13 / 89
派遣秘書のとんでもない日常
問題の総務本部です
しおりを挟む「次が問題の総務本部です」
総務、人事、経理が入ってます、と寺坂は言う。
問題のってなに? と思いながら、一緒に階段を下り、ついていくと、こちらはワンフロアが全部つながっていて、総務本部になっているようだった。
本部長の北村のところに連れていかれ、挨拶をする。
この人の方が支社長では? と思う貫禄のある男だった。
「ああ、貴女が南条さんですか。
私もよく行くんですよ、あそこのカフェ」
と北村は、にこやかに応対してくれる。
此処では、大勢居る社員に、いちいち紹介されはしなかったが、出入りのときに目が合った人には一応頭を下げておいた。
なんだ、あの子? という目で、みんな見ている。
廊下に出て、寺坂が、
「まあ、わざわざ紹介はしなくても、お昼にはわかるでしょうから」
と言ってきた。
そうだ。
お昼には、カフェの商品を販売しなくちゃだった、と時計を確認する。
そろそろ成田が搬入に来る頃だ。
「北村本部長って、愛想の良い方ですね」
と言うと、寺坂は、はは、と笑い、
「問題が起こらないよう、北村本部長には、一応、南条さんの素性は話してあります」
と言ってくる。
それでですよ、と言いたいようだった。
ということは、一癖ある人物ということか。
あまりが社長の息子の見合い相手だと知っているから、あのようににこやかだっただけだと言いたいのだろう。
いや、だから、断ったんだが、その話……。
秘書室の前に戻ってきたとき、寺坂はちょっと困った顔をした。
恐らく、どう指示を出したものかと迷っていたのだろう。
そりゃそうだ。
お茶担当とか言われてもな、と思う。
「どうしましょう、寺坂さん。
私、普段は、どなたに指示を仰げばいいんですかね?」
寺坂ではお茶のことなどわからないだろうと思い、そう訊いてみた。
「そうですね。
お茶のことは、基本、女性秘書の方々に訊くのがいいと思いますが。
では、まあ、とりあえず、支社長にお茶をお願いします。
この時間は支社長室にいらっしゃるはずですから。
秋月さんに……ああ、さっきの秘書の、年が少し上の方の方ですが」
と気を使った言い方を寺坂はしていたが。
少し上もなにも、片方の女性は自分と変わらないくらいの年で、もう片方の人は、自分の母親くらいの年だったような。
だが、女性の年齢の話は危険だ。
寺坂はよくわかっているようで、ものすごく婉曲な言い方をしていた。
「給湯室のことは、秋月さんに伺ってください」
はい、と言って、別れようかと思ったが、寺坂は、秋月のところまで連れて行ってくれ、
「南条さんが二週間お茶を淹れてくれますので、秋月さんたちは、他の仕事に専念してくださって結構です。
南条さんに、給湯室のことなど教えて差し上げてください」
と言ってくれた。
どうもお世話になりました、と深々と寺坂に頭を下げていると、秋月はじろりとこちらを見、
「南条さん?
こっちが給湯室よ」
と言って、先導してくれた。
行きながら、振り返り、
「貴女、本当にお茶淹れるだけなの?
他の仕事はしてくれないの?」
と訊いてくる。
その、すっと姿勢のいい細い背中を見ながら、
「そうですね。
何時間もお茶淹れたり、給湯室を磨いてるわけにもいかないので。
寺坂さんに確認してみます」
大丈夫そうでしたら、お手伝い致します、と言うと、秋月は振り向き、
「貴女、何処かの会社で働いてたの?」
と言ってきた。
「何故ですか?」
と訊き返すと、
「カフェはカフェできちんとした指示系統があって、機能してるんだと思うけど。
会社のそれとは違うと思うのに、貴女は、会社組織ってものをわかってるように見えたから」
と言ってくる。
いや、それは、あの悪魔のような父親を長年見てきたからですよ、と思っていた。
自宅に重役を呼びつけて、会社の話をしていることもあるからだ。
「ファミちゃん、ちょっと来て」
と笑顔も見せずに、給湯室の入り口から、秋月は、もう一人の秘書を呼ぶ。
はい、と神妙な顔で、ファミちゃんと呼ばれた彼女はやってきた。
「秋月さん、電話、いいですかね?」
とそのファミちゃんは、後ろを振り返りながら言う。
「ああ、ご隠居が居るからいいでしょう」
秋月はちらと室長を見て言った。
……ご隠居って。
まあ、ちょっとそんな雰囲気だが、とぼうっとしたご老体、という風情の室長を遠目に見る。
22
あなたにおすすめの小説
公主の嫁入り
マチバリ
キャラ文芸
宗国の公主である雪花は、後宮の最奥にある月花宮で息をひそめて生きていた。母の身分が低かったことを理由に他の妃たちから冷遇されていたからだ。
17歳になったある日、皇帝となった兄の命により龍の血を継ぐという道士の元へ降嫁する事が決まる。政略結婚の道具として役に立ちたいと願いつつも怯えていた雪花だったが、顔を合わせた道士の焔蓮は優しい人で……ぎこちなくも心を通わせ、夫婦となっていく二人の物語。
中華習作かつ色々ふんわりなファンタジー設定です。
あやかし旅館、縁結びは四季ちゃんにおまかせ!!
