19 / 43
19.ヘンリーサイド
しおりを挟む
「まだ見つからないかのか!?」
ヘンリーは癇癪を起したかのように、ワインのなみなみ注がれたワイングラスを壁に投げる。
ガシャンと盛大な音を立てながら、砕けたワイングラスが床に落ちても、ヘンリーの気分は優れない。
傍で見守るローデンは、苦痛に顔を歪ませていた。
「申し訳ありません、ヘンリー様。無能な下男のせいで、ヘンリー様にご迷惑をおかけいたしました。私の失態です」
頭を下げ謝罪するローデンに、ヘンリーは怒りをぶつけたりはしない。
ヘンリーは誰よりもローデンの事を信頼しているから。
だからこそ、ローデンのひいては主であるヘンリーの命令を遂行できなかった無能に苛立つ。
「ローデン、お前が私の理解者のは誰よりも私が分かっている……すべては命令を忠実に遂行できなかった無能なやつらのせいだ。罰を与えねばならん」
「もちろんでございます。すでにその身は奴隷となって、いくばくかの値段にはなりました」
さすがだなと、ヘンリーはニヤリと笑う。
ローデンはいつだってヘンリーの願いを先回りでかなえてくれる。
親よりも親らしくヘンリーのすべてを肯定してくれる存在。
「その金はどうした?」
「もちろん、ヘンリー様が紳士クラブで社交するためのものでございます。いかようにでもお使いください」
「くくく、さすがローデン。良く分かっている。最近は、金が特にかかる。戦争も終わったというのに、困ったものだ。それもこれも、あの女のせいだ」
「さようでございますね。見つけ次第、相応の対応をしなければなりません」
「ああ、あの女の実家に婚家を逃げたて男を咥えこんでいたことを教えてやらねばな。向こうとて世間にしられたくはないはず。なにせ、あの女の妹が侯爵家に嫁ぐのだからな」
そう、暮らしの趣が変わったのは戦争のせいだ。
物価が上がり、贅沢品がなかなか手に入らなかった。そのせいで、段々金が目減りした。
それに加えて、無能な父親が借金を増やした結果、ヘンリーは愛するマリアと結婚もできずに成金の娘と結婚することになったのだ。
従順であれば、それなりに長く飼ってやったものを、さすがしつけのなってない犬。
たかだか十億ルイズの支援でさっさと裏切るとは。
今考えても腸が煮えくり返る。
「もし金が必要な、適当な平民でも売ればいい。あれは高貴な私のような血と違って、勝手に増えて行く。高貴な血のために使われるのだ。大変名誉なことだと思わないか?」
何気なく答えて、ヘンリーはそれが最も当然なことではないかと思った。
勝手に増える平民を上級貴族の自分が少しばかり間引いてやっても。
「ええ、ヘンリー様。そうでございます。しかし、躾けもしなければなりませんが、そちらも私のほうで手配してもよろしいですか?」
ローデンはうれしそうに答えた。
やはりローデンはなんでも分かってくれる。
だから、普段は手伝うことがないローデンの仕事も多少手伝ってやることにした。
そうすると、ローデンが心から感動しヘンリーを崇拝の眼差しで見てくれるからだ。
「そうだな……、少しくらいは手伝ってやってもよい。情けを与えてやる価値がある女ならな。最近はマリアの腹もふくれてきたから、なかなか気分がのらん。」
「さようでございますか。でしたら、ヘンリー様の精を受け止められる人間を手配いたしましょう」
「ああ、そうだ。できれば初物がいい。あの征服欲はなかなかのものだ。ついでにそいつを奴隷として売れば高く売れそうだな? この私が選んでやったのだから」
思えば、マリアは初めてだったかと一瞬考えた。
あの時、確かにマリアは初めてだと言ったし、ぬるりと血も付いていた。
しかし、普段の初物に比べたら、ずいぶん柔らかくヘンリーを受け入れていたようにも思う。
「なあ、ローデン。初めてでも、感じることはあるか?」
「むしろヘンリー様が相手してやっているのです。自分で解して、受け入れるのが当然でございます。それに女は愛しい男ならば、その身体を簡単に受け入れるとも申します」
なるほど。
つまり、やはりマリアとヘンリーは運命の相手なのだ。
それに、マリアは若干苦しそうではあった。
「マリアはどうしてる?」
「宝石商と出産後のお披露目で使う宝石を見ております」
「ふん、私が仕事をしているのに暢気なものだ。マリアは私の事を理解してくれているが、最近は妊娠したせいか私の事をないがしろにしている気がする」
