76 / 165
21~30話
手のひらまでの距離【上】
しおりを挟む
「はぁ……」
何度目かもわからないため息を吐き出して、ごろりとベッドに寝転ぶ。
きらきらしい王子様のクロは今頃、華やかに着飾った令嬢とダンスでも踊っているのだろうか。
そしてそんなクロの姿を、若い女性の誰もがうっとりと見つめるのだ。
「はぁ……」
淡い紫色の天蓋をじっと見つめてみても、何も映し出されはしない。
チリリと頭が痛む。
今一つ元気が湧いてこないのは、きっとこの頭痛のせいだ。
うん。こんなときは早く寝てしまうに限る。
布団を被って目を閉じれば、鼓動を伝えないベッドシーツの冷やかな温度に、またじわじわと胸の沈んでいくような心地がした。
…………カチャッ
なかなか寝付けずに延々と寝返りを繰り返していた私は、微かな物音にパチリと目を覚ました。
クロ……?
この部屋に他の人は入れないのだからクロに違いないはずだけれど、こんな夜中にどうしたのだろう。
そっと寝室を抜けて廊下の窓から『外』を見れば、マントを外し前髪をくしゃりとかき下ろしたクロが、正面のソファに座るところだった。
ぱたぱたぱた……、ガパッ
「クロ!」
「――ヒナ! すまない、起こしてしまったか?」
下ろしたばかりの腰を上げ、クロが大股でこちらにやってくる。
前髪を下ろし、そうやって私を気遣ってくれる姿は、やっぱり私の知っているいつものクロで。
なんだか無性に安心して、へにゃりと緩んだ笑みを浮かべる。
「寝付けずにいたので大丈夫ですよ」
「そうか」
クロも安心したように息をつくと、私に手を差し出しかけ――何かに気付いたように、サッとその手を引っ込めた。
「え……」
抱っこを受け入れようとクロへ伸ばした両腕が、虚しく宙をかく。
「寝ている時間だとはわかっていたんだが、少しでもヒナの顔が見たくて……気付いたら、足がここに向かっていた」
優しい言葉が心の表面を滑り落ちる。
いつも過剰なほどにスキンシップをしてくるクロが、触れてこない。
「休んでいるところを邪魔してしまってすまない。だが、こうして顔を見られてよかった」
頬を突つきもしなければ、頭を撫でもしない。
呆然と、届かない位置にあるクロの手を見つめる。
何度目かもわからないため息を吐き出して、ごろりとベッドに寝転ぶ。
きらきらしい王子様のクロは今頃、華やかに着飾った令嬢とダンスでも踊っているのだろうか。
そしてそんなクロの姿を、若い女性の誰もがうっとりと見つめるのだ。
「はぁ……」
淡い紫色の天蓋をじっと見つめてみても、何も映し出されはしない。
チリリと頭が痛む。
今一つ元気が湧いてこないのは、きっとこの頭痛のせいだ。
うん。こんなときは早く寝てしまうに限る。
布団を被って目を閉じれば、鼓動を伝えないベッドシーツの冷やかな温度に、またじわじわと胸の沈んでいくような心地がした。
…………カチャッ
なかなか寝付けずに延々と寝返りを繰り返していた私は、微かな物音にパチリと目を覚ました。
クロ……?
