71 / 89
箱から覗いてみました……
ゴルゴンじゃないのに固まっています
しおりを挟むケチをつけてしまったが。
服部半蔵のお陰で助かったな、と海里は思っていた。
こんなことは初めてなのだが、あまりの部屋を訪ねるのに、らしくもなく緊張していたのだ。
あまりはニコニコと食器の用意をしてくれている。
……可愛いな。
あまりも緊張して、ぎこちなくなるのではと危惧していたのだが。
ありがとう。
服部半蔵。
あんなこと言ったが、事件には協力してやろう、と思う。
「和食だから、日本酒の方がよかったか?
ちょうど、いいワインを見つけたから買ってしまったんだが」
と言うと、
「いえー。
ワインでいいですー」
と言いながら、あまりはご機嫌なようだった。
しかし、こいつ、こんな簡単に食べ物で釣られて大丈夫なんだろうか、といささか不安になる。
成田という、美味しいものを携えたイケメンがすぐ近くに居るからだ。
いや、最高だ。
あまりたちはソファの前、ラグの上に腰を下ろし、ローテーブルで食事をしていた。
気のきくことに、海里は、小洒落たテイクアウトのデザートも百貨店で買ってきてくれていて。
なかなかいい夕食となった。
家で、くつろいで美味しいものが食べられるというのが、またいい。
酔っても家だし、そのまま寝ちゃえば……と思ったとき、
はっ。
海里さんが居ましたね、とあまりは、ようやく警戒することを思い出す。
「おい。
何故、急に防犯ブザーをつかむ」
目敏くこちらの動きを見て言ってくる海里に、
「いえ……そこにあったので」
と言うと、
「貸せ」
と取り上げられた。
海里は、
「電池抜いといてやる……」
と言いかけ、
「いや、やっぱり、鞄には入れておけ。
俺以外の奴に襲われそうになったら、すぐに鳴らせよ」
と言ってきた。
いや、まず、『俺』のところで鳴らしたいのですが。
これ以上の不祥事はご遠慮したい、と願いながらも、またワインを口にする。
口当たりが良く、美味しかったからだ。
「美味しいですね。
幸せです。
人類は美味しいものを食べながら語るために産まれてきたんじゃないかと思います」
「まあ、あながち間違ってはいないかな」
と海里は莫迦にせずに言ってくる。
「もうひとつ付け加えるべきだが。
人類は美味しいものを食べながら、最愛の人と語るために産まれてきたんだ」
誰が最愛の人なんですか、と思いながらも呟いた。
「最愛の人か。
あんなに好きでも別れちゃうってことあるんですね……」
とあまりは大崎を思う。
「大崎さん、ほんとにお姉さんがお好きなんでしょうに」
おかしな方向に突っ走ってしまうほど。
「あんな風に愛されてみたい気もします」
「……本気か?」
いや、方向性は間違っているかもしれないが、大崎の麻里子に対する深い愛情は伝わってくる。
「あいつ、麻里子にベッタリだったからな。
飽きられたんじゃないか?
まあ、俺は今は、……飽きられるほど側に居てみたいかな」
と言って、こちらを見る。
な、何故、今、見るのですか。
そ、そらしてください……っ。
そらせませんっ。
私からは、目をそらせませんっ。
そのとき、美味しさで固まるカフェ ゴルゴン、というフレーズが頭に浮かんだ。
今、視線だけで私は固まっています。
男の人のこんな真剣な顔は初めて見た気がします。
っていうか、その視線が私一人を向いているというのがもう……
もう……どうしたらいいのか。
明らかに酒のせいではなく、クラクラしてきた。
た、助けて、誰か……。
えーと。
おにいちゃんっ。
ははははは、と船の上で、小莫迦にして笑う兄の顔が見えた。
いや、駄目だ。
ご隠居っ。
静かにお茶を啜ってそうだ……。
大崎さんっ。
あんた、風呂入って、下着かえたの?
と妄想の中で、大崎が説教してくる。
はっ。
入ってませんっ。
いや、そんなつもりも暇もありませんでしたけどっ、と何故か大崎に言い訳してしまう。
そのとき、
「……あまり」
と海里が呼びかけてきた。
「Mi amas vin.」
しゃ、しゃべれたのか、エスペラント語。
そういえば、あのとき訳してはいたけど。
挨拶程度だからかと思ってた、とあまりは赤くなり、俯く。
「大丈夫か?」
と海里が訊いてきた。
「お前のことだから、旅に出たときの日常会話くらいしか、実は知らないんじゃないのか?
領収書くださいとか」
と言って笑う。
12
あなたにおすすめの小説
公主の嫁入り
マチバリ
キャラ文芸
宗国の公主である雪花は、後宮の最奥にある月花宮で息をひそめて生きていた。母の身分が低かったことを理由に他の妃たちから冷遇されていたからだ。
17歳になったある日、皇帝となった兄の命により龍の血を継ぐという道士の元へ降嫁する事が決まる。政略結婚の道具として役に立ちたいと願いつつも怯えていた雪花だったが、顔を合わせた道士の焔蓮は優しい人で……ぎこちなくも心を通わせ、夫婦となっていく二人の物語。
中華習作かつ色々ふんわりなファンタジー設定です。
あやかし旅館、縁結びは四季ちゃんにおまかせ!!
