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31~40話
お城には危険がいっぱい【上】
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夕食をとりながら。お風呂に入りながら。
私が聞けば、クロはなんでも教えてくれた。
王様が臥せっているのは、定期的に行われる結界への魔力供給による、大幅な魔力の減少に身体がついていかなくなってしまったためだという。
「王国全土を覆う『結界』へ魔力を供給できるのは国王だけだからな。早く王位を継がせたいと、口癖のように言っている」
「なるほど……」
魔力についてはよくわからないけれど、急激な運動で一気に体力を使い果たすような感覚だろうか。
だとすれば、かなりの負担がかかりそうだ。
帰りがけに会った少年はクロの弟――正確には異母弟――のネラウェルで、同行していたのは宰相のデラージ=バーグ。
クロの実のお母さんは、もう何年も前に亡くなっているのだそう……。
「ネラウェルにはすっかり嫌われてしまっているがな。それとヒナ、くれぐれもバーグ卿には油断しないでいてほしい」
油断しない、ねぇ。
油断。
油断……。
「……と、言いますと?」
油断するなと言われても、漠然としすぎて何をどう気をつければいいのかわからない。
「先日の剣の一件、俺は卿の仕業だと考えている」
「剣って、クロに向かって飛んできた!?」
「ああ。卿とは国の在り方について意見が対立していてな。これまでにも度々こういったことはあったんだ。俺が父上に課せられた条件を達成できないと見て最近は随分と大人しくしているが、時折ああして思い出したように仕掛けてくる」
思い出したように、ってそんな……電話やメールじゃないんだから……。
「それって捕まえられないんですか?」
「確固たる証拠がない。それに、その点を除けば非常に優秀な人物なんだ」
それは絶対除いてはいけない『点』だと思うのだけれど。
またクロは、自分のこととなると犠牲を重要視しないのだ。
「あの場でヒナを見られなくてよかった。俺の想い人だと知れれば、何をしてくるかわからないからな」
「なんて危険な……」
「俺が想いを寄せてしまったがために、ヒナまで危険に晒すことになってすまない。もちろんヒナには害が及ばないよう守るが、ヒナも不用意に近づかないよう気をつけてくれ」
「はい、わかりました!」
要注意人物リストのてっぺんに、しっかりと名前を刻んでおいた。
寝衣に着替え、ベッド……もとい、クロの胸筋に潜り込む。
「そういえば、私からもクロに言っておかなきゃいけないことがあった気がするんですけど……。なんだったかな……?」
うーん、と首を捻る。
与えられた多量の情報に埋もれてしまって、記憶が掘り起こせそうにない。
「いつでも、思い出したときに話してくれればいい」
「……それもそうですね!」
本当に大事なことであれば、直に思い出すだろう。
とにかく今日は疲れ果てて頭痛までしているので、これ以上考えるのはやめにして目を閉じた。
私が聞けば、クロはなんでも教えてくれた。
王様が臥せっているのは、定期的に行われる結界への魔力供給による、大幅な魔力の減少に身体がついていかなくなってしまったためだという。
「王国全土を覆う『結界』へ魔力を供給できるのは国王だけだからな。早く王位を継がせたいと、口癖のように言っている」
「なるほど……」
魔力についてはよくわからないけれど、急激な運動で一気に体力を使い果たすような感覚だろうか。
だとすれば、かなりの負担がかかりそうだ。
帰りがけに会った少年はクロの弟――正確には異母弟――のネラウェルで、同行していたのは宰相のデラージ=バーグ。
クロの実のお母さんは、もう何年も前に亡くなっているのだそう……。
「ネラウェルにはすっかり嫌われてしまっているがな。それとヒナ、くれぐれもバーグ卿には油断しないでいてほしい」
油断しない、ねぇ。
油断。
油断……。
「……と、言いますと?」
油断するなと言われても、漠然としすぎて何をどう気をつければいいのかわからない。
「先日の剣の一件、俺は卿の仕業だと考えている」
「剣って、クロに向かって飛んできた!?」
「ああ。卿とは国の在り方について意見が対立していてな。これまでにも度々こういったことはあったんだ。俺が父上に課せられた条件を達成できないと見て最近は随分と大人しくしているが、時折ああして思い出したように仕掛けてくる」
思い出したように、ってそんな……電話やメールじゃないんだから……。
「それって捕まえられないんですか?」
「確固たる証拠がない。それに、その点を除けば非常に優秀な人物なんだ」
それは絶対除いてはいけない『点』だと思うのだけれど。
またクロは、自分のこととなると犠牲を重要視しないのだ。
「あの場でヒナを見られなくてよかった。俺の想い人だと知れれば、何をしてくるかわからないからな」
「なんて危険な……」
「俺が想いを寄せてしまったがために、ヒナまで危険に晒すことになってすまない。もちろんヒナには害が及ばないよう守るが、ヒナも不用意に近づかないよう気をつけてくれ」
「はい、わかりました!」
要注意人物リストのてっぺんに、しっかりと名前を刻んでおいた。
寝衣に着替え、ベッド……もとい、クロの胸筋に潜り込む。
「そういえば、私からもクロに言っておかなきゃいけないことがあった気がするんですけど……。なんだったかな……?」
うーん、と首を捻る。
与えられた多量の情報に埋もれてしまって、記憶が掘り起こせそうにない。
「いつでも、思い出したときに話してくれればいい」
「……それもそうですね!」
本当に大事なことであれば、直に思い出すだろう。
とにかく今日は疲れ果てて頭痛までしているので、これ以上考えるのはやめにして目を閉じた。
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