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第二章「海神懐潮風(わだつみなつのしおかぜ)」
【魂魄・壱】『輝く夜に月を見た』18話「才覚線」
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彼は伝説の陰陽士の孫として生まれたが才能はなく貴武に疎んじられて都を去ったこと、そしてこの村に辿り着いた身の上を話した。初対面でも氏素性を話せてしまう親近感が、なぜかフサ達にはあったのだ。
それというのも理由はハルの髪型にあった。彼の頭には三角の形をした犬耳のようなくせ毛が二つある。今は海辺生活による潮風で赤茶にあせたが朝廷ではよく犬半獣みたいだといじられたものだ。
「ボクは陰陽士の才能がなくて……出来ることといったら釣りくらい」
「サカナ オイシーヨ」
「釣りすごいですわっ」
目を輝かせるシュテルンとイヴァーキ。フサはその様子を横目に見ながら真剣な眼差しでハルに語りかけた。
「何はともあれ崖浦の島に行ってみましょう。ハルさん、案内して頂けますか」
「ええ、お役に立てるんだったら」
○
村からすぐ近くの切り立った崖は、急な斜面で岩が隆起し足の踏み場もなく、何人の侵入も許さない非常に危険な地形だった。
普通の人間であれば足が竦んでしまうだろうがフサは中性的で端正な顔つきを微塵も変えることなく、冷静に分析して目下の島を見つめハルに提案した。
「あちらに見えるのが崖浦の島ですね。常人では駆け降りることは不可能な急斜面ですが、私であれば何とか……」
「それは無茶ですッ……大怪我じゃ済まないですよ」
「大丈夫。私が背負いますから一緒に降りてみましょう。シュテルンとイヴァーキはここで待機していてください」
そう言うとフサは耳をピクピクと動かすと前傾姿勢にしゃがみ四つん這いになる。すると体中が白銀の毛に包まれた大きな犬の形になり、ハルを背に乗せると急斜面の崖をいともたやすく駆け降り始めた。
「すごいっ、半獣の方が獣化するところを初めて見ました」
「ハハハ、それ、もう崖下に着きますよ」
ガラガラと大小の岩を転がしながら崖下に駆け降りたフサ。崖下に着きハルが飛び降りると、彼は大きな犬から元の姿へと戻っていった。
二人は崖下の浜から沖に見える孤島を見つめた。
その間には大きな渦が幾つもあり確かに容易に泳いで行けそうにない。フサは「キジがいれば飛んでいけるのに」と思ったがいない者を嘆いてもしょうがない。すると隣で腕を組んでいたハルが大きな声を上げた。
「あっ、大きな亀」
ハルが指さした方向には浜に打ち上げられた大きなウミガメが仰向けになっていた。「死んでいるのかな」と恐る恐る近づいたハルに鼻をクンクンと鳴らしたフサが制止する。
「このウミガメは半獣です」
「ウ……ウーン」
「カメさん、シッカリするのです」
「……ハッ、あなたは」
「私は戌の村のフサ、こちらはハル殿です。一体どうしたのですか」
「実は……竜宮城で乙姫様のお世話をしている者なのですが」
「りゅ、竜宮城?」
ウミガメが言うには海の王国ーー竜宮城は乙姫と呼ばれる姫の統治のもと永く平和で穏やかだったが、海獣クラーケンが乙姫に求婚を断られ、それにより怒った海獣によって龍宮への唯一の移動手段である「竜宮の使い」が監禁されてしまったという。
ウミガメは竜宮に帰れないだけでなく、島の行き来までもできないことを話した。
「えっ、ウミガメなのに泳げないのですか」
「お恥ずかしい……実はカナヅチなのです」
「ボクもですっ」
「それにしても獣化したままなのですね」
「はい、実は遠い昔に『玉手箱の呪い』にかかってしまいこの姿に。あの孤島でのみ元の姿に戻れるのですが」
「……カメさんはカナヅチ」
「お恥ずかしい」
「もしかすると……カメさんが何某の太郎殿ですかっ」
「昔は崖の浦の島に住む太郎、浦島太郎と呼ばれていました」
「なんとっ……我々の仲間が怪我をしているのです。万病治療の術をご存知ですかッ」
「申し訳ない……恐らく『玉手箱の呪い』が時を経て誤って伝承されたかと……」
「……そうですか」
「けれど……乙姫様であれば、きっと傷を癒す術をご存知でしょう」
「えッ、だったら竜宮城に行かないとッ」
「そうですね。竜宮の使いを自由の身にしなくては……」
「何か良い方法はないものでしょうか」
「竜宮の使いが監禁されているのは龍宮城よりも深い所にあるクラーケンの巣なのです。あそこにはどんな泳ぎの名人でも到達することは不可能です」
「流石の私も犬かきではそう深くは潜れません」
「乙姫様に結婚を承諾してもらうとか……」
「とんでもないッ……乙姫様はとても面食いなのです。器量良しなご自分に釣り合う美男子でないと納得するはずがありませんっ」
「うーん、私のこの中性的な美顔を以てしてもムリでしょうか」
