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第一章「外套男郷愁(だんだらおとこのたそがれ)」
【魂魄・参】『時空を刻む針を見よ』7話「貴武狼」
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突然の声に驚いたヨイチがふり向いた。
そこにいたのは爽やかな青年だが、衣服は人目を引くほど奇抜で、実際に道行く人々は怪訝そうに彼を見ている。
三角形が並んだ外套は赤と黒で染め抜かれ、血生臭い雰囲気を醸し出していた。軽やかに微笑む姿とは対照的に、腰に帯びた刀は長年使い古され錆びついていた。
「えっ、アンタは……」
「僕は時田冬至と言います。狂都の守護職、鬼殲組の組員なんだ……君たち、死者の書をどこで聞いたの」
「地元の鳩州で商人から……」
「やはりッ。情報を得るには商人からと境に来たのは正解でした。アハハッ」
赤黒三角の外套を海風にひるがえした青年は軽やかに笑うが……どこか不気味だ。彼は懐から何かが詰まった袋を取り出すとヨイチの目前にぶら下げた。
「……で、死者の書はどこにあるのですか。いい情報でしたら銭を弾みますよ」
「都じゃねぇのか。だから俺たちはこうして……」
「以前は貴武陛下がお持ちでしたが、今は行方知れずです。陛下は疑っていますが、盗んだのは私たちではありません。汚名を雪ぐ術も、都を追い出された我々にはない……困ったものです。アハハ」
「で、アンタも書を探しているってワケか」
「そうです。組のみんなもバラバラになってしまい……私は局長と副長の命令で西国に留まり、数日ずっと探しています。ご兄弟には命を救って貰った恩義があるのですが……ちょっぴり疲れちゃいましたよ」
「へぇ、見かけによらず律儀なんだな。それに兄弟で組織を率いてるなんて」
「はいっ、関東浅見局長と喜多方刻蔵兄弟は幼い頃から苦労されていて……まるでお二人は分身のように気持ちが分かり合い、一度戦うと……それはもうお強いですよ」
「兄弟なのに苗字が違うのか」
「はい。初めてお会いした方に話す内容ではないのですが……質問に答えてくれた礼です。お二人は幼い頃に親元を離れ別々に引き取られたのです。成長し互いの素性を知らぬまま刃を交えたそうですが、特別な何かで相手に気付いたと……うーん、ロマンですねぇ」
「なるほどなぁ、小さな頃に親元から離れるとツラいよな」
ヨイチはこの赤黒の青年と少し波長が合う気がした。彼自身も幼い頃に親を亡くした孤児だ。局長副長兄弟にも親近感を覚えたが、彼らを慕うこの青年に好感が持てたのだ。
「しかし……その外套、スゴイ色してんな」
「ダンダラですか。これは鬼殲組の正装です。何でも日ノ本三大仇討に数えられる四十七士の復讐で用いられた外套らしいですよ。このお話に感銘を受けたお二人が悲願達成のために採用したそうです。僕は格好良いから気に入っています……が、都の人からは嫌われているんですよねぇ。アハハ」
「そっか……じゃあな。俺たちは狂都に向かう」
「えぇッ?……ですからっ、都に死者の書はもう無いのですよ」
「なにかしらの情報が見つかるだろう」
「ムダですッ、すでに僕が何日も探し尽くしました。それよりどうでしょう……一緒に東国に行きませんか。局長副長が東北地方に探しに向かっています。合流すれば新たな情報が得られるかもっ」
「東北か……それなら行ってもいいな」
ヨイチは頷く。同じ東国でも穢土でなければいい……クミの命が失われた穢土には立ち寄りたくなかった。この心の呪縛はいつまで続くのか。彼は自嘲気味に笑う。
「では、旅の準備をしてきます。夕刻にここで落ち合いましょう」
「ああ」
そう言うと冬至は一目散に駆けて行った。後ろ姿を見送るヨイチに、吐き気から解放されたサロクが涙目で近付いて来た。
「ハァ……少し楽になったよ」
「死者の書は都に無いみたいだ。同じく書を探す鬼殲組のヤツと会ったから、一緒に東北に向かうぞ」
「え……」
「どうかしたのか」
「鬼殲組は第一皇子貴武を守る狼……貴武狼と蔑まれ、多くのヒトや半獣を処刑し、難破して日ノ本に辿り着く異人を鬼だと決めつけ殺した……何よりも血が好きな人斬り集団だって話だよ。そんな時代錯誤な連中がまだ存在するなんて」
「えっ、異人を?」
ヨイチは驚いた。自分達が住んでいた鳩州では異人は大切な貿易相手だ。彼らとの通商は鳩州でのみ許されていることは知っていたが、本州では野蛮な狩りがまだ行われているのか。
彼は会ったばかりの貴武狼――冬至を信用していいか、急に不安になった。
