ワナビスト龍

理乃碧王

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第六十二筆 ザ・フルコンタクトメッセージ!

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 色帯寸止めにDMでの感想を送信した龍。
 ドラフト会議のプロ志望届けを提出した高校生の心境で返答を待つ。

「来るわけないか」

 暫く待った龍はそう結論付けた。
 色帯寸止めへの返信など来るはずもない、そう思っていると――。

 色帯寸止め@契約作品『無比無敵のオッサン魔導師』連載中:作品の感想ありがとうございます。で、ダンジョンオデッセイのノベライズとはどういう意味ですか?

 来た、来てしまった。
 色帯寸止めのフルコンタクトメッセージ。
 端的で味気のないものであるが、どこか怒りを感じさせる言葉だった。
 龍はゴクリと唾を飲み込み、意を決して自分の具体的な感想を色帯寸止めにぶつけた。

 ギアドラゴン:あれは先生が昔書いていた『ダンジョンオデッセイ-天使の囁きと悪魔の旋律-』とよく似ているように感じたのです。

 龍が述べた『ダンジョンオデッセイ-天使の囁きと悪魔の旋律-』とは色帯寸止めの代表作である。
 ダンジョン探索型RPGの名作『ダンジョンオデッセイ』をノベライズした作品で90年代にヒット。
 ゲームノベライズとして普及の名作とされ、以降、色帯寸止めは様々な二次創作作品を敢行する。

 色帯寸止め@契約作品『無比無敵のオッサン魔導師』連載中:ほほう……具体的には?

 ギアドラゴン:登場するキャラの造形が『ダンジョンオデッセイ-天使の囁きと悪魔の旋律-』の主人公達とどこか似ています。それに武器などの名前も少し変えただけですし、登場するモンスターなんかそのままの名前で使用しています。それに同じダンジョン探索ものですし。

 色帯寸止め@契約作品『無比無敵のオッサン魔導師』連載中:君の指摘は鋭いが誤解がある。確かに作品の雰囲気が似通って見えるのは、私が長年培ってきた作風やテーマの好みの結果だよ。

 しかし、2000年代に人気に陰りが見え始め、色帯寸止めはゲームシナリオライターとして細々と生活。
 Web小説投稿サイトが普及し始め、投稿作品が書籍化、アニメ化で注目し始めると『色帯寸止め』の名が再び登場することになる。
 ストギルで色帯寸止めはオリジナルの作品を発表したのである。
 殆どのユーザーは彼の名前を知らない、あるいは忘れてしまっていたが、彼の作品を覚えている作家達からはその名前を見て驚きと喜びの声が上がった。

 だが悲しいことに、色帯寸止めの作品は古臭い冒険ファンタジーもので人気がイマイチ出なかった。
 感想欄では作品の粗などを指摘するものが並び、色帯寸止めのプライドは粉々に砕かれてしまったのか、活動拠点をストギルから二次創作の投稿が許されるセレナーデに移す。
 そこで見事にランキング入りをするのだが、結局その作品は過去に自身がシナリオを担当していたソシャゲの二次創作作品であった。
 そして、この頃から色帯寸止めはSNS上でのテンプレ作品への苦言というエアリプが目立ち、アンチストギル梁山泊の一角へとなっていったのだが――。

 ギアドラゴン:『無比無敵のオッサン魔導師』主人公の設定が『ダンジョンオデッセイ』のシリウスと酷似しているように感じました。

 シリウスとは『ダンジョンオデッセイ-天使の囁きと悪魔の旋律-』に登場するダークヒーローとして登場するライバルキャラである。
 彼は孤独と苦悩を抱えながらも強靭な意志を持ち、かつて仲間に裏切られ追放された経験を糧にして成長した人物である。
 その背景からくる冷徹さや、必要とあれば容赦なく敵を斬り伏せる非情さが物語に緊張感と深みをもたらしていた。

 ただ強いだけではなく、どこか傷つきやすく影のある性格が彼の魅力であり、人間の善意を信じる主人公達と交わることへの葛藤。
 しかし、己の信念に揺るがない姿勢がダークヒーローとしてのシリウス像を際立たせていた。
 そうしたシリウスのキャラが読者に強烈な印象を残し、作品の象徴として語り継がれるほどの人気キャラであった。

 一方で『無比無敵のオッサン魔導師』の主人公もまた、かつてのパーティから追放され、孤立した存在として新たな世界で奮闘する設定がある。
 自らの力を再び証明し、失った誇りを取り戻そうとする姿勢はまさにシリウスの物語と重なる部分が多かった。
 龍はその類似点に惹かれつつも、それが色帯寸止めの過去作品への無意識のオマージュなのか、それとも意図的な表現なのかを確かめたいと感じていた。

 ギアドラゴン:他にも主人公パーティにいる僧侶ミレイアの髪型や服装です。

 色帯寸止め@契約作品『無比無敵のオッサン魔導師』連載中:髪型や服装?