八乙女 忍
キャラ文芸
僕の家は、昔から旅館をしていた。
その旅館には、座敷わらしが出ると言われている。
その座敷わらしを見ると、願い事が叶うと言われていた。
僕は、小さい頃からその座敷わらしと遊んでいる。
僕も年頃になり好きな子ができた。
小さい頃から座敷わらしと、遊んでいた僕の願い事は叶うのだろうか?
紅玉楽師は後宮の音を聞く 〜生き残りたい私の脱走計画〜
高里まつり
キャラ文芸
【耳のいい隠れ長公主】✕【したたかな美貌の文官】コンビが挑む後宮の陰謀!
片目が紅い娘・曄琳(イェリン)は訳あって後宮から逃走した妃の娘ーー先帝の血を引く、隠れ長公主。
貧民街で隠れて生活していたのに、ひょんなことから宮廷に舞い戻ってしまった曄琳は、生まれを秘匿し、楽師としてあらゆる音を聞き分けるという特技を活かしながら、宮廷からの脱走を目論んでいた。
しかしある日、後宮で起きた幽鬼騒動の解決に駆り出された先で、運命を狂わされてしまう。
利用できるものは利用します精神の美形の文官・暁明(シャオメイ)と、出生の秘密をなんとか隠して外に出たい曄琳。
二人が後宮での事件を追う中で、母や貴妃の死、過去の出来事が少しずつ絡んで、宮廷の陰謀に巻き込まれていく。契約じみた曄琳と暁明の関係も少しずつ、少しずつ、形を変えていきーー?
曄琳の運命やいかに!
後宮の手かざし皇后〜盲目のお飾り皇后が持つ波動の力〜
二位関りをん
キャラ文芸
龍の国の若き皇帝・浩明に5大名家の娘である美華が皇后として嫁いできた。しかし美華は病により目が見えなくなっていた。
そんな美華を冷たくあしらう浩明。婚儀の夜、美華の目の前で彼女付きの女官が心臓発作に倒れてしまう。
その時。美華は慌てること無く駆け寄り、女官に手をかざすと女官は元気になる。
どうも美華には不思議な力があるようで…?
OL 万千湖さんのささやかなる野望
菱沼あゆ
キャラ文芸
転職した会社でお茶の淹れ方がうまいから、うちの息子と見合いしないかと上司に言われた白雪万千湖(しらゆき まちこ)。
ところが、見合い当日。
息子が突然、好きな人がいると言い出したと、部長は全然違う人を連れて来た。
「いや~、誰か若いいい男がいないかと、急いで休日出勤してる奴探して引っ張ってきたよ~」
万千湖の前に現れたのは、この人だけは勘弁してください、と思う、隣の部署の愛想の悪い課長、小鳥遊駿佑(たかなし しゅんすけ)だった。
部長の手前、三回くらいデートして断ろう、と画策する二人だったが――。
虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました
たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。
幼馴染が家出したので、僕と同居生活することになったのだが。
四乃森ゆいな
青春
とある事情で一人暮らしをしている僕──和泉湊はある日、幼馴染でクラスメイト、更には『女神様』と崇められている美少女、真城美桜を拾うことに……?
どうやら何か事情があるらしく、頑なに喋ろうとしない美桜。普段は無愛想で、人との距離感が異常に遠い彼女だが、何故か僕にだけは世話焼きになり……挙句には、
「私と同棲してください!」
「要求が増えてますよ!」
意味のわからない同棲宣言をされてしまう。
とりあえず同居するという形で、居候することになった美桜は、家事から僕の宿題を見たりと、高校生らしい生活をしていくこととなる。
中学生の頃から疎遠気味だったために、空いていた互いの時間が徐々に埋まっていき、お互いに知らない自分を曝け出していく中──女神様は何でもない『日常』を、僕の隣で歩んでいく。
無愛想だけど僕にだけ本性をみせる女神様 × ワケあり陰キャぼっちの幼馴染が送る、半同棲な同居生活ラブコメ。
悪役令嬢は調理場に左遷されましたが、激ウマご飯で氷の魔公爵様を餌付けしてしまったようです~「もう離さない」って、胃袋の話ですか?~
咲月ねむと
恋愛
「君のような地味な女は、王太子妃にふさわしくない。辺境の『魔公爵』のもとへ嫁げ!」
卒業パーティーで婚約破棄を突きつけられた悪役令嬢レティシア。
しかし、前世で日本人調理師だった彼女にとって、堅苦しい王妃教育から解放されることはご褒美でしかなかった。
「これで好きな料理が作れる!」
ウキウキで辺境へ向かった彼女を待っていたのは、荒れ果てた別邸と「氷の魔公爵」と恐れられるジルベール公爵。
冷酷無慈悲と噂される彼だったが――その正体は、ただの「極度の偏食家で、常に空腹で不機嫌なだけ」だった!?
レティシアが作る『肉汁溢れるハンバーグ』『とろとろオムライス』『伝説のプリン』に公爵の胃袋は即陥落。
「君の料理なしでは生きられない」
「一生そばにいてくれ」
と求愛されるが、色気より食い気のレティシアは「最高の就職先ゲット!」と勘違いして……?
一方、レティシアを追放した王太子たちは、王宮の食事が不味くなりすぎて絶望の淵に。今さら「戻ってきてくれ」と言われても、もう遅いです!
美味しいご飯で幸せを掴む、空腹厳禁の異世界クッキング・ファンタジー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる