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コルト公爵編
9 マリリンは自由になりたい(コルト公爵視点)
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「離縁? 本気で言っているのかい? この件では、貴女には落ち度はないと思っている」
私は、マリリンを懲らしめようなどとは、全く思っていなかった。
「私は、新しい人生をまた始めたいのです。セレニティー様は立派に成長なさいました。もう、私の役目は終わったのではないでしょうか?」
ずいぶんと、思い切ったことを言う女性だと思った。
「貴女は、この贅沢な生活を棄てられるのか? ここでは、侍女がなんでもやってくれて、貴女は着飾ってセレニティーの世話をするだけで、いくらでもお金が使えたはずだ。」
「はい。毎月、頂いていたお金はそれほど使っておりませんでした。ですから、貯めておりました。それを元手にして市井で花屋さんでもしていきたいと思っております」
「は? 花屋? なんの冗談だい? 花屋が、それほど楽な仕事ではないことを知らないのかい? 冬でも冷たい水を使うから、アカギレもすると聞くぞ。そんなことがしたいのか?」
私は、心底、驚き呆れてしまった。
「好きにすればいい。別にお金を持たせよう。セレニティーには、良くしてくれた。」
「いいえ。さらに、追加のお金などはいりませんよ。今まで、頂いていたお金で充分なのです。私は、これから贅沢はできなくても、優しい時間を作っていきます。心から、楽しく笑える時間を作って、残りの人生はお金ではなくて愛に埋もれて生きていきたいのです」
あぁ、やっぱり、この女性は他に思い人がいたのか。愛に埋もれてか・・・・・・良い言葉だ。
「そうか。貴女の思いはわかった。離縁しよう。貴女は自由だ」
私が言うと、イザベラが横から割り込んできた。
「お母様! どういうことなの? お金をもらえるのなら、もらっておけばいいじゃない! それに、なぜ平民になろうとするのよ? そんなことされたら、私が助けてもらえなくなるじゃない?」
「貴女はもう、大人でしょう? それに、私は、何度も注意したわよね? それを聞こうとしなかったのは、貴女でしょう? イザベラ、貴女は自分から富と安定と貴族の地位を手放したのよ? 自分の失敗は自分で責任をとりなさいな。そして、私も自分から、手放すわ。それによって不幸になろうとも、例えば、路上で死のうとも後悔はありませんよ」
穏やかな微笑みは、まさに悟りを得た人間のようだ。そうか・・・・・・そういう生き方を好む女性もいるのか・・・・・・
「路上で死ぬですって? そんなことは、絶対にさせませんわ! お義母様は、私をとても慈しんでくださいました。このご恩は一生、忘れませんわ。だから、お義母様がもしそんなことになるようでしたら、なんとしても私が助けますわ! マリリン先生が私のお義母様なのは、どこに行っても変りません!」
セレニティーは、きっぱりと言い切った。そうだろうな。私達一族は、守るべき者は一生守る。恩を仇で返すことはしない。
「花屋を始める資金は援助しよう。これは、品格を守るための費用だ。義理とはいえ、セレニティーの母親だった貴女に惨めな暮らしをさせたとあってはコルト公爵家の名前に傷がつく。イザベラとの縁は切るが、マリリンとの縁を切るつもりはない。なにか、困ったことがあったら知らせるんだよ。わかったね?」
私はそう言いながらも、多分この女性は知らせないのだろうな、と確信していた。お金も、手つかずのままでマリリンが亡くなった後にはセレニティーに返ってきそうだ。
それでも、構わない。というか、そういう女性だとわかっているから力になりたい。人間とは、そんなものだ。
助けてくれと縋ってくる者よりも、助けてくれるなと言いながら頑張る者を応援したくなる。
*:゚+。.☆.+*✩⡱:゚
マリリンは、それから一ヶ月後、今までで一番良い笑顔で出て行った。
店舗付き住宅の手頃な物件を購入し、花屋をやるなんて、元候爵夫人のすることではないけれど人生なにをしたってかまわないさ!
それが、幸せだというのなら。
喜んで、送りだそう!
マリリンの新しい人生に幸あれ!
私は、マリリンを懲らしめようなどとは、全く思っていなかった。
「私は、新しい人生をまた始めたいのです。セレニティー様は立派に成長なさいました。もう、私の役目は終わったのではないでしょうか?」
ずいぶんと、思い切ったことを言う女性だと思った。
「貴女は、この贅沢な生活を棄てられるのか? ここでは、侍女がなんでもやってくれて、貴女は着飾ってセレニティーの世話をするだけで、いくらでもお金が使えたはずだ。」
「はい。毎月、頂いていたお金はそれほど使っておりませんでした。ですから、貯めておりました。それを元手にして市井で花屋さんでもしていきたいと思っております」
「は? 花屋? なんの冗談だい? 花屋が、それほど楽な仕事ではないことを知らないのかい? 冬でも冷たい水を使うから、アカギレもすると聞くぞ。そんなことがしたいのか?」
私は、心底、驚き呆れてしまった。
「好きにすればいい。別にお金を持たせよう。セレニティーには、良くしてくれた。」
「いいえ。さらに、追加のお金などはいりませんよ。今まで、頂いていたお金で充分なのです。私は、これから贅沢はできなくても、優しい時間を作っていきます。心から、楽しく笑える時間を作って、残りの人生はお金ではなくて愛に埋もれて生きていきたいのです」
あぁ、やっぱり、この女性は他に思い人がいたのか。愛に埋もれてか・・・・・・良い言葉だ。
「そうか。貴女の思いはわかった。離縁しよう。貴女は自由だ」
私が言うと、イザベラが横から割り込んできた。
「お母様! どういうことなの? お金をもらえるのなら、もらっておけばいいじゃない! それに、なぜ平民になろうとするのよ? そんなことされたら、私が助けてもらえなくなるじゃない?」
「貴女はもう、大人でしょう? それに、私は、何度も注意したわよね? それを聞こうとしなかったのは、貴女でしょう? イザベラ、貴女は自分から富と安定と貴族の地位を手放したのよ? 自分の失敗は自分で責任をとりなさいな。そして、私も自分から、手放すわ。それによって不幸になろうとも、例えば、路上で死のうとも後悔はありませんよ」
穏やかな微笑みは、まさに悟りを得た人間のようだ。そうか・・・・・・そういう生き方を好む女性もいるのか・・・・・・
「路上で死ぬですって? そんなことは、絶対にさせませんわ! お義母様は、私をとても慈しんでくださいました。このご恩は一生、忘れませんわ。だから、お義母様がもしそんなことになるようでしたら、なんとしても私が助けますわ! マリリン先生が私のお義母様なのは、どこに行っても変りません!」
セレニティーは、きっぱりと言い切った。そうだろうな。私達一族は、守るべき者は一生守る。恩を仇で返すことはしない。
「花屋を始める資金は援助しよう。これは、品格を守るための費用だ。義理とはいえ、セレニティーの母親だった貴女に惨めな暮らしをさせたとあってはコルト公爵家の名前に傷がつく。イザベラとの縁は切るが、マリリンとの縁を切るつもりはない。なにか、困ったことがあったら知らせるんだよ。わかったね?」
私はそう言いながらも、多分この女性は知らせないのだろうな、と確信していた。お金も、手つかずのままでマリリンが亡くなった後にはセレニティーに返ってきそうだ。
それでも、構わない。というか、そういう女性だとわかっているから力になりたい。人間とは、そんなものだ。
助けてくれと縋ってくる者よりも、助けてくれるなと言いながら頑張る者を応援したくなる。
*:゚+。.☆.+*✩⡱:゚
マリリンは、それから一ヶ月後、今までで一番良い笑顔で出て行った。
店舗付き住宅の手頃な物件を購入し、花屋をやるなんて、元候爵夫人のすることではないけれど人生なにをしたってかまわないさ!
それが、幸せだというのなら。
喜んで、送りだそう!
マリリンの新しい人生に幸あれ!
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