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①
しおりを挟む「お願いします。あの人を此処へ連れて来て欲しいです…」
上目遣いの目から大量の涙が溢れ落ちる。
私はそっと震えている体を抱きしめた。
「分かりました。必ず此処へあの人を連れて来てあげるよ。それまで待っていて。私の愛しい人」
アスファルトからゆらゆらと熱気が立ち上がり、通行人の額から汗が流れてゆく。
暑さのせいでふらふらする重い体を引き摺り、小林響也(きょうや)は熱い息を吐き額から流れる汗を拭って家路をトボトボと歩き続けている。
「もうすぐ…家に着く」
大学の講義が終わり炎天下の中、電車を乗り継ぎひたすら家を目指して歩き続け、やっとの思いで目的地にたどり着き玄関の前で足を止めた。
鍵を取り出し解錠してドアを開け
「ただいまー」
なんとなしにつぶやいた瞬間開け放ったドアから目を開けられない位の眩しい光が響也の体を包み込む。
「うわああああぁ」
目の前が真っ白になり、響也の意識はそこで途切れてしまった。
「………!!」
「………!!」
誰かの声が聞こえる…。
うるさいなぁ… もう少し寝かせてよ。
「響也兄さん!!」
自分の名前を呼ばれてハッとして目を開けるとそこには見知った顔が俺を心配そうに覗き込んでいる。
栗色の緩い巻き毛の癖がかかったふわふわとした肩まで伸びた髪。
少し大きめの栗色の猫目はまばたきを繰り返した。
そしてすっと通った鼻筋に、桃色の頬。
艶があり、ピンク色のプリプリした唇。
華奢な身体は震えていた。
老若男女見る人を惹きつける魅惑的な顔立ちの目の前 に居る人物は俺の二個下の弟の小林莉央(りお)18歳である。
「な、なんでお前がここに?」
「やっと起きた。遅いよ。もー兄さん。みんな兄さんが来るの待っていたんだからね!!」
「…へっ?みんな?って誰?」
みんな? はぁ?
俺はざっと周囲を見渡す。
横たわっている俺と莉央の周りをフードを被り全身黒いローブを着た怪しい男達が俺達を取り囲んでいた。
そして俺が今見ている景色は見慣れた自宅では無く、俺達はよくあるファンタジー映画に有りそうな一面真っ白で天井が高いお城の中に居たのだった。
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