ちっちゃくて可愛いものがお好きですか。そうですかそうですか。もう十分わかったので放してもらっていいですか。

南田 此仁

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21~30話

手のひらまでの距離【上】

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「はぁ……」

 何度目かもわからないため息を吐き出して、ごろりとベッドに寝転ぶ。

 きらきらしい王子様のクロは今頃、華やかに着飾った令嬢とダンスでも踊っているのだろうか。
 そしてそんなクロの姿を、若い女性の誰もがうっとりと見つめるのだ。

「はぁ……」

 淡い紫色の天蓋をじっと見つめてみても、何も映し出されはしない。

 チリリと頭が痛む。
 今一つ元気が湧いてこないのは、きっとこの頭痛のせいだ。
 うん。こんなときは早く寝てしまうに限る。

 布団を被って目を閉じれば、鼓動を伝えないベッドシーツの冷やかな温度に、またじわじわと胸の沈んでいくような心地がした。





 …………カチャッ

 なかなか寝付けずに延々と寝返りを繰り返していた私は、微かな物音にパチリと目を覚ました。

 クロ……?

 この部屋に他の人は入れないのだからクロに違いないはずだけれど、こんな夜中にどうしたのだろう。
 そっと寝室を抜けて廊下の窓から『外』を見れば、マントを外し前髪をくしゃりとかき下ろしたクロが、正面のソファに座るところだった。

 ぱたぱたぱた……、ガパッ

「クロ!」

「――ヒナ! すまない、起こしてしまったか?」

 下ろしたばかりの腰を上げ、クロが大股でこちらにやってくる。
 前髪を下ろし、そうやって私を気遣ってくれる姿は、やっぱり私の知っているいつものクロで。
 なんだか無性に安心して、へにゃりと緩んだ笑みを浮かべる。

「寝付けずにいたので大丈夫ですよ」

「そうか」

 クロも安心したように息をつくと、私に手を差し出しかけ――何かに気付いたように、サッとその手を引っ込めた。

「え……」

 抱っこを受け入れようとクロへ伸ばした両腕が、虚しく宙をかく。

「寝ている時間だとはわかっていたんだが、少しでもヒナの顔が見たくて……気付いたら、足がここに向かっていた」

 優しい言葉が心の表面を滑り落ちる。
 いつも過剰なほどにスキンシップをしてくるクロが、触れてこない。

「休んでいるところを邪魔してしまってすまない。だが、こうして顔を見られてよかった」

 頬を突つきもしなければ、頭を撫でもしない。
 呆然と、届かない位置にあるクロの手を見つめる。
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