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前編
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私は今年で17歳になるルヴェリエ国の聖女ロズリーヌである。怪我をした騎士達に癒やしの魔法をかけることと魔獣除けの結界を国境にはることが仕事だ。どの時代も聖女が王族に取り込まれるのは常で、私も王太子の婚約者に自動的になった。
ここはアデノール伯爵家のサロンである。私の前にはテーブルを挟んで両親とバレリーが座っている。
「ずるいわ、お姉様ばっかりが得をしています。私が聖女の力をお母様のお腹のなかでお姉様に譲ったのですよ? この国の王太子妃の座とあの素晴らしい美貌のニクス王太子を貰うのは私です」
妹バレリーが両親の前でさめざめと泣いた。ちなみに私達の両親はアデノール伯爵夫妻で、幼い頃から双子のバレリーを優遇してきた。
「そうね、聖女様などと崇められ尊敬を集めているのだから、王太子妃の座はバレリーに譲ってあげなさい。なんでも手に入ると思ったら大間違いですわ」
お母様は私をたしなめる。
「ロズリーヌが双子の妹から聖女の力を奪ったのだから、王太子はバレリーに譲りなさい。これが道理というものだ」と、お父様。
「双子の姉の私が生まれつき持っていた能力をなぜ妹から奪ったことになるのか意味不明ですが、それほどバレリーが王太子妃になりたいならお譲りしましょう。今から国王陛下に掛け合ってきますわね」
私は国王陛下に謁見を申し込み、
「神の啓示がおりました。ニクス王太子には妹バレリーを妻にさせよという内容です」と、申し上げた。
そんなわけでバレリーが私のかわりに王太子妃教育を受け、その講義を最大限にさぼりながらも王太子妃になった。
一方私は第2王子ナイジェル様と結婚し、やがて子供が授かった。するとまたもやバレリーがおかしなことを言い始める。
王太子妃が住まうルビー宮のサロンに呼び出され、今回も私の両親が同席していた。
「皇太子妃の私よりも先に懐妊するなんて酷いと思います。私に対する嫌がらせなのでしょう? 私が懐妊するまでお姉様のくせに子供を産むのは許しませんわ。堕ろしなさい!」
「こればっかりはあなたの思い通りにはさせませんわ。あなたが王太子妃なら私は聖女です。誰がこの国を魔獣から守っていると思うの?」
「ふん! 神殿で適当に祈っているだけのくせに。聖女なんてインチキよ」
と妹。
「お姉さんなのだから今回は我慢しなさい。ほら、この『子流れの薬草汁』を飲んであげなさい。すぐにお腹の子は流れてしまうわ」
お母様が当然のように私に毒々しい色の飲み物を手渡す。
「早く飲め! バレリーを妻に推薦したのはロズリーヌだよな? バレリーの機嫌をとることも君の責任だろう? ロズリーヌが子供を授かってからバレリーは荒れっぱなしで、こちらは迷惑しているのだ。君が子供を流せばまた機嫌は戻るだろう。だいたい、スペアにすぎない第2王子の妃のくせに、私の妃より先に懐妊するなど不敬であろう?」
しばらくすると王太子までがやって来て私に命令した。
「私が懐妊したから不満なのですよね? バレリーもすぐに懐妊できるから心配には及びませんわ。私は聖女です。神に祈り、『子供が欲しい』というバレリーの願いを叶えてあげましょう」
私はその薬草汁を飲まずにその場を後にした。
ここは私とナイジェル様が住むエメラルド宮の食堂である。ディナー時に私はある異変を感じた。スープの味が明らかにおかしいし、ドレッシングもいつもより苦い。
厨房に行きコックや給仕メイドに問い詰めると、子流れの薬草をバレリーから押しつけられたと白状した。私はそれに関わった使用人達を全て解雇しようとナイジェル様に相談する。
「なんだバレちゃったのか。ロズリーヌが我慢すればこの場は丸く収まるのだよ。兄上にさからうと公爵位が賜れなくなるからね。子供はまたいずれできるさ。父上もこの件は納得している」
バレリーはとても美しい。金髪に、瞳は角度によって多彩な色彩を放つ天使の瞳。愛らしい唇から紡ぎ出される言葉はどんな我が儘も許したくなる力を持つらしい。けれどさすがにこれは酷すぎる。
私はこの国を去る決心をした。でもその前に妊娠したいという可愛い妹の願いは叶えてあげる。私は神殿に三日間籠もり念入りに祈りを捧げたわ。
ここはアデノール伯爵家のサロンである。私の前にはテーブルを挟んで両親とバレリーが座っている。
「ずるいわ、お姉様ばっかりが得をしています。私が聖女の力をお母様のお腹のなかでお姉様に譲ったのですよ? この国の王太子妃の座とあの素晴らしい美貌のニクス王太子を貰うのは私です」
妹バレリーが両親の前でさめざめと泣いた。ちなみに私達の両親はアデノール伯爵夫妻で、幼い頃から双子のバレリーを優遇してきた。
「そうね、聖女様などと崇められ尊敬を集めているのだから、王太子妃の座はバレリーに譲ってあげなさい。なんでも手に入ると思ったら大間違いですわ」
お母様は私をたしなめる。
「ロズリーヌが双子の妹から聖女の力を奪ったのだから、王太子はバレリーに譲りなさい。これが道理というものだ」と、お父様。
「双子の姉の私が生まれつき持っていた能力をなぜ妹から奪ったことになるのか意味不明ですが、それほどバレリーが王太子妃になりたいならお譲りしましょう。今から国王陛下に掛け合ってきますわね」
私は国王陛下に謁見を申し込み、
「神の啓示がおりました。ニクス王太子には妹バレリーを妻にさせよという内容です」と、申し上げた。
そんなわけでバレリーが私のかわりに王太子妃教育を受け、その講義を最大限にさぼりながらも王太子妃になった。
一方私は第2王子ナイジェル様と結婚し、やがて子供が授かった。するとまたもやバレリーがおかしなことを言い始める。
王太子妃が住まうルビー宮のサロンに呼び出され、今回も私の両親が同席していた。
「皇太子妃の私よりも先に懐妊するなんて酷いと思います。私に対する嫌がらせなのでしょう? 私が懐妊するまでお姉様のくせに子供を産むのは許しませんわ。堕ろしなさい!」
「こればっかりはあなたの思い通りにはさせませんわ。あなたが王太子妃なら私は聖女です。誰がこの国を魔獣から守っていると思うの?」
「ふん! 神殿で適当に祈っているだけのくせに。聖女なんてインチキよ」
と妹。
「お姉さんなのだから今回は我慢しなさい。ほら、この『子流れの薬草汁』を飲んであげなさい。すぐにお腹の子は流れてしまうわ」
お母様が当然のように私に毒々しい色の飲み物を手渡す。
「早く飲め! バレリーを妻に推薦したのはロズリーヌだよな? バレリーの機嫌をとることも君の責任だろう? ロズリーヌが子供を授かってからバレリーは荒れっぱなしで、こちらは迷惑しているのだ。君が子供を流せばまた機嫌は戻るだろう。だいたい、スペアにすぎない第2王子の妃のくせに、私の妃より先に懐妊するなど不敬であろう?」
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