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第一筆 ブクマが剥げた!
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突然である。
これは突然の問いかけである。
諸君らは『ワナビ』という言葉を知っているだろうか。
Web小説に馴染みのない君は『聞き慣れない言葉』であろう。
この言葉は所謂ネットスラング、普通の一般人なら聞くこともないワードだ。
その語源は「私は~になりたい」という「I want to be~」から来ているという。
何になりたいか?
『書籍化作家』という誉れ高き称号が欲しいのだ。
そして、作家の中でも『ラノベ作家』になることを強く夢見ているのだ。
その称号を手にするには、ネットで掲載する自作品が出版社の目に留まる『拾い上げ』。
もしくは『出版社が開催するコンテストの公募』に入選すればなれる。
それにはまず作品を投稿するしかない。
広いWebの世界には、小説投稿サイトというものがある。
アマもプロも誰もが自作品をWebで掲載することを可能とするサイト。
この小説投稿サイト『ストーリーギルド』もその一つであった――。
「ブ、ブクマが剥げやがった!」
日本が東京H市。
家賃四万円のアパートに住む青年が叫んだ。
青年は赤い鉢巻を頭に巻き、黒地に赤い花柄というド派手なプリントシャツを着ている。
この青年の名は『阿久津川龍太郎』。(二十五歳・独身)
通称『龍』と呼ばれ、ペンネーム『ギアドラゴン』で創作活動に励む『熱きWeb小説家』である。
「何故だ……」
龍は涙を流す。
彼の最新作である『男一匹ウルフ大将』の大切なブクマ、つまりブックマークが一つなくなっていたのだ。
さて、ここで念のためブクマという概念を説明しよう。
ブクマとはブックマークの略称であるのだが、英語で『本の栞』を意味する。
ストーリーギルド内において、読者が気に入った作品を登録する機能のことである。
つまり、ブクマが多ければ多いほど人気作の証明であり、読者に自作品を認められたということだ。
「何故剥げやがった!」
ブクマが一つなくなることをWeb小説家達は『剥げる』という。
頭の毛がなくなり禿げるではなく、剥げる。
メッキが剥げるなどの意味で使われる剥げるだ。
「これでブクマがゼロ! ゼロになっちまった!」
龍のやっとついた自作のブクマ。
それがゼロになってしまった。
ブクマだけではない、評価ポイントもついていない。
彼の男一匹ウルフ大将は総合評価……。
ただいまゼロ。
ゼロ、ゼロ、ゼロ、ゼロ、ゼロ!
ゼロなのだ!
「ブクマや評価はいつかつく……俺はそう思い書き続けた……三十話で八万前後の文字数でやっとついた『一つのブクマ』……」
昨日、龍は狂喜乱舞していた。
何と自作にブクマがついていたのだ。
ブクマの評価点『2ポイント』たかがそれだけなのだが、龍にとっては大きな2ポイントなのだ。
彼はかれこれWeb小説を数年ほど書き続けている。
サイト内で多くの作品は無事に完結するも、どれもこれもが低ポイントで止まっている。
「そのたった一つの『希望』が消えちまった!」
これまでの最高点は40ポイント。
作品名は『勇者、男泣き、男汗』という異世界ファンタジー作品。
勇者が筋肉だけで物事を解決する内容が、一部の読者に受け、雀の涙ほど獲得した得点。
今回の男一匹ウルフ大将も、異世界ファンタジージャンルに投稿している。
内容はこうだ。
ある日、普通のサラリーマンだった月影狼介は仕事の帰り道に謎の光に包まれ異世界へと飛ばされてしまう。
目を覚ますと、彼は狼のような獣人『ウルフ大将』として新たな体を得ていた。
異世界では人間、エルフ、ドワーフなどの種族が共存し、剣と魔法が支配する世界が広がっていた――というもの。
自信作だった。
これならイケると龍は考えていた。
でも、彼のこの作品には致命的な弱点があった。
まず、可愛い女性が出ない。
ヒロイン不在なのだ。
読者は可愛くて、従順で巨乳な女子を求める。
その『華』がない作品は無価値とみなされている厳しい状況だ。
そう、時代は女性が活躍する時代なのに龍の作品の女子率は投手の打率並みに低かった。
それとウケない理由はもう一つある。
彼の作品は非常にテンポが悪い。
プロ野球で例えるとピッチクロックを導入したいほどだ。
何しろ修行パートが長い。
今回も主人公狼介が、異世界に来た瞬間スライムにボコられ、謎の山籠もりする展開だ。
「ただのサラリーマンが異世界で活躍できるわけないだろ」
というリアリティを表現したつもりだったがそれがダメだった。
というか、スライムにボコられる実力皆無な主人公を山籠もりさせるな、死ぬだろ。
それとウルフ大将って何だよ。
「これは……これはテコ入れが必要だ!」
龍はパソコンディスプレイに表示される『総合評価ゼロ』を睨む。
彼には密かに目指すべき境地があった。
「俺が目指すべきは『書籍化』……」
俺は書籍化作家になる。
龍には果てしなき野望があったのだ。
「ここで終わるわけにはいかんのだッ!」
この物語は熱くも悲しい『底辺Web小説家』のブルースである。
これは突然の問いかけである。
諸君らは『ワナビ』という言葉を知っているだろうか。
Web小説に馴染みのない君は『聞き慣れない言葉』であろう。
この言葉は所謂ネットスラング、普通の一般人なら聞くこともないワードだ。
その語源は「私は~になりたい」という「I want to be~」から来ているという。
何になりたいか?
