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カフェ店員のやんごとなき事情
海里のたくらみ
しおりを挟むうーむ。
……逃げたら怒られるんだろうな、と思いながら、沙耶がやいのやいの言ってくるのを右から左へ受け流していると、
「あまり」
と成田が呼んできた。
「そろそろ、五時半だ。
上がれ」
犬塚が来るだろ、と言う。
なんだか機嫌が良くなかった。
はい、と言ってマスターと、まだ、いいなーいいなー、と言っている沙耶に挨拶をし、スタッフルームに向かうと、ちょうどそちらに行くところだったのか、成田もついてきた。
だが、成田は真横を歩いているのに、なにも言わない。
「あのー」
と窺うように見ながら訊いてみた。
「成田さん、もしかして、犬塚さんの会社に出店するの、反対ですか?」
いや……と言った成田は、
「それはいいことかな、とは思うけど」
と言ったあとで、ぽんぽん、と上から頭を叩いてくれる。
「お局様とかに、いじめられたら泣いて帰ってこい。
俺がとっちめに行ってやるからな」
「はいっ。
ありがとうございますっ」
「昼には商品持って覗くから」
「はい。
楽しみにしていますっ」
と言いながら、楽しみにしていますってのもちょっと変だったかな、と思いながら、着替えに奥の部屋へと入っていった。
あまりが着替えに行ってしまったので、成田は店へと戻る。
特にスタッフルームに用があるわけではなかったからだ。
すると、海里はもう来ていて、マスターと話していた。
「早いぞ、犬塚。
終わってすぐに帰れるわけじゃないんだ」
と言ってやると、
「ちょうど時間が空いたんだよ」
と言ってくる。
あまりとなにをするつもりなのか知らないが、用事が済んだら、また会社に戻るようだった。
「……お前、なに企んでるんだ?」
と訊くと、企む? と呟いたあとで、
「まあ、社内で美味しいお茶を飲めるようには企んでるが」
と呑気なことを言う。
「そんなことじゃないだろ」
と言ってやると、海里は少し考え、
「ちょっと確かめたいことがあるんだよ」
と言ってきた。
ちょうどあまりがやってくる。
私服のシンプルなワンピースに着替えたあまりが、なに話してるのかなーという顔で、ひょいと覗く。
……可愛いな。
顔も可愛いが、言動もなんとなく可愛い。
如何にも良家のお嬢様という感じだが、何処か抜けている。
こんなので、カフェの店員とか出来るのか? と思っていたのだが、不器用ながらに一生懸命やっているので、客に受けはいいし。
意外に頭の回転は速いので、ぎこちなくも、段取りよく作業が進められるようになっていて、今では結構助かっている。
めんどくさい客に当たって気分の悪いときも、同じような客に当たっても、聞いているのかいないのか、苦笑いでぺこぺこ謝っているあまりを見ているとなんだか和むし。
……明日から、あまり、居ないのか。
一日中居ないわけではないようだが。
なんだろうな、この喪失感。
「あまり」
と呼びかけると、はい、とこちらを見る。
「いじめられたら、すぐに帰ってこいよ」
と海里を横目に見ながら言うと、
「……その言い方だと、俺がいじめるみたいなんだが」
と言っていたが、いや、こいつはわからない、と思っていた。
常に計算しながら、動いてる奴だからな。
そもそも、何故、あまりを指名した?
なにかあるに違いない、と警戒しながら、あまりと話し出した海里を眺めていた。
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