「……」
「……」
石化するハルと浦島。
「コホン。私が元の姿に戻れたなら離島にある釣り竿で竜宮の使いを召喚できるのですがカメの姿では持てないし」
「えっ……召喚?」
「左様です。実は竜宮城に使える前は朝廷の陰陽所に仕えていたのです。お恥ずかしながら召喚の術は得意でした」
「陰陽所ッ、じゃあ晴明を知ってますか。ボクの祖父なんですっ」
「晴明? いえ、存じて居りません」
「そっか……ですよね。それにしても釣り竿で召喚するなんて」
「はい。召喚士はまず才能が必要で、二つ目に召喚する対象より優位であることを示さねばなりません。そして三つ目にとても大切なものが……彼らの概念が潜む……記憶の泉との触媒となる道具」
「触媒となる道具……」
「そう言えばハルさんも……釣りがお好きなようですね」
浦島はハルの持つ釣り竿を見て尋ねた。ハルは悲しそうに竿を手に取った。
「釣り糸を垂らせば魚が勝手に釣れちゃうんです。昔は釣りが好きでしたが……」
「勝手に釣れてしまう……ホム、両手を見せては貰えませんか」
「あ、はい」
ハルは浦島に向けて両の掌を返して見せた。彼は手相にジッと目を凝らすと真剣な眼差しでハルを見て呟いた。
「なるほど……ハル殿は、左右の掌で才覚線が異なります」
「才覚線?」
「左様。才覚線を見ると手相の持ち主の適職が分かります。左右の掌で異なるということは未だハル殿は天職に巡り合えていない。才能を無駄遣いして適職についていないことを示しています」
「よくご存知ですね」
「元々、陰陽術は分析能力が基本となっています。手相や骨相、それに星占や水占も得意です」
「僕にはどんな仕事の才能があるっていうんですか」
「ずばり……『召喚』です」
「えっ……そんなっ、実はボク、召喚も使役の才能も無くて都を追い出されたんですよ」
「なるほど。現在は陰陽所が召喚と使役に分けられたのですな。いや、案ずるな。才覚線が召喚こそ適職だと告げております」
「まさか」
「ハル殿は釣りが得意……というより勝手に釣れてしまう。私もその才覚があるので分かるのです。水面にただ釣り糸を垂らしただけで釣れてしまうのが証です」
「そう……なの?」
「試しにそうですね。今までの人生の中でハル殿が優位に感じたものはありませんか。ケンカで負かせた相手とか」
「え、いや……ボクは腕っぷしに自信がないからケンカが弱くて」
「学問などは……」
「くぅ……これも驚くほど全然ダメで」
「なるほど。であれば、恋愛でおモテになられたこととか」
「……う……う……」半べそをかくハル。
「……お……お……」思わず貰い泣きをする浦島太郎。
「……あ」
「どうしました?」
「昔一度だけ、女の子を傷つけてしまった事があるんだ。朝廷に仕える侍女所の士女で名前は確か……エッ」
それというのも理由はハルの髪型にあった。彼の頭には三角の形をした犬耳のようなくせ毛が二つある。今は海辺生活による潮風で赤茶にあせたが朝廷ではよく犬半獣みたいだといじられたものだ。
「ボクは陰陽士の才能がなくて……出来ることといったら釣りくらい」
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「ええ、お役に立てるんだったら」
○
村からすぐ近くの切り立った崖は、急な斜面で岩が隆起し足の踏み場もなく、何人の侵入も許さない非常に危険な地形だった。
普通の人間であれば足が竦んでしまうだろうがフサは中性的で端正な顔つきを微塵も変えることなく、冷静に分析して目下の島を見つめハルに提案した。
「あちらに見えるのが崖浦の島ですね。常人では駆け降りることは不可能な急斜面ですが、私であれば何とか……」
「それは無茶ですッ……大怪我じゃ済まないですよ」
「大丈夫。私が背負いますから一緒に降りてみましょう。シュテルンとイヴァーキはここで待機していてください」
そう言うとフサは耳をピクピクと動かすと前傾姿勢にしゃがみ四つん這いになる。すると体中が白銀の毛に包まれた大きな犬の形になり、ハルを背に乗せると急斜面の崖をいともたやすく駆け降り始めた。
「すごいっ、半獣の方が獣化するところを初めて見ました」
「ハハハ、それ、もう崖下に着きますよ」
ガラガラと大小の岩を転がしながら崖下に駆け降りたフサ。崖下に着きハルが飛び降りると、彼は大きな犬から元の姿へと戻っていった。
二人は崖下の浜から沖に見える孤島を見つめた。
その間には大きな渦が幾つもあり確かに容易に泳いで行けそうにない。フサは「キジがいれば飛んでいけるのに」と思ったがいない者を嘆いてもしょうがない。すると隣で腕を組んでいたハルが大きな声を上げた。
「あっ、大きな亀」
ハルが指さした方向には浜に打ち上げられた大きなウミガメが仰向けになっていた。「死んでいるのかな」と恐る恐る近づいたハルに鼻をクンクンと鳴らしたフサが制止する。