「でも……乗りかかった舟だ。行くしかない」
物陰では彼らの話を聞く者がいたが、ヨイチは走り行く貴武狼の背中を見つめ、背後の怪しげな影に気付くことはなかった――。
そこにいたのは爽やかな青年だが、衣服は人目を引くほど奇抜で、実際に道行く人々は怪訝そうに彼を見ている。
三角形が並んだ外套は赤と黒で染め抜かれ、血生臭い雰囲気を醸し出していた。軽やかに微笑む姿とは対照的に、腰に帯びた刀は長年使い古され錆びついていた。
「えっ、アンタは……」
「僕は時田冬至と言います。狂都の守護職、鬼殲組の組員なんだ……君たち、死者の書をどこで聞いたの」
「地元の鳩州で商人から……」
「やはりッ。情報を得るには商人からと境に来たのは正解でした。アハハッ」
赤黒三角の外套を海風にひるがえした青年は軽やかに笑うが……どこか不気味だ。彼は懐から何かが詰まった袋を取り出すとヨイチの目前にぶら下げた。
「……で、死者の書はどこにあるのですか。いい情報でしたら銭を弾みますよ」
「都じゃねぇのか。だから俺たちはこうして……」
「以前は貴武陛下がお持ちでしたが、今は行方知れずです。陛下は疑っていますが、盗んだのは私たちではありません。汚名を雪ぐ術も、都を追い出された我々にはない……困ったものです。アハハ」
「で、アンタも書を探しているってワケか」
「そうです。組のみんなもバラバラになってしまい……私は局長と副長の命令で西国に留まり、数日ずっと探しています。ご兄弟には命を救って貰った恩義があるのですが……ちょっぴり疲れちゃいましたよ」
「へぇ、見かけによらず律儀なんだな。それに兄弟で組織を率いてるなんて」
「はいっ、関東浅見局長と喜多方刻蔵兄弟は幼い頃から苦労されていて……まるでお二人は分身のように気持ちが分かり合い、一度戦うと……それはもうお強いですよ」
「兄弟なのに苗字が違うのか」
「はい。初めてお会いした方に話す内容ではないのですが……質問に答えてくれた礼です。お二人は幼い頃に親元を離れ別々に引き取られたのです。成長し互いの素性を知らぬまま刃を交えたそうですが、特別な何かで相手に気付いたと……うーん、ロマンですねぇ」
「なるほどなぁ、小さな頃に親元から離れるとツラいよな」
ヨイチはこの赤黒の青年と少し波長が合う気がした。彼自身も幼い頃に親を亡くした孤児だ。局長副長兄弟にも親近感を覚えたが、彼らを慕うこの青年に好感が持てたのだ。
「しかし……その外套、スゴイ色してんな」
「ダンダラですか。これは鬼殲組の正装です。何でも日ノ本三大仇討に数えられる四十七士の復讐で用いられた外套らしいですよ。このお話に感銘を受けたお二人が悲願達成のために採用したそうです。僕は格好良いから気に入っています……が、都の人からは嫌われているんですよねぇ。アハハ」
「そっか……じゃあな。俺たちは狂都に向かう」
「えぇッ?……ですからっ、都に死者の書はもう無いのですよ」
「なにかしらの情報が見つかるだろう」
「ムダですッ、すでに僕が何日も探し尽くしました。それよりどうでしょう……一緒に東国に行きませんか。局長副長が東北地方に探しに向かっています。合流すれば新たな情報が得られるかもっ」
「東北か……それなら行ってもいいな」
ヨイチは頷く。同じ東国でも穢土でなければいい……クミの命が失われた穢土には立ち寄りたくなかった。この心の呪縛はいつまで続くのか。彼は自嘲気味に笑う。
「では、旅の準備をしてきます。夕刻にここで落ち合いましょう」
「ああ」
そう言うと冬至は一目散に駆けて行った。後ろ姿を見送るヨイチに、吐き気から解放されたサロクが涙目で近付いて来た。
「ハァ……少し楽になったよ」
「死者の書は都に無いみたいだ。同じく書を探す鬼殲組のヤツと会ったから、一緒に東北に向かうぞ」
「え……」
「どうかしたのか」
「鬼殲組は第一皇子貴武を守る狼……貴武狼と蔑まれ、多くのヒトや半獣を処刑し、難破して日ノ本に辿り着く異人を鬼だと決めつけ殺した……何よりも血が好きな人斬り集団だって話だよ。そんな時代錯誤な連中がまだ存在するなんて」
「えっ、異人を?」
ヨイチは驚いた。自分達が住んでいた鳩州では異人は大切な貿易相手だ。彼らとの通商は鳩州でのみ許されていることは知っていたが、本州では野蛮な狩りがまだ行われているのか。
彼は会ったばかりの貴武狼――冬至を信用していいか、急に不安になった。
「でも……乗りかかった舟だ。行くしかない」
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