緋色の小刀-ナイフ-

八雲 銀次郎

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闇食い

#3

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 正確な場所は分からなかったが、方角からして、私が降りたバス停の辺りだ。
 突然聞こえた割には、不思議と恐ろしさなどは無かった。むしろ、安堵してしまった。
 先ほどから、聞こえるのは 自分の吐息と、足音くらいしかなかったため、「他の『誰か』なのでは?」と少し期待してしまっていた。
 鈴の音が聞こえたのは、その一度きりだったが、気になった以上、調べないわけにはいかない…。
 私は、今来た道を引き返した。
 やはり、何処か可笑しかった。バス停から引き返した場所までは、少なくとも10分は掛かった筈なのに、バス停までは、ほんの数分だった。
 もはや、『体感』の話ではない…。急いで、自宅に帰らなければ…。
 私は、改めてバス停周辺を見回した。
 しかし、何もない…。誰もいない…。車すら通らない…。
 私は、急に心細くなり、歩道に腰かけた。周りの家や建物からは、明かりが漏れているが、人の気配など微塵もなかった。下手したら、この世界には、私一人しかいないのではないか…。
 一人でいるのは、苦でもないが、比地理しかいないとなると、そう言うわけにもいかない…。
 私は、すがる様な思い出、スマホの待ち受けをぼんやりと眺めた。
 そこには、私が高校生の頃まで飼っていた、黒猫が写っている。名前は、『ジン』。私が帰宅すると、毎回お出迎えしてくれる、人懐っこい子だった…。
 鈴を鳴らして、駆け寄ってくる姿は、今でも、たまに夢に見る…。
 それ程、愛着があった…。私も、もしかしたら、そっちに逝くのかもしれない…。
 
 “チリン”
 
 また、鈴の音が聞こえた。近くの方からだ。
 そして、この時、ようやっと思い出した。この鈴の音は、ジンの首輪の鈴に、とてもよく似ている…。
 「ジン…。」
 私は、そう呟き、音のした方に歩きだした。
 あの子にもう一度だけ会いたい…。
 バス停から、少し行ったと頃には、公園があり、その辺りから、音がした。
 私は目を凝らし、一心不乱にその音の主を探した。
 そして、見つけた。ベンチの上に香箱座りをしている、黒い猫…。
 首輪も間違いない…。
 「ジン…。」
 私は、駆け寄ろうとした。だが、何故か、足が前に進まなかった。
 距離にして、数メート。その距離が、途轍もなく遠かった。
 そんな私を見かねて、ジンは、ベンチを飛び降り、私の方へと近づいてきた。
 そして、私の前に座った。手を伸ばせば近づく距離だ…。
 私も、しゃがみ込み、手を伸ばした。ふかふかの毛並と、触り心地も、間違いなく、ジンそのものだ…。
 「ごめんね。ごめんね。」 
 私は、撫でながら、只管撫で続けた。
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