「このウミガメは半獣です」
「ウ……ウーン」
「カメさん、シッカリするのです」
「……ハッ、あなたは」
「私は戌の村のフサ、こちらはハル殿です。一体どうしたのですか」
「実は……竜宮城で乙姫様のお世話をしている者なのですが」
「りゅ、竜宮城?」
ウミガメが言うには海の王国ーー竜宮城は乙姫と呼ばれる姫の統治のもと永く平和で穏やかだったが、海獣クラーケンが乙姫に求婚を断られ、それにより怒った海獣によって龍宮への唯一の移動手段である「竜宮の使い」が監禁されてしまったという。
ウミガメは竜宮に帰れないだけでなく、島の行き来までもできないことを話した。
「えっ、ウミガメなのに泳げないのですか」
「お恥ずかしい……実はカナヅチなのです」
「ボクもですっ」
「それにしても獣化したままなのですね」
「はい、実は遠い昔に『玉手箱の呪い』にかかってしまいこの姿に。あの孤島でのみ元の姿に戻れるのですが」
「……カメさんはカナヅチ」
「お恥ずかしい」
「もしかすると……カメさんが何某の太郎殿ですかっ」
「昔は崖の浦の島に住む太郎、浦島太郎と呼ばれていました」
「なんとっ……我々の仲間が怪我をしているのです。万病治療の術をご存知ですかッ」
「申し訳ない……恐らく『玉手箱の呪い』が時を経て誤って伝承されたかと……」
「……そうですか」
「けれど……乙姫様であれば、きっと傷を癒す術をご存知でしょう」
「えッ、だったら竜宮城に行かないとッ」
「そうですね。竜宮の使いを自由の身にしなくては……」
「何か良い方法はないものでしょうか」
「竜宮の使いが監禁されているのは龍宮城よりも深い所にあるクラーケンの巣なのです。あそこにはどんな泳ぎの名人でも到達することは不可能です」
「流石の私も犬かきではそう深くは潜れません」
「乙姫様に結婚を承諾してもらうとか……」
「とんでもないッ……乙姫様はとても面食いなのです。器量良しなご自分に釣り合う美男子でないと納得するはずがありませんっ」
「うーん、私のこの中性的な美顔を以てしてもムリでしょうか」
「……」
「……」
石化するハルと浦島。
「コホン。私が元の姿に戻れたなら離島にある釣り竿で竜宮の使いを召喚できるのですがカメの姿では持てないし」
「えっ……召喚?」
「左様です。実は竜宮城に使える前は朝廷の陰陽所に仕えていたのです。お恥ずかしながら召喚の術は得意でした」
「陰陽所ッ、じゃあ晴明を知ってますか。ボクの祖父なんですっ」
「晴明? いえ、存じて居りません」
「そっか……ですよね。それにしても釣り竿で召喚するなんて」
「はい。召喚士はまず才能が必要で、二つ目に召喚する対象より優位であることを示さねばなりません。そして三つ目にとても大切なものが……彼らの概念が潜む……記憶の泉との触媒となる道具」
「触媒となる道具……」
「そう言えばハルさんも……釣りがお好きなようですね」
浦島はハルの持つ釣り竿を見て尋ねた。ハルは悲しそうに竿を手に取った。
「釣り糸を垂らせば魚が勝手に釣れちゃうんです。昔は釣りが好きでしたが……」
「勝手に釣れてしまう……ホム、両手を見せては貰えませんか」
「あ、はい」
ハルは浦島に向けて両の掌を返して見せた。彼は手相にジッと目を凝らすと真剣な眼差しでハルを見て呟いた。
「なるほど……ハル殿は、左右の掌で才覚線が異なります」
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「左様。才覚線を見ると手相の持ち主の適職が分かります。左右の掌で異なるということは未だハル殿は天職に巡り合えていない。才能を無駄遣いして適職についていないことを示しています」
「よくご存知ですね」
「元々、陰陽術は分析能力が基本となっています。手相や骨相、それに星占や水占も得意です」
「僕にはどんな仕事の才能があるっていうんですか」
「ずばり……『召喚』です」
「えっ……そんなっ、実はボク、召喚も使役の才能も無くて都を追い出されたんですよ」
「なるほど。現在は陰陽所が召喚と使役に分けられたのですな。いや、案ずるな。才覚線が召喚こそ適職だと告げております」
「まさか」
「ハル殿は釣りが得意……というより勝手に釣れてしまう。私もその才覚があるので分かるのです。水面にただ釣り糸を垂らしただけで釣れてしまうのが証です」
「そう……なの?」
「試しにそうですね。今までの人生の中でハル殿が優位に感じたものはありませんか。ケンカで負かせた相手とか」
「え、いや……ボクは腕っぷしに自信がないからケンカが弱くて」
「学問などは……」
「くぅ……これも驚くほど全然ダメで」
「なるほど。であれば、恋愛でおモテになられたこととか」
「……う……う……」半べそをかくハル。
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