「妊娠中は、ホルモンのバランスが崩れると聞きますから、しばらくの辛抱かと」
「そもそも、なぜ私が我慢せねばならん? マリアが私に尽くすのが当然だろう?」
最近なぜかイライラすることが多い。
それもこれも、あの女のせいだ。
だからこそ、見つけ次第相応の罰を与えねばならない。
「ローデン、あの女が見つかったら私の前に引きずり出せ。最高の恥辱を味わわせてやる」
「かしこまりました」
「女の方も手配しろ、妊娠中のマリアに心労を与えたくないから、知らせるなよ。これだけ気を使ってやってるのだから、マリアは少し私に気を使ってほしいものだ」
「ええ、子供が産まれましたら、ぜひ躾直してやってください。なにせ、マリア様はヘンリー様にお仕えしているのですから。自分が主人の様に思わせてはなりません」
ローデンのきっぱりしたいい様に、ヘンリーはやはり一番自分を理解し、欲しい言葉をくれるのはローデンなのだと思った。
ローデンだけは自分を裏切ることはない。
子供の頃から、それだけは変わることがない信頼だった。
ヘンリーは癇癪を起したかのように、ワインのなみなみ注がれたワイングラスを壁に投げる。
ガシャンと盛大な音を立てながら、砕けたワイングラスが床に落ちても、ヘンリーの気分は優れない。
傍で見守るローデンは、苦痛に顔を歪ませていた。
「申し訳ありません、ヘンリー様。無能な下男のせいで、ヘンリー様にご迷惑をおかけいたしました。私の失態です」
頭を下げ謝罪するローデンに、ヘンリーは怒りをぶつけたりはしない。
ヘンリーは誰よりもローデンの事を信頼しているから。
だからこそ、ローデンのひいては主であるヘンリーの命令を遂行できなかった無能に苛立つ。
「ローデン、お前が私の理解者のは誰よりも私が分かっている……すべては命令を忠実に遂行できなかった無能なやつらのせいだ。罰を与えねばならん」
「もちろんでございます。すでにその身は奴隷となって、いくばくかの値段にはなりました」
さすがだなと、ヘンリーはニヤリと笑う。
ローデンはいつだってヘンリーの願いを先回りでかなえてくれる。
親よりも親らしくヘンリーのすべてを肯定してくれる存在。
「その金はどうした?」
「もちろん、ヘンリー様が紳士クラブで社交するためのものでございます。いかようにでもお使いください」
「くくく、さすがローデン。良く分かっている。最近は、金が特にかかる。戦争も終わったというのに、困ったものだ。それもこれも、あの女のせいだ」
「さようでございますね。見つけ次第、相応の対応をしなければなりません」
「ああ、あの女の実家に婚家を逃げたて男を咥えこんでいたことを教えてやらねばな。向こうとて世間にしられたくはないはず。なにせ、あの女の妹が侯爵家に嫁ぐのだからな」
そう、暮らしの趣が変わったのは戦争のせいだ。
物価が上がり、贅沢品がなかなか手に入らなかった。そのせいで、段々金が目減りした。
それに加えて、無能な父親が借金を増やした結果、ヘンリーは愛するマリアと結婚もできずに成金の娘と結婚することになったのだ。
従順であれば、それなりに長く飼ってやったものを、さすがしつけのなってない犬。
たかだか十億ルイズの支援でさっさと裏切るとは。
今考えても腸が煮えくり返る。
「もし金が必要な、適当な平民でも売ればいい。あれは高貴な私のような血と違って、勝手に増えて行く。高貴な血のために使われるのだ。大変名誉なことだと思わないか?」
何気なく答えて、ヘンリーはそれが最も当然なことではないかと思った。
勝手に増える平民を上級貴族の自分が少しばかり間引いてやっても。
「ええ、ヘンリー様。そうでございます。しかし、躾けもしなければなりませんが、そちらも私のほうで手配してもよろしいですか?」
ローデンはうれしそうに答えた。
やはりローデンはなんでも分かってくれる。
だから、普段は手伝うことがないローデンの仕事も多少手伝ってやることにした。
そうすると、ローデンが心から感動しヘンリーを崇拝の眼差しで見てくれるからだ。
「そうだな……、少しくらいは手伝ってやってもよい。情けを与えてやる価値がある女ならな。最近はマリアの腹もふくれてきたから、なかなか気分がのらん。」
「さようでございますか。でしたら、ヘンリー様の精を受け止められる人間を手配いたしましょう」
