あまりさんののっぴきならない事情

菱沼あゆ

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カフェ店員のやんごとなき事情

……あのカフェは危険だ

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「すみません。
 こんなにたくさん」

 結局、海里に大量の服を買ってもらい、持ってもらったあまりは、
「また来てねー」
とホクホク顔の大崎に見送られていた。

「あの、お時間ないんでしたら、自分で持って帰りますから」

「お前を送っていく時間まで入れて、切り上げたんだ」

「家は此処から近いのか?
 車を取りに戻った方が早いか?」

「あ、歩いた方が近いと思います。
 店からすぐなので」

「……あのカフェからか?」

 はい、と言うと、海里は、何故か、
「物騒だな、引っ越せ」
と言う。

 いや、なにも物騒ではない、よい場所なんですが……と思いながら、
「あの、犬塚さんは、大崎さんとはお友だちなんですか?」
と訊いてみた。

 どういう関係なのだろうと気になっていたのだが。

 なんて訊いたらいいのかわからないので、とりあえず、婉曲にそう訊いてみたのだが、海里は何故か渋い顔をする。

「友だち……うーん、まあ、友だちかな」
という曖昧な言葉が返ってきた。

「あ、もしかして、大崎さんのために、お洋服を買ってあげたかったとか?」

 大崎の店の売り上げのために自分を連れていったのだろうか。

 それなら、こんなに服を買ってくれたことにも納得いくんだが、と思っていると、海里は、素っ気なく、
「いや、あいつに、そこまでしてやらなきゃならない義理はない」
と言ってきた。

 うーん。
 じゃあ、なんでこんなに服買ってくれたんだろう? と思っているうちに、家に着いていた。

 いつの間にか、カフェの前は通り過ぎていたらしい。

「あ、此処です」
とあまりは手でその建物を示した。

「ワンルームの狭い部屋なんですが、もし、よろしかったら、お茶でもどうぞ」

 建物を見上げた海里が何故か、
「……いや、全然狭くなさそうなんだが」
と呟いていた。



「ワンルームの狭い部屋なんですが、もし、よろしかったら、お茶でもどうぞ」
とあまりが手で示したのは、立派なマンションの建物で。

 いや、このシリーズのマンションの部屋を見たことがあるんだが、全然狭くなかったと思うが……。

 そう思いながら、海里はその建物を見上げていた。

 やっぱり、こいつ、ちょっと感覚が違うな。
 よくあの店で働けているものだと思う。

「あまり」
と呼ぶと、はい、と言う。

 いきなり名前で呼ばれても、嫌がるようにはなかった。

「荷物が多いから、部屋の前までは運んでやるが、お茶はいいからな」
と言うと、また、はい、と言う。

「……簡単に男に部屋に上がれとか言うなよ」

 あまりは、きょとんとした顔をしていた。

 ピンと来ていないようだ。

 家を出てから二ヶ月くらいか。
 よく無事だったな、と思った。

 危険な奴が周りに居るだろうが。

 成田とか、成田とか、成田とかっ……と思いながら、あまりの部屋の前まで通してもらった。

 簡単には入れないセキュリティのしっかりしたマンションだが、まあ、どんな手を使っても入ってくる奴が居るからな、と思う。

 なんだかんだ理由をつけて、此処まで上がりこんできた自分のように――。


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