緋色の小刀-ナイフ-

八雲 銀次郎

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井戸

#2

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 お坊さんのから聞いた話によると、この地域には昔、病気を患った子どもをこの井戸に投げ捨てるという風習が存在したらしい。
 しかし、その風習の所為か、この井戸の近くで度々、子どもが行方不明となる事件が後を絶たなかった。それ以外にも、この井戸の近くで度々、子どもの霊を見た。だとか、雨も降っていないのに、井戸の周りだけ、濡れていたとか…。そういった、噂も出回り始めた。
 それを見かねた、この寺の何代か前の住職が、井戸を供養し、封印したそうだ。それが今から約100年前の話しらしい。
 「100年ですか…。結構最近の話なんですね…。」
 「えぇ…。この寺では、水子供養も行っていたんですが、それがいつしか、忌子を捨てる場所だと勘違いされたようで…。」
 忌子…。医療技術が進んだ今の時代なら、病気に対しての理解は比較的得られる世の中だ…。だが江戸時代や明治時代と言った世界では、少しの流行病や珍しい体質は、奇異な目で見られ、そして親にまで嫌われる時代。
 そんな時代だからこそ、子どもを捨てるという習慣は、当時は珍しくもなかったのだろう…。
 しかしひとつ、疑問に思うことができた。
 「なぜ、行方不明になったって噂が広まったのに、未だにこの井戸の近くに子どもたちが集まるんですか?親たちは止めないんですか?」
 「え?えぇ、まぁ、一時期は問題になったみたいですが、今はウチで管理していますし、蓋だってしてあります。今は壊れていますが…。とにかく、今は安全ですから親御さんたちも、安心できるのだと思います。
 それに、どうやら子どもたちの方から集まってくるみたいなんですよね…。」
 「そうですか…。まぁ家でゲームばっかりやっているより良いのかもしれませんね。」
 私がそう言うと、お坊さんも頷いた。
 それから暫く、お坊さんと世間話をしていると、下校時間になっていたらしく、子どもたちが、集まり始めた。
 私は、在宅でしている仕事があるのを思い出し、寺を後にした。

 その日の夜。仕事を終え、布団の上で漫画本を読んでいたときだった。ベランダの方から、
 ビシャ…ビシャ…と、濡れた裸足で誰かが歩いている様な音が聞こえた。
 私は思わず、ベランダの方を見据えた。ベランダはカーテンがされており、外の様子を伺うことはできない…。だが、薄っすらとだが、人影の様なものが見えた…。
 「誰だ…。」
 私は、ベランダに向かってそう訪ねた。だが、聴こえてくるのは、唸り声の様な低い音と足音だけだった。
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