(完結)「君を愛することはない」と言われて……

青空一夏

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33 オーウェン様の真の姿

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 朝の光がオーウェン様の部屋の窓から差し込む中、私は王子様の専属侍女として、重要な任務を果たそうとしていた。オーウェン様の額には、幼いころに受けたと思われる火傷の痕がある。それは普段、彼の美しいブルーの前髪によって隠されているが、もう隠さなくても良くなるはずよ。

 ゾーイが開発した特別な化粧品を手に、私はオーウェン様の前に跪いた。その化粧品は火傷の痕を隠すだけでなく、肌を癒やす効果もある。オーウェン様は少し緊張しているように見えたけれど、私に信頼を寄せていることがわかる。

「オリビア、お願いできるかな?」
 オーウェン様の声は柔らかく、それでいて少し不安げだった。

「もちろんです、オーウェン様。全く心配いりません」
 私は優しく答え、化粧品を指先にとった。

 彼の額にそっと触れると、彼は僅かに息を吞んだ。私は慎重に優しく化粧品を塗り広げた。その化粧品は肌にすっと溶け込み、火傷の痕を見事に隠していった。オーウェン様の瞳が私の仕事に対する感謝で輝く。彼は鏡を覗き込み、自分の変わった姿に驚いたようだった。

「オリビア、ありがとう。君のおかげで今日は良い一日になりそうだ」
 
 微笑んだオーウェン様の顔がまぶしい。私も心の底からオーウェン様に向かって微笑んだ。私の小さな行為が、彼の自信に繋がることが嬉しかった。それから、オーウェン様はお出かけになった。行く先は聞いても教えてくださらなかった。

「また、市井に遊びに行ったのか。武術も学問も全く興味を示さないよな。『はずれ王子』のあだ名はぴったりだよ」
 王宮で働く使用人たちの声が嫌でも耳に入ってくる。仕えているオーウェン様の悪口は聞きたくなかったし、『はずれ王子』ではないことを信じたい。

 

 オーウェン様が外出されたので、私はエマ、ラナ、そしてゾーイと一緒に、オーウェン様の部屋の掃除をすることにした。基本的に掃除はメイドのする仕事だけれど、オーウェン様はメイドが居室にはいることを嫌がる。自分で掃除をするとおっしゃるのだけれど、それぐらいは私もお手伝いしたかった。

 私たちは黙々と掃除に取り組んでいたのだけれど、ゾーイはいつも細かなことに気がつく。今日も何かを発見したようだった。

 「この壁、少しおかしいな」
 ゾーイが呟きながら壁を軽くたたいたところ、見えない隠し扉が現れた。私たちは驚きつつも、その扉を開けた。

 扉の向こうには、オーウェン様の秘密の部屋があった。壁一面には、「国家経済の基礎理論」や「王国を守るための戦略と戦術」といった王太子にふさわしい知識が詰まった書物が並んでいる。また、「隣国との平和を保つ外交の技術」のような国際関係の本も目立った。

 隠し部屋の隅にはナイフ投げのための藁製の的があり、中央には無数の穴が開いていた。床下には大小様々なナイフと剣がきちんと手入れされ、磨かれて収められていた。壁には剣の扱い方が描かれたポスターがあり、練習用の木製の人形は数多くの打撃痕でいっぱいだった。

 この部屋は、オーウェン様が秘密裏に学問と武術の訓練に打ち込んでいたことを物語っていた。表では『はずれ王子』として振る舞っていた彼が、実は深い知識と責任感を持つ王子殿下であることが明らかになった。

「能ある鷹は爪を隠す、ですね」
 エマが小さくつぶやいた。

「なかなかやるじゃないか。見直したぞ」
 ゾーイはニヤニヤと笑いながら、嬉しがっていた。

 ラナはただ驚いていたし私も同じだった。オーウェン様の知られざる一面を目の当たりにして、エマたちは深い尊敬の念で満たされたけれど、私は疑問だらけだった。

 やがて、オーウェン様がお戻りになると、その白いドレスシャツには泥が少しついており、肘には擦り傷があった。あの隠し部屋で見たナイフや剣を思い出すと、彼がどこかで身体を鍛えていたのは明らかだった。

「今日は酒場で賭け事をして、運良く勝った。だから、これをオリビアにあげよう」と、オーウェン様は私にチョコレートボンボンを投げてよこした。

 けれど、彼の服にも身体にもお酒の匂いは全くしなかった。私は彼の話がまた一つの演技であることを疑った。

「朝から下町の酒場に行くとはろくでなしすぎる。やはり、王太子にはアイザック第二王子殿下こそが相応しい」
 またしても彼の行動を使用人たちが批判した。

 「なぜ、それほどまでに、ろくでなしのふりをするのですか?」
 私はオーウェン様がバカにされるのが悔しい。あれだけ努力を怠らない素晴らしい方なのに、悪評にまみれるオーウェン様が悲しくて、思わず涙がこぼれたのだった。
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