魂魄シリーズ

常葉寿

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第二章「待希望砂星(まちのぞむきぼうすなぼし)」

【魂魄・参】『時空を刻む針を見よ』8話「生への執着」

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 ホムラは再び半獣たちの王国に戻り、獅子王から石鉢を盗むと火口へ向かい、追手から逃げていた。

 今まで温厚で頼もしかった王は石鉢により一霊四魂が淀み、まるで餌に群がる餓鬼のように石鉢を探している。

 他の半獣たちを軽んじる豹変ぶりに、嫌気を感じた多くの半獣が王を見限りホムラの元に集っていた。

「ホムラ殿、あの獅子王の変わりようは一体……」

 武骨な虎半獣が王の異変に驚きを隠せない様子で尋ねた。彼はかつて獅子王に敗れたが、王は敗者を軽んじる事なく、その雄姿を称えて握手を求めた。

 虎半獣バウムはその威厳に完膚無きまでに叩きのめされ、彼の男気に惚れ抜いたほどであった。今の獅子王はまるで別人だ。

「全て私の責任だ」

「……どういう事だッ」

 バウムはホムラに詰め寄るが彼は真実を話す気はなかった。自分たちが月から病を地球に運んだことは責められて当然だが、なによりも情報開示による多大な混乱を恐れた。

 誰の手にも及ばない不死山火口に石鉢を葬り、墓場まで秘密を持ち込む――それで全てが丸く収まると思っていた。

「む、あれは味方の兵士達……何があったッ」

 バウムが叫んで彼らに走り寄る。籠城ろうじょうする陣営に来たのは、残虐な拷問を受けた味方兵が馬や牛に積まれた姿だった。彼はその様子を見て驚愕のあまり咆哮を上げる。

「し、獅子王めッ……なんと惨いことをッ」

「これは脅しだ。石鉢の在処ありかを言わねば被害は更に大きくなるぞ……とな」

 明らかに動揺を隠せないバウムの横でホムラが悔しそうに歯を食いしばる。

「石鉢だとッ、何を隠しているんだ!」

 逆上したバウムはホムラの胸倉をつかんで壁に叩き付けた。ホムラは彼の目を直視することが出来ない。全て自分の責任だが、真実を話せば彼や自分を慕う半獣を更に危険に晒してしまう。

「クッ……獅子王に話をつけてくるッ」

「待てッ」

 ホムラは翼を広げ、制止するバウムを振りきると空高く舞い上がった。遥か上空から前方を見れば、数万の半獣がこちらに攻め入るのが見えた。

「これでは同士討ちになるッ」

 ホムラは大群中央にいる獅子王目がけて飛んだ。

「王よッ、いい加減に目を覚ませ。あの石鉢は危険だッ、自分の顔を見てみろッ」

「うるさいッ、さっさと石鉢を寄こせ! 拒めば更に多くの血を見ることになるぞッ」

 獅子王は憔悴しょうすいしきり血走った眼で上空にいるホムラを睨み付ける。彼は皮と骨だけとなり痩せ細っていた。

 もはや一人では立ち上がることも出来ないほど筋肉はこそげ落ち、血色は悪く立派なたてがみも抜け落ち見る影もない。

 ホムラは石鉢の威力を目の当たりにし、これ以上被害を広げてはならないと決意し王に叫んだ。

「石鉢は私しか知らない場所に隠したッ。知りたかったら追って来るがいいッ」

小癪こしゃくなッ、弓矢隊……あの鳥を撃ち落としてしまえッッ」

 獅子王の指示を受けた半獣が次々に矢を放つ。ホムラは空中で巧みに避けて不死山火口に向かう。大軍が彼を追って山頂に辿り着くと、淵に立ったホムラが詰め寄る獅子王軍に徐ろに語りかけた。

「半獣たちよ……目を覚ますのだ。獅子王は病に伏せられ正気ではないッ」

「うるさいッ……ハァハァ、何の病だというのだ」

と言う名の病だ。誰もが限られた命だからこそ、この世は儚く美しい。永遠の命など幻想に過ぎん」

「黙れ黙れッッ……生きようとして何が悪い。生きるための命ではないかッ」

「誰もが死ぬために生き、生きるために死ぬのだ。命は巡って次の時代に繋がる。王なのに……それさえも解らぬのかッ」

「なんだとッ、放浪したお前らを迎え入れた恩を仇で返すとは……渡さぬなら苦しみながら死んでゆけッッ」

「いいだろうッ、アレの所在ありかを言うくらいなら、命など惜しくないッ」

 興奮した獅子王の残り少ない体力で放たれた一撃が両手を広げた無防備なホムラを斬りつけた。そして鳳凰族は「秘密は……私と共に墓の中だ」と呟き、ニヤリと勝利の笑みを顔に宿したまま、溶岩が燃え盛る火口へと落ちていった。

 ホムラを貫いた剣を杖代わりにした老いた獅子王が、その場に泣き崩れる。友を自らの刃で殺めたのを悲しむ涙ではなく、石鉢いしばちを失った自分のためにむせび泣いた。

「のれぇ……おのれェ……己ぇッッ……」

 半獣たちは彼を囲み、ある者はかける言葉も見つからず、ある者は見限って下山した。そして、ある半獣が火口に落ちた鳳凰族を覗き見ようとした刹那、獅子王の身に甚大な異変が起こる……。

「うッッウゴ……ウッ……ガゴグゲゴゴッッ」

 頭を抱え苦しそうに見悶みもだえる獅子王。すると彼の身体が再び隆起し始め、筋肉が盛り上がる。毛並みは輝きをとりもどし、立ち上がった頭上には二本の角が天高く伸び上がっていた。

 獅子王は無表情で立ち上がると、不審がる兵たちを無視して走り去った。

 ――ドサッ
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