 ギアドラゴン:『ダンジョンオデッセイ-天使の囁きと悪魔の旋律-』のメインヒロインである僧侶フレイアと一緒でした。

 色帯寸止め@契約作品『無比無敵のオッサン魔導師』連載中:偶然だよ。

 ギアドラゴン:髪の色から喋り方も一緒なのはおかしいでしょう。僧侶としての役回りも同じなのは偶然でしょうか。

 龍は震える指で送信ボタンを押した。
 心臓が鼓動を打つたびに胸の奥が痛むのが自分でもわかる。
 色帯寸止めはそんなトゲのある龍のメッセージに返答をする。

 色帯寸止め@契約作品『無比無敵のオッサン魔導師』連載中:君の言うような共通点があるかもしれない。ただ、私はずっと二次創作に携わり続けてきて、何度も自分のスタイルを模索してきた。これまでの作風が影響として出てしまうことは否めない。

 一方の龍は――。

 ギアドラゴン:それは理解できますが、これだけ多くの要素が重なるとオマージュを超えて『過去作の再利用』ではないでしょうか。

 対する色帯寸止めは――。

 色帯寸止め@契約作品『無比無敵のオッサン魔導師』連載中:君には一つ知って欲しい。私はずっと二次創作に携わり続けてきたからこそ、一次創作への挑戦は私自身の新たな一歩なんだ。これが私にとっての新しい挑戦であり『自分自身を超えるための戦い』なんだよ。

 DMのやりとりが熱を帯びてくる。
 それは憧れの象徴である色帯寸止めとの対話。
 それは『二次創作が出発点』である自分自身の過去との対話でもあるかのように龍は感じていた。

 二次創作には元作品の枠組みがあるため安心感がある。
 既に構築された世界観を基盤に自由に想像を膨らませることができる。
 しかし、その一方で一次創作は真っさらなキャンバスだ。
 自らの手で全てを築き上げる創作者の力量を試される残酷な一面がある。
 その難関に彼らが挑戦する意味は一つだ。

 色帯寸止め@契約作品『無比無敵のオッサン魔導師』連載中:ギアドラゴン君、もういいかね? 私はこの契約作品を糧に、踏み台にして、自分の作品を『書籍化』させたい。これ以上の絡みは止めていただけないかな。

 そう、書籍化。
 自作を書籍化させるのが目的であった。

 ギアドラゴン:作品を糧に、踏み台にしてですか。

 色帯寸止め@契約作品『無比無敵のオッサン魔導師』連載中:そうさ、私はもう一度商業作家として復活を果たしたい。

 ギアドラゴン:復活?

 色帯寸止め@契約作品『無比無敵のオッサン魔導師』連載中:黒鳥先生のアドバイスを基に作り上げた『無比無敵のオッサン魔導師』というテンプレ作品で読者と人気を集めればそれも可能だ。固定ファンが多くつけば、ブクマも評価も発表する作品に集まりランキングに入れる。そうすれば書籍化を達成できる。

 ギアドラゴン:そのために読者も利用するということですか。

 色帯寸止め@契約作品『無比無敵のオッサン魔導師』連載中:……その言い方は引っかかるね。

 ギアドラゴン:私にはそう聞こえました。あなたは人を数字としてでしか見ていない。

 色帯寸止め@契約作品『無比無敵のオッサン魔導師』連載中:その言葉は忘れることにしよう。でも、これだけは覚えておくといいよ。商業作家になれば如何に数字というものが必要になるかがわかる。全ては数字のためにあらゆることを計算して動くのが商売だからね。

 ギアドラゴン:あらゆることを計算して動く――ですか。

 色帯寸止めのこの言葉に、龍はあるアカウントの名前を思い出した。
 その名は『ピンクのバッタ』。ある書籍化作家の裏垢であった。
 アンチストギル梁山泊のメンバーの一人であったが、その名前はもうSNSには存在しない。
 色帯寸止めが黒鳥に取り入るために、ピンクのバッタの情報を売ったためである。

(全てを道具として見ないというのか。作品も、読者も、矜持も!)

 うまむすこは言っていた。
 ピンクのバッタは色帯寸止めを一人の作家として尊敬していたと。
 尊敬していたからこそ、自分の情報を色帯寸止めに告白した――だが裏切られた。
 龍はピンクのバッタとの関りは実に薄いものであるが、彼女は異世界令嬢教からの攻撃から龍を助けてくれたのは確か。
 たった一度の善意を龍は深く感謝し、記憶に刻んでいた。
 また彼女が自分と同じく、色帯寸止めの作品のファンであったことも仲間意識を募らせていった。

(自分を信用していた人も!)

 従って、その話を思い出すだけで胸の奥に冷たい痛みが広がっていく。
 尊敬が、尊敬の人気復活と書籍化という欲望に消費されていく無念さが龍の心に聞こえてくる。
 堕ちたか色帯寸止めよ、と。

 色帯寸止め@契約作品『無比無敵のオッサン魔導師』連載中:そろそろ終わりにして、お互い創作に精進していきましょう。私から一つ言ってアドバイスしておきますが、君もワナビになりたくなかったら早く黒鳥先生に教えを乞うといいでしょうね。最近どうもレイヴンクラブで君の名前を見ないのが気になります。

 丁寧な対応を見せる色帯寸止めだが、結局のところ自分自身のことしか考えていない傲慢さがあった。

 ギアドラゴン:あなたの作品はつまらない。

 龍は短い文字を打った。

 ギアドラゴン:あなたはコピーしか作れない。

 龍は短いメッセージを送った。

 ギアドラゴン:あなたの創作は空っぽだ。

 龍は短く心を打った。
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