この部屋に他の人は入れないのだからクロに違いないはずだけれど、こんな夜中にどうしたのだろう。
そっと寝室を抜けて廊下の窓から『外』を見れば、マントを外し前髪をくしゃりとかき下ろしたクロが、正面のソファに座るところだった。
ぱたぱたぱた……、ガパッ
「クロ!」
「――ヒナ! すまない、起こしてしまったか?」
下ろしたばかりの腰を上げ、クロが大股でこちらにやってくる。
前髪を下ろし、そうやって私を気遣ってくれる姿は、やっぱり私の知っているいつものクロで。
なんだか無性に安心して、へにゃりと緩んだ笑みを浮かべる。
「寝付けずにいたので大丈夫ですよ」
「そうか」
クロも安心したように息をつくと、私に手を差し出しかけ――何かに気付いたように、サッとその手を引っ込めた。
「え……」
抱っこを受け入れようとクロへ伸ばした両腕が、虚しく宙をかく。
「寝ている時間だとはわかっていたんだが、少しでもヒナの顔が見たくて……気付いたら、足がここに向かっていた」
優しい言葉が心の表面を滑り落ちる。
いつも過剰なほどにスキンシップをしてくるクロが、触れてこない。
「休んでいるところを邪魔してしまってすまない。だが、こうして顔を見られてよかった」
頬を突つきもしなければ、頭を撫でもしない。
呆然と、届かない位置にあるクロの手を見つめる。
33
あなたにおすすめの小説
推しの幸せをお願いしたら異世界に飛ばされた件について
あかね
恋愛
いつも推しは不遇で、現在の推しの死亡フラグを年末の雑誌で立てられたので、新年に神社で推しの幸せをお願いしたら、翌日異世界に飛ばされた話。無事、推しとは会えましたが、同居とか無理じゃないですか。
落ちて拾われて売られて買われた私
ざっく
恋愛
この世界に来た日のことは、もうあまり覚えていない。ある日突然、知らない場所にいて、拾われて売られて遊女になった。そんな私を望んでくれた人がいた。勇者だと讃えられている彼が、私の特殊能力を見初め、身請けしてくれることになった。
最終的には溺愛になる予定です。
次期騎士団長の秘密を知ってしまったら、迫られ捕まってしまいました
Karamimi
恋愛
侯爵令嬢で貴族学院2年のルミナスは、元騎士団長だった父親を8歳の時に魔物討伐で亡くした。一家の大黒柱だった父を亡くしたことで、次期騎士団長と期待されていた兄は騎士団を辞め、12歳という若さで侯爵を継いだ。
そんな兄を支えていたルミナスは、ある日貴族学院3年、公爵令息カルロスの意外な姿を見てしまった。学院卒院後は騎士団長になる事も決まっているうえ、容姿端麗で勉学、武術も優れているまさに完璧公爵令息の彼とはあまりにも違う姿に、笑いが止まらない。
お兄様の夢だった騎士団長の座を奪ったと、一方的にカルロスを嫌っていたルミナスだが、さすがにこの秘密は墓場まで持って行こう。そう決めていたのだが、翌日カルロスに捕まり、鼻息荒く迫って来る姿にドン引きのルミナス。
挙句の果てに“ルミタン”だなんて呼ぶ始末。もうあの男に関わるのはやめよう、そう思っていたのに…
意地っ張りで素直になれない令嬢、ルミナスと、ちょっと気持ち悪いがルミナスを誰よりも愛している次期騎士団長、カルロスが幸せになるまでのお話しです。
よろしくお願いしますm(__)m
兄みたいな騎士団長の愛が実は重すぎでした
鳥花風星
恋愛
代々騎士団寮の寮母を務める家に生まれたレティシアは、若くして騎士団の一つである「群青の騎士団」の寮母になり、
幼少の頃から仲の良い騎士団長のアスールは、そんなレティシアを陰からずっと見守っていた。レティシアにとってアスールは兄のような存在だが、次第に兄としてだけではない思いを持ちはじめてしまう。
アスールにとってもレティシアは妹のような存在というだけではないようで……。兄としてしか思われていないと思っているアスールはレティシアへの思いを拗らせながらどんどん膨らませていく。
すれ違う恋心、アスールとライバルの心理戦。拗らせ溺愛が激しい、じれじれだけどハッピーエンドです。
☆他投稿サイトにも掲載しています。
☆番外編はアスールの同僚ノアールがメインの話になっています。
辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました
腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。
しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。
借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる
しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。
いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに……
しかしそこに現れたのは幼馴染で……?
【完結】嫌われ令嬢、部屋着姿を見せてから、王子に溺愛されてます。
airria
恋愛
グロース王国王太子妃、リリアナ。勝ち気そうなライラックの瞳、濡羽色の豪奢な巻き髪、スレンダーな姿形、知性溢れる社交術。見た目も中身も次期王妃として完璧な令嬢であるが、夫である王太子のセイラムからは忌み嫌われていた。
どうやら、セイラムの美しい乳兄妹、フリージアへのリリアナの態度が気に食わないらしい。
2ヶ月前に婚姻を結びはしたが、初夜もなく冷え切った夫婦関係。結婚も仕事の一環としか思えないリリアナは、セイラムと心が通じ合わなくても仕方ないし、必要ないと思い、王妃の仕事に邁進していた。
ある日、リリアナからのいじめを訴えるフリージアに泣きつかれたセイラムは、リリアナの自室を電撃訪問。
あまりの剣幕に仕方なく、部屋着のままで対応すると、なんだかセイラムの様子がおかしくて…
あの、私、自分の時間は大好きな部屋着姿でだらけて過ごしたいのですが、なぜそんな時に限って頻繁に私の部屋にいらっしゃるの?
異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?
すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。
一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。
「俺とデートしない?」
「僕と一緒にいようよ。」
「俺だけがお前を守れる。」
(なんでそんなことを私にばっかり言うの!?)
そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。
「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」
「・・・・へ!?」
『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!?
※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。
※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。
ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる