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25 自業自得 sideケイラ
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side ケイラ・カット子爵令嬢
「お前はこれから修道院に入れることにする。モリー伯爵家は、周囲の貴族たちから次々と制裁を受けている。次はカット子爵家の番だ。これが何を意味するか、わかるな?」
もちろん、どういう意味かは説明されなくても分かった。ドロシア様はすでに学園を退学し、モリー伯爵家も貴族としての体面を失っていた。私も、かつてドロシア様と一緒にスカーレット様をからかって楽しんでいた身として、次に制裁を受けるのはカット子爵家だと理解していた。
貴族たちは制裁の対象になった家を、順番に追い詰めていく。まるで狩りを楽しむかのように、一気に潰すことはしない。まずは主立った一人を没落させ、次にその取り巻きを順番に潰すのが、いつものやり口だった。
潰される側は、ただビクビクと順番を待つしかない。唯一できる手段は、原因そのものを取り除くこと――つまり、お父様は私を見限り、捨てることを決めたらしい。
「子ども同士の学園での、ちょっとした出来事なのに、なぜここまで大事になるんですか?
だって私とドロシア様は、別にスカーレット様を叩いたり突き飛ばしたりしたわけではないんですよ?」
「なんたる愚か者だ!
そんなことをしたとすれば、直ちに極刑に処されるだろう。
数百年ぶりの聖女様に対して、そのような行為をする貴族を、国王陛下が許すと思うか?
民が許すと思うのか?
お前がしたことは、たしかにちょっとした悪口かもしれない。
だが、ドロシア様の肩を持ち、一緒に笑っていたことだけでも、貴族たちから敬遠されるに十分な理由となるのだ」
「そんなの、納得できません。
ただ『ゼロスカ』と呼んで遊んでいただけなのに」
「忖度という言葉を知っているか?
貴族たちは皆、敏感に『誰につけば生き残れるか』を真剣に考えている。
スカーレット様とお前では、勝負にならない。皆がスカーレット様を選ぶに決まっているだろう?
聖女様というだけで尊いのに、今ではすっかり国王陛下や王妃殿下から、娘のように可愛がられている。
そんな方に意地の悪いことをし嫌われているお前を、誰が今まで通り接すると思う?
このままでは、カット子爵家もモリー伯爵家と同じ憂き目に遭うのだ」
「そんな……スカーレット様がそんなにすごい人だと初めから分かっていれば、絶対にあんなことはしなかったです。
だって、みんなバカにしていたのに」
「その『みんな』は謝っただろう、そうじゃないか?
だが、お前たち二人だけは謝らなかったと聞いている。それも大きな噂になっている。
少しも反省していないとな」
「だったら、今から謝ってきます。
そうすれば、カット子爵家は大丈夫でしょう?」
「今更そんなことで通用すると思うのか?
貴族の社会をなめるんじゃない!
謝るにもタイミングというものがあるのだ。
お前の教育は間違っていたな。
とにかく、修道院でおとなしく暮らしなさい」
。゚☆: *.☽ .* :☆゚
私は戒律の厳しい修道院に送られた。ここは神を敬い、奇跡を起こす聖女様を、神から最も愛された存在として崇める世界だった。
つまり、聖女様に意地悪をした私は、神をも侮辱した者と同じ扱いを受け、到底許されることのない存在だったのだ。
「こちらが新しく入ってきたケイラさんです。
魔力がゼロだと誤って測定された聖女様を『ゼロスカ』と呼び、毎日のようにバカにしていたそうです。
ならば、私たちは頭が空っぽのケイラさんを『ゼロケイ』と呼んで差し上げましょう。これこそ、己が行った悪事が自分に返ってくるということです」
修道院長は、修道院に入ったばかりの私を皆に紹介した。
「頭が空っぽ。
確かに、貴族の令嬢でありながら、くだらないあだ名を聖女様につけて日々からかい、しかも聖女様に謝りもしなかったのですから、その小さな頭には何も詰まっていないのでしょうね」
副修道院長も、厳格な面持ちで私を睨みつける。
「毎日、神様に祈りを捧げ、自らの行いを反省しなさい。
そうすれば、『ゼロケイ』と呼ばれることもなくなるでしょう」
修道院長がそう言って締めくくったが、社交界での噂がここまで広まっているとは思っていなかった。
毎朝、朝日が昇る前に起床し、礼拝堂の掃除をしたり、修道院の庭に広がる畑を耕したり、家畜の世話までしなければならない。修道院は自給自足が基本だからだ。
慣れない仕事で腰は痛み、手はガサガサ。
いつも『ゼロケイ』と呼ばれて笑われる。
このとき初めて分かった。
軽い気持ちで面白いあだ名をつけて笑っている側は、それほどひどいことをしている自覚がなくても、されている側にとってはかなり辛い。屈辱と情けなさで涙が滲んだ。
あんなことをしなければよかった。
少なくとも、スカーレット様が復学したときに、真っ先に謝罪しておけばよかった。
だって、スカーレット様を悪く言っていた人たちは他にもいたけれど、すぐに謝罪したことでスカーレット様は許していたもの。そして、その人たちには何の制裁もなかった。 聖女様が許した者に対して、他の貴族たちが制裁を加える必要はないものね。
あぁ、私がバカだったのよ……
「お前はこれから修道院に入れることにする。モリー伯爵家は、周囲の貴族たちから次々と制裁を受けている。次はカット子爵家の番だ。これが何を意味するか、わかるな?」
もちろん、どういう意味かは説明されなくても分かった。ドロシア様はすでに学園を退学し、モリー伯爵家も貴族としての体面を失っていた。私も、かつてドロシア様と一緒にスカーレット様をからかって楽しんでいた身として、次に制裁を受けるのはカット子爵家だと理解していた。
貴族たちは制裁の対象になった家を、順番に追い詰めていく。まるで狩りを楽しむかのように、一気に潰すことはしない。まずは主立った一人を没落させ、次にその取り巻きを順番に潰すのが、いつものやり口だった。
潰される側は、ただビクビクと順番を待つしかない。唯一できる手段は、原因そのものを取り除くこと――つまり、お父様は私を見限り、捨てることを決めたらしい。
「子ども同士の学園での、ちょっとした出来事なのに、なぜここまで大事になるんですか?
だって私とドロシア様は、別にスカーレット様を叩いたり突き飛ばしたりしたわけではないんですよ?」
「なんたる愚か者だ!
そんなことをしたとすれば、直ちに極刑に処されるだろう。
数百年ぶりの聖女様に対して、そのような行為をする貴族を、国王陛下が許すと思うか?
民が許すと思うのか?
お前がしたことは、たしかにちょっとした悪口かもしれない。
だが、ドロシア様の肩を持ち、一緒に笑っていたことだけでも、貴族たちから敬遠されるに十分な理由となるのだ」
「そんなの、納得できません。
ただ『ゼロスカ』と呼んで遊んでいただけなのに」
「忖度という言葉を知っているか?
貴族たちは皆、敏感に『誰につけば生き残れるか』を真剣に考えている。
スカーレット様とお前では、勝負にならない。皆がスカーレット様を選ぶに決まっているだろう?
聖女様というだけで尊いのに、今ではすっかり国王陛下や王妃殿下から、娘のように可愛がられている。
そんな方に意地の悪いことをし嫌われているお前を、誰が今まで通り接すると思う?
このままでは、カット子爵家もモリー伯爵家と同じ憂き目に遭うのだ」
「そんな……スカーレット様がそんなにすごい人だと初めから分かっていれば、絶対にあんなことはしなかったです。
だって、みんなバカにしていたのに」
「その『みんな』は謝っただろう、そうじゃないか?
だが、お前たち二人だけは謝らなかったと聞いている。それも大きな噂になっている。
少しも反省していないとな」
「だったら、今から謝ってきます。
そうすれば、カット子爵家は大丈夫でしょう?」
「今更そんなことで通用すると思うのか?
貴族の社会をなめるんじゃない!
謝るにもタイミングというものがあるのだ。
お前の教育は間違っていたな。
とにかく、修道院でおとなしく暮らしなさい」
。゚☆: *.☽ .* :☆゚
私は戒律の厳しい修道院に送られた。ここは神を敬い、奇跡を起こす聖女様を、神から最も愛された存在として崇める世界だった。
つまり、聖女様に意地悪をした私は、神をも侮辱した者と同じ扱いを受け、到底許されることのない存在だったのだ。
「こちらが新しく入ってきたケイラさんです。
魔力がゼロだと誤って測定された聖女様を『ゼロスカ』と呼び、毎日のようにバカにしていたそうです。
ならば、私たちは頭が空っぽのケイラさんを『ゼロケイ』と呼んで差し上げましょう。これこそ、己が行った悪事が自分に返ってくるということです」
修道院長は、修道院に入ったばかりの私を皆に紹介した。
「頭が空っぽ。
確かに、貴族の令嬢でありながら、くだらないあだ名を聖女様につけて日々からかい、しかも聖女様に謝りもしなかったのですから、その小さな頭には何も詰まっていないのでしょうね」
副修道院長も、厳格な面持ちで私を睨みつける。
「毎日、神様に祈りを捧げ、自らの行いを反省しなさい。
そうすれば、『ゼロケイ』と呼ばれることもなくなるでしょう」
修道院長がそう言って締めくくったが、社交界での噂がここまで広まっているとは思っていなかった。
毎朝、朝日が昇る前に起床し、礼拝堂の掃除をしたり、修道院の庭に広がる畑を耕したり、家畜の世話までしなければならない。修道院は自給自足が基本だからだ。
慣れない仕事で腰は痛み、手はガサガサ。
いつも『ゼロケイ』と呼ばれて笑われる。
このとき初めて分かった。
軽い気持ちで面白いあだ名をつけて笑っている側は、それほどひどいことをしている自覚がなくても、されている側にとってはかなり辛い。屈辱と情けなさで涙が滲んだ。
あんなことをしなければよかった。
少なくとも、スカーレット様が復学したときに、真っ先に謝罪しておけばよかった。
だって、スカーレット様を悪く言っていた人たちは他にもいたけれど、すぐに謝罪したことでスカーレット様は許していたもの。そして、その人たちには何の制裁もなかった。 聖女様が許した者に対して、他の貴族たちが制裁を加える必要はないものね。
あぁ、私がバカだったのよ……
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