『書籍化作家』という誉れ高き称号が欲しいのだ。
そして、作家の中でも『ラノベ作家』になることを強く夢見ているのだ。
その称号を手にするには、ネットで掲載する自作品が出版社の目に留まる『拾い上げ』。
もしくは『出版社が開催するコンテストの公募』に入選すればなれる。
それにはまず作品を投稿するしかない。
広いWebの世界には、小説投稿サイトというものがある。
アマもプロも誰もが自作品をWebで掲載することを可能とするサイト。
この小説投稿サイト『ストーリーギルド』もその一つであった――。
「ブ、ブクマが剥げやがった!」
日本が東京H市。
家賃四万円のアパートに住む青年が叫んだ。
青年は赤い鉢巻を頭に巻き、黒地に赤い花柄というド派手なプリントシャツを着ている。
この青年の名は『阿久津川龍太郎』。(二十五歳・独身)
通称『龍』と呼ばれ、ペンネーム『ギアドラゴン』で創作活動に励む『熱きWeb小説家』である。
「何故だ……」
龍は涙を流す。
彼の最新作である『男一匹ウルフ大将』の大切なブクマ、つまりブックマークが一つなくなっていたのだ。
さて、ここで念のためブクマという概念を説明しよう。
ブクマとはブックマークの略称であるのだが、英語で『本の栞』を意味する。
ストーリーギルド内において、読者が気に入った作品を登録する機能のことである。
つまり、ブクマが多ければ多いほど人気作の証明であり、読者に自作品を認められたということだ。
「何故剥げやがった!」
ブクマが一つなくなることをWeb小説家達は『剥げる』という。
頭の毛がなくなり禿げるではなく、剥げる。
メッキが剥げるなどの意味で使われる剥げるだ。
「これでブクマがゼロ! ゼロになっちまった!」
龍のやっとついた自作のブクマ。
それがゼロになってしまった。
ブクマだけではない、評価ポイントもついていない。
彼の男一匹ウルフ大将は総合評価……。
ただいまゼロ。
ゼロ、ゼロ、ゼロ、ゼロ、ゼロ!
ゼロなのだ!
「ブクマや評価はいつかつく……俺はそう思い書き続けた……三十話で八万前後の文字数でやっとついた『一つのブクマ』……」
昨日、龍は狂喜乱舞していた。
何と自作にブクマがついていたのだ。
ブクマの評価点『2ポイント』たかがそれだけなのだが、龍にとっては大きな2ポイントなのだ。
彼はかれこれWeb小説を数年ほど書き続けている。
サイト内で多くの作品は無事に完結するも、どれもこれもが低ポイントで止まっている。
「そのたった一つの『希望』が消えちまった!」
これまでの最高点は40ポイント。
作品名は『勇者、男泣き、男汗』という異世界ファンタジー作品。
勇者が筋肉だけで物事を解決する内容が、一部の読者に受け、雀の涙ほど獲得した得点。
今回の男一匹ウルフ大将も、異世界ファンタジージャンルに投稿している。
内容はこうだ。
ある日、普通のサラリーマンだった月影狼介は仕事の帰り道に謎の光に包まれ異世界へと飛ばされてしまう。
目を覚ますと、彼は狼のような獣人『ウルフ大将』として新たな体を得ていた。
異世界では人間、エルフ、ドワーフなどの種族が共存し、剣と魔法が支配する世界が広がっていた――というもの。
自信作だった。
これならイケると龍は考えていた。
でも、彼のこの作品には致命的な弱点があった。
まず、可愛い女性が出ない。
ヒロイン不在なのだ。
読者は可愛くて、従順で巨乳な女子を求める。
その『華』がない作品は無価値とみなされている厳しい状況だ。
そう、時代は女性が活躍する時代なのに龍の作品の女子率は投手の打率並みに低かった。
それとウケない理由はもう一つある。
彼の作品は非常にテンポが悪い。
プロ野球で例えるとピッチクロックを導入したいほどだ。
何しろ修行パートが長い。
今回も主人公狼介が、異世界に来た瞬間スライムにボコられ、謎の山籠もりする展開だ。
「ただのサラリーマンが異世界で活躍できるわけないだろ」
というリアリティを表現したつもりだったがそれがダメだった。
というか、スライムにボコられる実力皆無な主人公を山籠もりさせるな、死ぬだろ。
それとウルフ大将って何だよ。
「これは……これはテコ入れが必要だ!」
龍はパソコンディスプレイに表示される『総合評価ゼロ』を睨む。
彼には密かに目指すべき境地があった。
「俺が目指すべきは『書籍化』……」
俺は書籍化作家になる。
龍には果てしなき野望があったのだ。
「ここで終わるわけにはいかんのだッ!」
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