緋色の小刀-ナイフ-

八雲 銀次郎

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深淵の観測者

#2

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 そう声が背後から聞こえた気がし、私はトンネル内を振り返った。
 案の定、何も見えなかった。だが、何か居るのは確かの様だ…。その証拠に、トンネル内から強い風が吹き荒れた。風というのは、自然現象としてとえられることも多いが、車も一通りもなく今日は、風が殆ど吹いていない…。だから、トンネルの中から風が流れるのは、かなり不自然な事だ…。それに、この風は、かなり嫌な気配がする…。
 ここに長く居てはいけない…。そう感じたとき、
 「おい、どうした?」
 彼からそう声を掛けられ、我に返った。そして、私は出口まで走った。
 「お、おい!」
 「やっぱり怖い!早く抜けよ!」
 私が彼の方に振り返り、叫ぶようにそう声を掛けた。彼はそれに釣られる様に、私を追いかけてきた。
 その時、私には見えた…。彼の背後の暗闇に浮かぶ、巨大な大きな目が…。その眼は睨むように、彼を見据えていた…。
 私は思わず息を飲んだ…。今まで、色々なモノを見てきた。そこで分かった事は、認識や存在が大きい程、力が増す…。私が驚いていると、その眼は次第に私の方に視線を移し、そして目が合った…。


 ―――お前は見えるのか…。


 そして、その眼は暗闇の中に、まるで煙の様に消えて行った…。
 「おい!どうした!」
 彼が大きい声を上げ、私の方に走ってきた。私はそれに合わせる様に、もう一度出口に向かって、逃げた…。
 そしてトンネルを出た…。彼も私に続いて、トンネルを出てきた。
 もう一度、トンネル内を見ると、先ほどの眼の様な物はなく、只々、暗闇だけが続いていた…。
 「どうしたんだよ、急に…。やっぱり怖か?」
 彼が私の肩に手を着き、息も絶え絶えにそう言った。
 私は久しぶりに悪寒が走った…。
 「急に怖くなって…。もう帰りましょう?私門限があるから、どっちにしろ帰らないと…。」
 「お、おう…。大して何にもなかったしな…。変えるか…。」
 彼はがっかりした様に言い、参道を歩き出した。

 うしろ…。

その言葉が気になった。そしてあの眼は彼の背後を見据えていた…。何かあるのか…。
 「ねぇ、最近背中、痛いときない?」
 「背中?いや…特に…。あ、でも、最近右肩が凝ってるかな…。どうして?」
 「いや、特になんでも、だけど、気を付けてね…。調子悪いんだったら、無理しないで。」
 「おう…。そ、それよりさぁ…。」
 「それじゃぁ、私こっちだから…。じゃぁね…。」
 彼が何か言いかけたが、私は聞こえないふりをし、帰路に急いだ…。

 それから数か月後、トンネル内に着物を着た男女の二人組を見たという噂を耳にした。それ以来、例のトンネルの話は聞かなくなった…。
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