので……私はここらの地域を治めるブルーノ・フォン・ゾンダーブルグ様の王国の民で、クルトと申します。猟師をやっておりますだ。どうも、鹿と間違えたらしくて」
「よい、ワザとではないのだろ?」
ガラドリエルの言葉にクルトの頬が緩む。
「そう言っていただけると、嬉しいですだぁ~それよりも、そのナリと先程の仰々しい肩書と言い、あなた様は王族の方でございますよね?なら、ゾンダーブルグ様のお客様だ。ゾンダーブルグ様のお屋敷はこの森を抜けた所ですだ。ご案内致しますだ」
クルトの案内に従って、女王の一行は森を抜けた。
ディリオニスは歩いている間も、ずっと気掛かりだったことを考えていた。
何故、クルトと出会った瞬間から霧が晴れたのだろう、と。
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