八乙女 忍
キャラ文芸
僕の家は、昔から旅館をしていた。
その旅館には、座敷わらしが出ると言われている。
その座敷わらしを見ると、願い事が叶うと言われていた。
僕は、小さい頃からその座敷わらしと遊んでいる。
僕も年頃になり好きな子ができた。
小さい頃から座敷わらしと、遊んでいた僕の願い事は叶うのだろうか?
紅玉楽師は後宮の音を聞く 〜生き残りたい私の脱走計画〜
高里まつり
キャラ文芸
【耳のいい隠れ長公主】✕【したたかな美貌の文官】コンビが挑む後宮の陰謀!
片目が紅い娘・曄琳(イェリン)は訳あって後宮から逃走した妃の娘ーー先帝の血を引く、隠れ長公主。
貧民街で隠れて生活していたのに、ひょんなことから宮廷に舞い戻ってしまった曄琳は、生まれを秘匿し、楽師としてあらゆる音を聞き分けるという特技を活かしながら、宮廷からの脱走を目論んでいた。
しかしある日、後宮で起きた幽鬼騒動の解決に駆り出された先で、運命を狂わされてしまう。
利用できるものは利用します精神の美形の文官・暁明(シャオメイ)と、出生の秘密をなんとか隠して外に出たい曄琳。
二人が後宮での事件を追う中で、母や貴妃の死、過去の出来事が少しずつ絡んで、宮廷の陰謀に巻き込まれていく。契約じみた曄琳と暁明の関係も少しずつ、少しずつ、形を変えていきーー?
曄琳の運命やいかに!
後宮の手かざし皇后〜盲目のお飾り皇后が持つ波動の力〜
二位関りをん
キャラ文芸
龍の国の若き皇帝・浩明に5大名家の娘である美華が皇后として嫁いできた。しかし美華は病により目が見えなくなっていた。
そんな美華を冷たくあしらう浩明。婚儀の夜、美華の目の前で彼女付きの女官が心臓発作に倒れてしまう。
その時。美華は慌てること無く駆け寄り、女官に手をかざすと女官は元気になる。
どうも美華には不思議な力があるようで…?
OL 万千湖さんのささやかなる野望
菱沼あゆ
キャラ文芸
転職した会社でお茶の淹れ方がうまいから、うちの息子と見合いしないかと上司に言われた白雪万千湖(しらゆき まちこ)。
ところが、見合い当日。
息子が突然、好きな人がいると言い出したと、部長は全然違う人を連れて来た。
「いや~、誰か若いいい男がいないかと、急いで休日出勤してる奴探して引っ張ってきたよ~」
万千湖の前に現れたのは、この人だけは勘弁してください、と思う、隣の部署の愛想の悪い課長、小鳥遊駿佑(たかなし しゅんすけ)だった。
部長の手前、三回くらいデートして断ろう、と画策する二人だったが――。
虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました
たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。
幼馴染が家出したので、僕と同居生活することになったのだが。
四乃森ゆいな
青春
とある事情で一人暮らしをしている僕──和泉湊はある日、幼馴染でクラスメイト、更には『女神様』と崇められている美少女、真城美桜を拾うことに……?
どうやら何か事情があるらしく、頑なに喋ろうとしない美桜。普段は無愛想で、人との距離感が異常に遠い彼女だが、何故か僕にだけは世話焼きになり……挙句には、
「私と同棲してください!」
「要求が増えてますよ!」
意味のわからない同棲宣言をされてしまう。
とりあえず同居するという形で、居候することになった美桜は、家事から僕の宿題を見たりと、高校生らしい生活をしていくこととなる。
中学生の頃から疎遠気味だったために、空いていた互いの時間が徐々に埋まっていき、お互いに知らない自分を曝け出していく中──女神様は何でもない『日常』を、僕の隣で歩んでいく。
無愛想だけど僕にだけ本性をみせる女神様 × ワケあり陰キャぼっちの幼馴染が送る、半同棲な同居生活ラブコメ。
悪役令嬢は調理場に左遷されましたが、激ウマご飯で氷の魔公爵様を餌付けしてしまったようです~「もう離さない」って、胃袋の話ですか?~
咲月ねむと
恋愛
「君のような地味な女は、王太子妃にふさわしくない。辺境の『魔公爵』のもとへ嫁げ!」
卒業パーティーで婚約破棄を突きつけられた悪役令嬢レティシア。
しかし、前世で日本人調理師だった彼女にとって、堅苦しい王妃教育から解放されることはご褒美でしかなかった。
「これで好きな料理が作れる!」
ウキウキで辺境へ向かった彼女を待っていたのは、荒れ果てた別邸と「氷の魔公爵」と恐れられるジルベール公爵。
冷酷無慈悲と噂される彼だったが――その正体は、ただの「極度の偏食家で、常に空腹で不機嫌なだけ」だった!?
レティシアが作る『肉汁溢れるハンバーグ』『とろとろオムライス』『伝説のプリン』に公爵の胃袋は即陥落。
「君の料理なしでは生きられない」
「一生そばにいてくれ」
と求愛されるが、色気より食い気のレティシアは「最高の就職先ゲット!」と勘違いして……?
一方、レティシアを追放した王太子たちは、王宮の食事が不味くなりすぎて絶望の淵に。今さら「戻ってきてくれ」と言われても、もう遅いです!
美味しいご飯で幸せを掴む、空腹厳禁の異世界クッキング・ファンタジー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる