（完結）あなたの愛は諦めました （全5話）

5

「ライラ様、ジェイミー・エト伯爵がお会いしたいと先触れもせず、いきなり門の前まで来ております」

「追い返してください。こちらは会う義務もないわ」

「わたしはそいつの顔が見たいですよ。ライラ様を捨てた男でしょう？　バカな男だ」
　私の真向かいに座っていた彼が私の隣のソファに移動した。







　ジェイミーが姿を現すと、その頬が痩けて髪はボサボサ、着ている服も清潔感の欠片もないのにびっくりする。

「クダリネがメイド達を次々にクビにするから、まともに仕事ができる使用人がいなくなったんだ。わたしがほんの少し相談に乗ってあげただけで、毎回その使用人をクビにする。だから相談に乗るのを控えたんだが、しばらくしてからクダリネは妊娠した」

「あら、まぁ、良かったですね？　おめでとうございます」

「良くないよ。夜会のたびに他の男に色目を使って庭園に消える女なんてろくでもないさ。多分、お腹の子は私の子ではないと思う。私が他の女の相談に乗ることを嫌がっていたからやめたのに、その途端クダリネが怪しい動きをし始めた」

「あら、まぁ。とても面白いお話ですね。夫婦のすれ違いって滑稽だわ」
　私は朗らかに笑った。

（予想通りの展開なのだもの）

「ライラはまだ再婚していないよね？　わたしのことを待っていてくれたのかい？　ようやく目が覚めたからもう一度一緒に暮らそう」

　慣れ慣れしい口の利き方に悪寒が走る。

「無理ですね。待ってなどいませんでしたし」

「強がらなくてもいいよ。ナーディアの為にも、また家族で一緒に暮らそう。もう他の女の相談には乗らないと約束するよ」

「おとーしゃま」
　とても良いタイミングでサロンにとことこと歩いてきたナーディアは、ジェイミーが手を広げる横をすり抜けて彼に向かって手を伸ばし抱っこをしてもらった。

「え？　まさかライラも浮気をしていたのか？　この裏切り者め！」

「バカなのですか？　このナーディアはあなたの娘ですが、もうすぐわたしの娘になるのでこう呼ばせているだけです。」
　彼はハドリー・スパーリング侯爵。私の彼でこれから再婚する男性だ。付き合い始めたのは半年前だけれど、もう家族のように馴染んでいて、ここキナリヤ伯爵家の離れに彼の息子を連れてよく遊びにいらっしゃる。

「おかーしゃま。綺麗なお花をあげます」
　続いてナーディアと同じくらいの歳の男の子がサロンに入って来て私に野に咲く花を差し出した。

「まさかこんなに大きな隠し子までいるなんて･･････」
　とジェイミー。

「この子は、ハドリー様の息子ですわ。でもじきに私の息子になりますけれどね。私はハドリー・スパーリング侯爵と再婚してスパーリング侯爵夫人になりますのよ」

「そんな･･････わたしはどうなるんだよ？」

「その血が繋がっていないかもしれない子供が産まれたら可愛がって育てることですね。大丈夫よ。私達も血が繋がっていないパートナーの子供を愛せるのですから」

「いや、浮気して出来た子供と、再婚相手の連れ子は同列ではないだろう。可愛がれる気がしない」

「では離婚するのですね。慰謝料は3倍払っていただきます」

　すごすごと帰って行くジェイミー。あなたが相談のり男に戻ればクダリネの浮気もやむわよ。だって彼女は刺激を愛する女なのだから。

　人の物が欲しくてたまらない女は、夫が他の女に気があるうちは振り向かせようと必死になるけれど、落ち着いてしまったらそれはそれで飽きてしまうものなのよ。

　でも、それは教えてあげない。お互いがお互いを苦しませる良い組み合わせだと私は笑ったのだった。

（永遠に苦しんですれ違っていればいいわ）