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21~30話
手のひらまでの距離【中】
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「こんな時間だ、さすがに眠いだろう。俺はもう行くから、ヒナもゆっくり休んでくれ」
反応のない私を眠気のせいだと理解して気遣ってくれるあいだにも、大きな手のひらは、やっぱり遠くにあって。
初めての『拒絶』ともとれるクロの反応を前に、ただでさえ萎れていた私の心は呆気なくぺしゃりと崩れた。
「……もう、触るのも嫌ですか?」
ぐっと顔を俯け、震えそうになる声を抑えつけて絞り出す。
「? 何を――」
「今日のパーティーで、素敵な出逢いでもありましたか? 好きな人ができて……だからもう、私と一緒にいるのはおしまい?」
『お人形遊び』などやめて、恋人に時間を割くために。
眼球に張る涙の膜を散らそうと強く瞬く。
手に手をとって並ぶ、クロと美しい令嬢。
何度も思い浮かべたその光景は、まるで現実のような鮮明さで脳裏にこびりついて離れない。
「ヒナ……」
戸惑いを孕んだ声に、クロを困らせているのだと知る。
別にクロがどこで何をしようと、私に文句を言う権利なんてないのに。
ただ――――ただ、こんなにも構っておいて急に放り出すなんて、あまりにも自分勝手すぎると怒りが湧いてくるだけだ。
そう、これはただの――
「俺の想い人に妬いているのか?」
ザァッと、思考が白く塗りつぶされた。
言われた内容もよくわからないのに、クロの声が発した『想い人』という単語だけがいやにはっきりと頭に飛び込んで、ガンガンと頭痛を悪化させる。
「違います! ちがっ……、私は……っ」
わからない。
わからないからとにかく首を振る。違う。
私は単に、クロの自分勝手な振る舞いに怒っているだけで!
「妬いてくれたほうが、俺としては嬉しいが」
「…………」
頭上から降る声の、嬉しそうな様子に困惑する。
クロは片膝を立てて床に跪くと、棚の上に立つ私と視線を合わせた。
「触れなかったのは、ヒナを利用したくなかったからだ」
反応のない私を眠気のせいだと理解して気遣ってくれるあいだにも、大きな手のひらは、やっぱり遠くにあって。
初めての『拒絶』ともとれるクロの反応を前に、ただでさえ萎れていた私の心は呆気なくぺしゃりと崩れた。
「……もう、触るのも嫌ですか?」
ぐっと顔を俯け、震えそうになる声を抑えつけて絞り出す。
「? 何を――」
「今日のパーティーで、素敵な出逢いでもありましたか? 好きな人ができて……だからもう、私と一緒にいるのはおしまい?」
『お人形遊び』などやめて、恋人に時間を割くために。
眼球に張る涙の膜を散らそうと強く瞬く。
手に手をとって並ぶ、クロと美しい令嬢。
何度も思い浮かべたその光景は、まるで現実のような鮮明さで脳裏にこびりついて離れない。
「ヒナ……」
戸惑いを孕んだ声に、クロを困らせているのだと知る。
別にクロがどこで何をしようと、私に文句を言う権利なんてないのに。
ただ――――ただ、こんなにも構っておいて急に放り出すなんて、あまりにも自分勝手すぎると怒りが湧いてくるだけだ。
そう、これはただの――
「俺の想い人に妬いているのか?」
ザァッと、思考が白く塗りつぶされた。
言われた内容もよくわからないのに、クロの声が発した『想い人』という単語だけがいやにはっきりと頭に飛び込んで、ガンガンと頭痛を悪化させる。
「違います! ちがっ……、私は……っ」
わからない。
わからないからとにかく首を振る。違う。
私は単に、クロの自分勝手な振る舞いに怒っているだけで!
「妬いてくれたほうが、俺としては嬉しいが」
「…………」
頭上から降る声の、嬉しそうな様子に困惑する。
クロは片膝を立てて床に跪くと、棚の上に立つ私と視線を合わせた。
「触れなかったのは、ヒナを利用したくなかったからだ」
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