「ああ、そうだ。できれば初物がいい。あの征服欲はなかなかのものだ。ついでにそいつを奴隷として売れば高く売れそうだな? この私が選んでやったのだから」
思えば、マリアは初めてだったかと一瞬考えた。
あの時、確かにマリアは初めてだと言ったし、ぬるりと血も付いていた。
しかし、普段の初物に比べたら、ずいぶん柔らかくヘンリーを受け入れていたようにも思う。
「なあ、ローデン。初めてでも、感じることはあるか?」
「むしろヘンリー様が相手してやっているのです。自分で解して、受け入れるのが当然でございます。それに女は愛しい男ならば、その身体を簡単に受け入れるとも申します」
なるほど。
つまり、やはりマリアとヘンリーは運命の相手なのだ。
それに、マリアは若干苦しそうではあった。
「マリアはどうしてる?」
「宝石商と出産後のお披露目で使う宝石を見ております」
「ふん、私が仕事をしているのに暢気なものだ。マリアは私の事を理解してくれているが、最近は妊娠したせいか私の事をないがしろにしている気がする」
「妊娠中は、ホルモンのバランスが崩れると聞きますから、しばらくの辛抱かと」
「そもそも、なぜ私が我慢せねばならん? マリアが私に尽くすのが当然だろう?」
最近なぜかイライラすることが多い。
それもこれも、あの女のせいだ。
だからこそ、見つけ次第相応の罰を与えねばならない。
「ローデン、あの女が見つかったら私の前に引きずり出せ。最高の恥辱を味わわせてやる」
「かしこまりました」
「女の方も手配しろ、妊娠中のマリアに心労を与えたくないから、知らせるなよ。これだけ気を使ってやってるのだから、マリアは少し私に気を使ってほしいものだ」
「ええ、子供が産まれましたら、ぜひ躾直してやってください。なにせ、マリア様はヘンリー様にお仕えしているのですから。自分が主人の様に思わせてはなりません」
ローデンのきっぱりしたいい様に、ヘンリーはやはり一番自分を理解し、欲しい言葉をくれるのはローデンなのだと思った。
ローデンだけは自分を裏切ることはない。
子供の頃から、それだけは変わることがない信頼だった。
53
あなたにおすすめの小説
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
愛しい人、あなたは王女様と幸せになってください
無憂
恋愛
クロエの婚約者は銀の髪の美貌の騎士リュシアン。彼はレティシア王女とは幼馴染で、今は護衛騎士だ。二人は愛し合い、クロエは二人を引き裂くお邪魔虫だと噂されている。王女のそばを離れないリュシアンとは、ここ数年、ろくな会話もない。愛されない日々に疲れたクロエは、婚約を破棄することを決意し、リュシアンに通告したのだが――
能力持ちの若き夫人は、冷遇夫から去る
基本二度寝
恋愛
「婚姻は王命だ。私に愛されようなんて思うな」
若き宰相次官のボルスターは、薄い夜着を纏って寝台に腰掛けている今日妻になったばかりのクエッカに向かって言い放った。
実力でその立場までのし上がったボルスターには敵が多かった。
一目惚れをしたクエッカに想いを伝えたかったが、政敵から彼女がボルスターの弱点になる事を悟られるわけには行かない。
巻き込みたくない気持ちとそれでも一緒にいたいという欲望が鬩ぎ合っていた。
ボルスターは国王陛下に願い、その令嬢との婚姻を王命という形にしてもらうことで、彼女との婚姻はあくまで命令で、本意ではないという態度を取ることで、ボルスターはめでたく彼女を手中に収めた。
けれど。
「旦那様。お久しぶりです。離縁してください」
結婚から半年後に、ボルスターは離縁を突きつけられたのだった。
※復縁、元サヤ無しです。
※時系列と視点がコロコロゴロゴロ変わるのでタイトル入れました
※えろありです
※ボルスター主人公のつもりが、端役になってます(どうしてだ)
※タイトル変更→旧題:黒い結婚
傲慢な伯爵は追い出した妻に愛を乞う
ノルジャン
恋愛
「堕ろせ。子どもはまた出来る」夫ランドルフに不貞を疑われたジュリア。誤解を解こうとランドルフを追いかけたところ、階段から転げ落ちてしまった。流産したと勘違いしたランドルフは「よかったじゃないか」と言い放った。ショックを受けたジュリアは、ランドルフの子どもを身籠ったまま彼の元を去ることに。昔お世話になった学校の先生、ケビンの元を訪ね、彼の支えの下で無事に子どもが生まれた。だがそんな中、夫ランドルフが現れて――?
