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星に願う sideソルネス
4話
しおりを挟む「何だかんだ言って、ラセジェスってやっぱり有能だよね。知ってたけど」
僕はデスクチェアの背もたれに姿勢を崩して身体を預け、側に立つ執事を見上げた。
「子爵は?」
「テルベルン候爵邸へ出向いております」
「ふーん……」
僕は行儀悪い姿勢のまま、窓の外に目を向ける。
あのパーティから更に日にちは過ぎ、いつの間にかライト公爵が失脚していた。予想通りあの公爵は宰相閣下を甘く見て、自分の策に溺れてしまったらしい。
「全く、宰相閣下は容赦がないなぁ」
まぁそのくらいじゃないと、僕は自分の大事な親友を渡す気にもなれないけどね。
くすくすと笑いながら、執事が持ってきてくれた手元の書類を捲る。『ソルネス至上主義』のラセジェスはその能力を遺憾なく発揮して、瞬く間にあのパーティに参加していた者達の情報を集めてくれた。
僕はこの子爵家を潰すと決めた。
徹底的に潰すには親類縁者全てをターゲットにするべきだし、そうなると反逆罪に問うのが一番早いかな、とラセジェスに伝えたら、あっという間に情報を集めてきたんだ。
素直に彼は凄いと思うけど、その張り切った理由が『僕に使われて嬉しい』ということらしく、変態臭くてちょっと引いてしまう。ま、いいけど。
「ねぇ……」
僕はもう一度執事に目を向ける。
「王宮にいる先生に連絡取ってくれる?」
この「先生」はラセジェスのことじゃない。彼の前に僕の教育を担当してくれた人物で、僕がラセジェスの紹介を願った人だ。
「ご用件は如何様に?」
「そうだなぁ……。『国と、閣下の大切な番の一大事についてお話がしたいから、繋ぎを宜しくね……』でどうかな?」
「畏まりました」
一礼して執事が退室するのを見届けてから、僕は机の引き出しを開けた。少し古びた宝箱代わりの箱を取り出す。そっと蓋を持ち上げて、箱に納まる懐しい品々を指で突いた。
「宰相閣下の貴重なお時間を頂くんだから、それに相応しい賄賂を準備しなくちゃね」
独り言ちて、箱の中から古いキューブを取り出した。キューブ自体は高価な物ではない。色んな情報を保存できるから、平民でも気軽に利用できるくらいの価格だ。
「昔、思い付いて保存していたコレが一番役に立ちそう」
僕はキューブを摘んで、陽の光に翳すように持ち上げて小さく笑う。
「賄賂はインパクトが強いほど効果的だもんね」
本当は大事な宝物であるこれを手放したくはないけれど、仕方がない。 さぁ、あとは宰相閣下にお目通りが叶うのを待つばかり。
★☆
やっぱり下位貴族の、爵位も継いでいない若造が願い出ても、直ぐには会えない訳で。先生に繋ぎを依頼してから少し時間があいて、漸く宰相閣下に会える日が決まった。その間にどうやらライト公爵邸の捜索は終了したようだった。
ラセジェスが調べたところによると、宰相閣下は有益な情報を手に入れることはできなかったみたいだ。そこら辺はさすが腐っても高位貴族、ライト公爵も情報管理はしっかりしていたらしい。自分に不利益になる証拠は既に処分済みだったようだ。
それならば、今回準備した書類は彼の気を引くことができるはず。そう思って僕は手元の書類ケースを見下ろす。
――流石に最強の聖獣である『獏』に相見えるとなると緊張するな……。
僕は大きくため息をついて、庭を一瞥した。
今日を上手く乗り切れば、これからも僕とレイの絆は途切れることはない。そのうち僕自身が反逆者の一族として処分されるまで、あの優しい親友に何かと救いの手を差し伸べることはできるはずだ。
「ソルネス様、準備が整いました」
「ああ、ありがとう。今、行きます」
呼びに来た侍女に返事をして、僕はキューブを掴むと立ち上がる。
さぁ、勝負の時が来た。
ーーレイ、幸運を祈ってて。
薄っすらと笑みをこぼして小さなキューブに口付けると、踵を返して部屋を後にした。
★☆★☆
「ソルネス殿、久し振りですな」
「ふふ……、ご無沙汰しています、パーストン先生。今回は無理をお願いして申し訳ありません」
王宮の入口まで迎えに来てくれていた先生と合流する。白髪の矍鑠とした姿の先生は、目を細めて僕を見下ろした。
「アレは役に立っていますかな?」
アレとはラセジェスのことだ。
ラセジェスを紹介してくれたのはパーストン先生だから、彼の働きぶりが気になるんだろうか?
「ラセジェスですか? それはもう、有り難いくらいに」
笑ってそう返せば、パーストン先生もゆるりと口角を上げた。
「我が孫ながら、少し扱い難い性質ですからな。制御するのも大変では?」
そう、ラセジェスの名前は、ラセジェス・パーストン。パーストン先生の孫にあたるんだ。
「それに関してはヒミツです」
まさか僕に命令されて喜々として働いてますとは、祖父であるパーストン先生には言えないなぁ……。
そう思って、内心こっそり苦笑いを洩らす。
そんな僕を優しく見守っていたパーストン先生に促されて、王宮の廊下を並んで歩き始めた。
「陛下に願い、宰相閣下と話をする機会を設けはしたが、あの方は手強い。要望を押し通すのは難しいだろうが、何か策があるのかね?」
真っ直ぐ前を向いたまま、歩みを止めずにパーストン先生は言う。僕はのんびり小首を傾げて、ゆるりと笑った。
「策は何も。ただ少しだけ、レイの幼馴染として喧嘩を売ろうかな、と」
「ふ……、喧嘩か。はたして閣下が買うかな?」
「別に買って貰わなくても良いんです。ただ……」
僕も真っ直ぐ廊下の先を見つめた。目的地である、飴色の両開きの扉が見える。
「僕は僕の気持ちを、ただ伝えるだけ」
ある意味、無謀とも言える僕の言葉に、何故かパーストン先生は眩しそうに目を細めた。
「ふふ、貴方には様々な事をお教えしましたが、それがどのような結果を生むのか。報告が楽しみですな」
ぽん、と僕の肩に手を置く。そして優しく扉に向けて押し出した。
「さぁ、行ってきなさい」
僕はチラリと先生に視線を流し、そして促されるまま扉の方へ足を進めた。
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