緋色の小刀-ナイフ-

八雲 銀次郎

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廃洋館

#32

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 邪悪な方…。私はてっきり、悪霊の様なイメージを抱いていたのだが…。今の彼女からは、恐怖心と言うものが、微塵も感じられない…。
 「それで、邪悪な方のナツミさん。アンタ等は一体、どういった存在なんだ?」
 『大体は、あの本に書かれている事が全てであり、真実でもあります。神格化した私の片割れは、力の使用や行動の“自由”を与えらえれ、邪悪な方は、絶対服従を命じられるが、力は主人の賭けた寿命によって、大きく左右される。
 さっき、貴方が5年分賭けたときは、流石の私もヒヤリとしたが、余り無茶はしてくれるな…。」
 それでさっきの、5年分…。納得がいった。5年分の寿命を、彼女に投資することによって、私たちを守ろうとしてくれた。寿命を減らされるというは、実感がわかないが、あの本の内容を理解できた大谷なら、そのリスクを把握できていた筈だ…。
 だが一つ、気になる事が出てきた。
 「その“主人”ていうのは、誰でも良いんですか?私はてっきり、貴女を召喚した人物の事かと思ってたんですが…。」
 『その通りです。陣内さん。私は、私の主人にしか従いませんし、それ以外の人物が、詠唱したところで、力は発揮できません。』
 「だったら、どうして…。」
 もし、彼女が言っていることが正しいのであれば、辻褄が合わない…。
 『それは、貴方が説明したらどうですか?もう気が付いている筈…。いえ、本当は最初から知っていたのではありませんか?兄さん?いや、あの人はもうこの世にはいない筈だっから、息子か孫と言った所か…。』
 暫くの沈黙があった後、大谷が口を開いた。
 「ナツミさんが言う、“兄さん”というのは、僕の父の事です…。この本を見たとき、思い出しました。父の部屋にも、全く同じものがあったことを…。」
 『私にとっては、主人との血筋が濃ければ親子だろうが、孫だろが、たいして変わりありません…。』
 「ちょっと待て。」
 寺井さんが声を荒げた。
 「お前、ひょっとして、全部知っていたんじゃねぇのか?この館の事も起きていた、不可思議な現象の事も…。」
 私自身、大谷を信じていない訳では無い…。ただ、彼がこの館に着いて、何かを知っていたというのであれば、最初のうちに話して欲しかった…。そう思っただけだ。
 「いえ、全部が全部、知っていた訳ではありません…。知っていたのは噂の事だけです。気が付いたのは、この本を手に取った時です…。そして、あわよくばナツミさんに一目会えるのではないかと、期待してました…。」
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