エブリスタ、ムーンライトノベルズにて投稿したものを加筆改稿しております。
従姉の子を義母から守るために婚約しました。
しゃーりん
恋愛
ジェットには6歳年上の従姉チェルシーがいた。
しかし、彼女は事故で亡くなってしまった。まだ小さい娘を残して。
再婚した従姉の夫ウォルトは娘シャルロッテの立場が不安になり、娘をジェットの家に預けてきた。婚約者として。
シャルロッテが15歳になるまでは、婚約者でいる必要があるらしい。
ところが、シャルロッテが13歳の時、公爵家に帰ることになった。
当然、婚約は白紙に戻ると思っていたジェットだが、シャルロッテの気持ち次第となって…
歳の差13歳のジェットとシャルロッテのお話です。
どなたか私の旦那様、貰って下さいませんか?
秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
私の旦那様は毎夜、私の部屋の前で見知らぬ女性と情事に勤しんでいる、だらしなく恥ずかしい人です。わざとしているのは分かってます。私への嫌がらせです……。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
政略結婚で、離縁出来ないけど離縁したい。
無類の女好きの従兄の侯爵令息フェルナンドと伯爵令嬢のロゼッタは、結婚をした。毎晩の様に違う女性を屋敷に連れ込む彼。政略結婚故、愛妾を作るなとは思わないが、せめて本邸に連れ込むのはやめて欲しい……気分が悪い。
彼は所謂美青年で、若くして騎士団副長であり兎に角モテる。結婚してもそれは変わらず……。
ロゼッタが夜会に出れば見知らぬ女から「今直ぐフェルナンド様と別れて‼︎」とワインをかけられ、ただ立っているだけなのに女性達からは終始凄い形相で睨まれる。
居た堪れなくなり、広間の外へ逃げれば元凶の彼が見知らぬ女とお楽しみ中……。
こんな旦那様、いりません!
誰か、私の旦那様を貰って下さい……。
愛さないと言うけれど、婚家の跡継ぎは産みます
基本二度寝
恋愛
「君と結婚はするよ。愛することは無理だけどね」
婚約者はミレーユに恋人の存在を告げた。
愛する女は彼女だけとのことらしい。
相手から、侯爵家から望まれた婚約だった。
真面目で誠実な侯爵当主が、息子の嫁にミレーユを是非にと望んだ。
だから、娘を溺愛する父も認めた婚約だった。
「父も知っている。寧ろ好きにしろって言われたからね。でも、ミレーユとの婚姻だけは好きにはできなかった。どうせなら愛する女を妻に持ちたかったのに」
彼はミレーユを愛していない。愛する気もない。
しかし、結婚はするという。
結婚さえすれば、これまで通り好きに生きていいと言われているらしい。
あの侯爵がこんなに息子に甘かったなんて。
お飾り王妃だって幸せを望んでも構わないでしょう?
基本二度寝
恋愛
王太子だったベアディスは結婚し即位した。
彼の妻となった王妃サリーシアは今日もため息を吐いている。
仕事は有能でも、ベアディスとサリーシアは性格が合わないのだ。
王は今日も愛妾のもとへ通う。
妃はそれは構わないと思っている。
元々学園時代に、今の愛妾である男爵令嬢リリネーゼと結ばれたいがために王はサリーシアに婚約破棄を突きつけた。
しかし、実際サリーシアが居なくなれば教育もままなっていないリリネーゼが彼女同様の公務が行えるはずもなく。
廃嫡を回避するために、ベアディスは恥知らずにもサリーシアにお飾り妃となれと命じた。
王家の臣下にしかなかった公爵家がそれを拒むこともできず、サリーシアはお飾り王妃となった。
しかし、彼女は自身が幸せになる事を諦めたわけではない。
虎視眈々と、離縁を計画していたのであった。
※初っ端から乳弄られてます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる