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「よくもまぁ、私の夫を奪っておいてキナリヤ伯爵家に顔を出せたものですね? 面の皮が厚すぎて多分頬をつねっても痛くなさそうですわ。羨ましいこと」

 私は口元を扇で隠して笑ってしまう。なぜこのクダリネはこのように心臓に毛が生えているように図々しいの?

「養育費を請求するなんて言わなかったじゃない! ライラがあの日出て行ってから水も火も使えないし、使用人はほとんど辞めてしまったのよ。私がどれだけ苦労したと思っているのよ?」

「子どもの養育費を父親が払うのは当然の義務ですわ。申し上げなくてもおわかりになっているとばかり思っていました。でも、ララ子爵家だってお金がないわけではないでしょう? 持参金をちゃんと持たせてもらったのでしょう? それをつぎ込んでエト伯爵家を立て直していけばいいわよ。かつての私と同じようにね?」

「もちろん持参金は使ったわよ。ところが、ジェイミーはろくに仕事もしないで、夜会で知りあった夫人達の相談ばかりに乗っているわ。あいつは相談乗り男よ。完全に病気だわ」

「ジェイミーはそういう人よ。釣った魚には餌をあげない人だもの」

「こんなのおかしいわよ。私は一生懸命頑張っているのに、夫の目は外ばかり向いていて、他の女の相談ばかり乗っているのよ!」
 クダリネがぼやいた。

「ちょうどいいじゃない? 学園時代から私の物を奪う趣味があるクダリネだから、刺激がほしいのかと思っていたの。あなたはこれからいつも自分の夫が他の女に奪われる心配をしなきゃいけないのよ? 素敵な刺激で溢れた結婚生活をプレゼントしてあげた私に感謝なさい」

「こうなるってわかっていたのね? だから私を屋敷に遊びに来るように誘ったのね? 久しぶりに手紙が来たからおかしいな、とは思っていたのよ」

「うふふ。私の物を欲しがる癖がまだ直っていなくて嬉しかったわ。外面そとづらだけが良いクズを奪ってくれてありがとう」

「離婚するわ。そうよ、絶対するんだから!」

「どうぞご自由に。でも慰謝料は3倍払ってもらいますわ」

「3倍? 無理にきまっているでしょう」

「どんなことをしてでも払ってもらうわよ? 鉱山で働くとか、女の武器でも使って娼館でお金を稼ぐのね。それかカジノで一発当てれば?」

 ジェイミーは使用人達の相談漬けになる前も、隣の領地の出戻り娘の相談にずっと乗っていたことがある。厳重に注意をしたら今度は使用人の相談に乗り始めたわ。もういい加減捨てたくなって、クダリネを呼び寄せたのだ。

 でなければこんな女は絶対に屋敷に入れない。素行の悪い阿婆擦れ女も、相談のり男にはちょうどピッタリ。お似合いだと思うわ。

「私、どうすればいいの?」

「さぁね。離婚したら3倍の慰謝料をあなた達それぞれに請求するわ。いいじゃない? そのまま死ぬまで連れ添いなさいよ。学園時代さんざん私のボーイフレンドを横取りしていた罰よ」

「このままなんて嫌よ。こんな生活は嫌よ」
 泣きながら帰っていったけれど自業自得だ。












 そうしてその1年後、今度はジェイミーが泣きついて来たわ。 
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