緋色の小刀-ナイフ-

八雲 銀次郎

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井戸

#1

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 私の自宅の近くに、大きい寺があった。寺は、江戸時代よりももっと前の時代からあるらしく、かなり古い。境内は広く、本堂含め、お堂が5宇と墓地がある。それでも、場所は余っており、近所の子どもたちの遊び場としても、一部を開放していた。私も小さい頃は、よく友人たち遊んだものだ。
 そんな境内の一角に使われていない古い井戸があった。井戸の側面は、古い石でできており、口は板で塞がれている。私が物心付いたころから、ここに存在する。おそらく、この寺ができた頃に作られたものだろう…。
 そんな井戸が、つい先日の大雨で、蓋が壊れてしまったらしい…。
 近所の人たちは物珍しく思ったのか、井戸を覗いていくことが増えた。
 だが、私は知っている。あの壊れた蓋の裏には、御札が何枚か、貼り付けられていたことを…。
 私は、在宅の仕事の合間を縫って、例の井戸を見に行った。
 井戸は噂通り、壊れた蓋が外され、井戸の中が覗ける状態になっていた。
 井戸の中は昼だと言うのに、暗く、冷たく、ジメジメとしていた。
 私は近くにあった石を井戸の中に投げ入れた。数秒経ったが水の音は聞こえず、どうやら、井戸は枯れている様だ。
 それから、無惨にも砕けてしまった、蓋の破片の表面を、一つひとつ、確認した。
 だが、先述した御札が一枚も見当たらなかった。
 「何か、なさいましたか?」
 私が訝しげに悩んでいたのが気になったのか、この寺で修業しているお坊さんが声を掛けてきた。
 「この蓋って、壊れてからずっとここにおいてあるんですか?」
 「えぇ。あの日からずっとそこにおいております。まだ使える部分もあるので、新しい物が届くまでは夜だけでも蓋は住めるようにしておこうと思いまして…。それが、何か」
 「この蓋の裏に、御札の様な物、貼られていませんでしたか?」
 「御札…覚えはありませんね…。」
 「そうですか…。」
 私の記憶もかなり古いものなので、もう朽ちて破れてしまったか、お住職が剥がしたのか…。それとも、私の見間違いか…。
 「…覚えはありませんが、心当たりなら…。」
 彼はそう言うと、井戸を覗き込んだ。
 「この井戸は、長い間、ずっと枯れているんですよ…。苔の生え方を見て下さい。
 苔というのは、水が溜まる場所に集中して生えます。ですが、この井戸は、苔の生えている場所がまばらです。この井戸には、水が溜まったことは無いんではないかと思います…。」
 確かに、井戸の中はジメジメと湿気はあるものの、水が滴っている様子は見受けられない。
 「それから、もう一つ、私も院主から聞いたのですが、この井戸は、いわゆる、曰く憑き。だそうです。」
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