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31~40話
お城には危険がいっぱい【下】
しおりを挟む怪我をして寝室にいたときとは違い、普段クロの執務室を訪れる人は少ない。
何かを言伝てに来る使用人か、ヤシュームくらいのものだ。
だから、それ以外の来訪者は珍しい。
しかも、断りもなく扉を開けるような人は。
ガチャッ
「クローヴェル~、ちょっと相談があるんだけどぉ」
「!!」
「…………ミディルアード、ノックをしろ」
万一に備え、執務机の上にはさりげなく本を積み上げた『壁』が作られているので、私の姿は見られていないはず。
バックバックと騒ぐ胸を落ち着かせながら、音を立てないよう慎重に移動して『壁』に背を付ける。
クロの咎めるような声にも動じず、ミディルアードと呼ばれた男性は話を続けた。
「次年度の研究室の予算なんだけどさぁ~」
「そういうことは俺でなく財務部に言え」
「それでどうにかなるなら、わざわざこ~んな城の端っこまで来ないよぉ。いくら魔力干渉を防ぐためって言ってもさぁ、こう離れてると不便じゃない?」
「余計な客も来なくて済む」
「あっはは」
仕事の話に聞き耳を立てるのはダメだろうと二人の会話を意識の外に追い出しつつ、壁の陰からこっそりと来訪者を観察する。
歳はクロと同じくらいだろうか。
以前、訓練場に行く途中にも会ったことのあるこの人物は、他の役人たちとは違って随分とクロに親しげな態度だ。
ひょろりとした痩躯にダボついた白衣、緑色の長い前髪からは薄笑いを浮かべる口元しか見えていない。
本当に、あの前髪で一体どうやって前を確認しているのか――
「――!?」
バッと顔を背けて上体を引く。
今、一瞬、目が合ったような――――!!?
……いやいや、まさか。気のせいだ。
そもそも、前髪に覆われて目さえ見えていないのだから。
「そういえばさぁ、前に言ってたナーメの花の栽培に成功したんだよねぇ。このままエリアを広げて量産化しようと思うんだけどぉ、どこまで使っていいかちょっと確認に来てくれない?」
クロの心配そうな視線がちらりとこちらに向く。
口の動きだけで『いってらっしゃい』と伝え、安心させるように笑顔で手を振ると、クロはミディルアードに視線を戻した。
「……わかった。一緒に行こう」
――ガチャッ
隠れ場所としてクロが半開きにしていってくれた引き出しの中で文具を眺めていると、扉の開く音が聞こえた。
二人が部屋を出てからまだ十分少々だろうか。もっと時間がかかるかと思っていたけれど、予想外に早いお戻りだ。
『おかえり』を告げようと覗かせた顔に、濃い影がかかった。
「――へぇ~、キミが妖精ぃ?」
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