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11~20話
喉の渇きの前では無力【下】
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ティースプーンに両手を添えて、口を付ける。
そこまでの大きさはないものの、気分は優勝力士の大盃のよう。
クロが慎重にスプーンを傾けるのに合わせ、ゴクゴクと一気に紅茶を飲み干した。
「っぷはぁー! 美味しいーっ!!」
ミルクの混ざったなめらかな口当たり。
冷めてもなお香り高い、上質な紅茶。
渇ききった喉から全身へと染み渡り、萎びたミイラが瑞々しく息を吹き返したような心地がする。
「それはよかった。おかわりは?」
「お願いします!」
二回ほどおかわりをして、ようやく満足して息を吐いた。
「はぁー……生き返った」
「ほら、こっちも食べるといい」
クロがクッキーを一枚摘まみ、差し出してくれる。
「ありがとうございます! ……?」
私が両手で受け取っても、クロはなぜかクッキーから手を放さない。
食べろと言っていた手前くれるのが惜しくなったとも考え難いので、仕方なくそのまま噛りついた。
サクッ
「んぐ、んむ、美味しーーっ!」
朝に食べたリーフパイも美味しかったけれど、喉の渇きが潤った状態で食べるお菓子はまた格別だ。
紅茶によく合う、香ばしいバターの香りが鼻に抜ける。
サクサクと夢中で噛り進めながらふと視線を感じて見上げると、目を細めたクロの慈しむような視線とかち合った。
「……あんまり見ないでください」
「それは難しい相談だな……。そろそろ紅茶のおかわりはどうだ?」
「あっ、いただきます!」
「ふぅーお腹いっぱい。幸せー」
クッキーで膨らんだ頬をつつかれ吹き出しそうになったりとクロも好き勝手してくるものだから、私ももう遠慮も何もなくなって、クロの手のひらの上にコロンと寝そべった。
はみ出した脚をブラブラと揺らしながら、満足感たっぷりにお腹をさする。
「かわ――――っ」
一緒にお腹をさすりたそうな指先が上空をさ迷っている。
やめてやめて。今お腹押されたら出ちゃう!
サッと両腕でお腹を庇うと、指は残念そうに引き返していった。
「俺はそろそろ仕事に戻らなくてはならないが……ヒナはしばらくここに滞在してくれるのだろうか?」
「えっと、しばらくは……その、ご迷惑じゃなければ……」
むくりと起き上がり、そわそわと居ずまいを正す。
他の人間は立ち入り禁止だと言っていた休憩室に、妖精もどきがいるのもどうなのだろう。一人の時間の邪魔になってしまうのではないだろうか。
しかしここを追い出されでもしたら、野生動物の餌になる未来しか見えない。
『夢』が覚めるまでの……あいだ、だけ……。
「何ヵ月でも何年でも、好きなだけいてくれていい」
「…………本当に?」
「ああ。ヒナのお陰でよく休まって身体の調子もいい。こちらから頼みたいくらいだ」
「……えへへ、ありがとうございます」
真っ直ぐなクロの厚意に、安心してへにゃりと頬を緩めた。
そこまでの大きさはないものの、気分は優勝力士の大盃のよう。
クロが慎重にスプーンを傾けるのに合わせ、ゴクゴクと一気に紅茶を飲み干した。
「っぷはぁー! 美味しいーっ!!」
ミルクの混ざったなめらかな口当たり。
冷めてもなお香り高い、上質な紅茶。
渇ききった喉から全身へと染み渡り、萎びたミイラが瑞々しく息を吹き返したような心地がする。
「それはよかった。おかわりは?」
「お願いします!」
二回ほどおかわりをして、ようやく満足して息を吐いた。
「はぁー……生き返った」
「ほら、こっちも食べるといい」
クロがクッキーを一枚摘まみ、差し出してくれる。
「ありがとうございます! ……?」
私が両手で受け取っても、クロはなぜかクッキーから手を放さない。
食べろと言っていた手前くれるのが惜しくなったとも考え難いので、仕方なくそのまま噛りついた。
サクッ
「んぐ、んむ、美味しーーっ!」
朝に食べたリーフパイも美味しかったけれど、喉の渇きが潤った状態で食べるお菓子はまた格別だ。
紅茶によく合う、香ばしいバターの香りが鼻に抜ける。
サクサクと夢中で噛り進めながらふと視線を感じて見上げると、目を細めたクロの慈しむような視線とかち合った。
「……あんまり見ないでください」
「それは難しい相談だな……。そろそろ紅茶のおかわりはどうだ?」
「あっ、いただきます!」
「ふぅーお腹いっぱい。幸せー」
クッキーで膨らんだ頬をつつかれ吹き出しそうになったりとクロも好き勝手してくるものだから、私ももう遠慮も何もなくなって、クロの手のひらの上にコロンと寝そべった。
はみ出した脚をブラブラと揺らしながら、満足感たっぷりにお腹をさする。
「かわ――――っ」
一緒にお腹をさすりたそうな指先が上空をさ迷っている。
やめてやめて。今お腹押されたら出ちゃう!
サッと両腕でお腹を庇うと、指は残念そうに引き返していった。
「俺はそろそろ仕事に戻らなくてはならないが……ヒナはしばらくここに滞在してくれるのだろうか?」
「えっと、しばらくは……その、ご迷惑じゃなければ……」
むくりと起き上がり、そわそわと居ずまいを正す。
他の人間は立ち入り禁止だと言っていた休憩室に、妖精もどきがいるのもどうなのだろう。一人の時間の邪魔になってしまうのではないだろうか。
しかしここを追い出されでもしたら、野生動物の餌になる未来しか見えない。
『夢』が覚めるまでの……あいだ、だけ……。
「何ヵ月でも何年でも、好きなだけいてくれていい」
「…………本当に?」
「ああ。ヒナのお陰でよく休まって身体の調子もいい。こちらから頼みたいくらいだ」
「……えへへ、ありがとうございます」
真っ直ぐなクロの厚意に、安心してへにゃりと頬を緩めた。
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