OL 万千湖さんのささやかなる野望

菱沼あゆ

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ささやかなるお見合い

俺は一体、どうしたら……

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 翌日の昼。
 万千湖は急ぎの郵便物を郵便局に持っていくよう頼まれた。

 わーい。
 仕事中に外に出られるとか。

 しかも、いい天気。
 万千湖は会社の車で出発した。

 最初はちょっと慣れないな、と思ったのだが、すぐに運転もスムーズになり、鼻歌まじりに郵便局に向かう。

 用事を済ませ、戻ろうとしたとき、駿佑からショートなメッセージが入っていることに気がついた。

「暇なとき電話してくれ」

 相変わらず、短い、と思いながら、万千湖は車に乗り、電話してみた。

 すぐに駿佑が出る。

「いや、すまない。
 お前が廊下で増本たちに、郵便局に行くと話していたのが聞こえてきたから」

 駿佑は今、小会議室で、ひとり作業をしているらしい。

 それで、電話の方がいいと思ったようだ。

 長々とメールを打つのがめんどくさかったのだろう。

「さっき、部長に会ったんだ。
 昨日、二人で出かけたと報告しておいた。
 嬉しそうだったよ」

「そうですか。
 それはよかったですっ」

 そう言いながらも、ちょっと不安がよぎってもいた。

 人の良い部長がお喜びなのは嬉しいが。

 このまま部長に続けてお喜びいただくためには、結婚して、仲人を頼む、まで行かなければならないのではないだろうかと……。

 うまくいっている思っていた、自分が世話しているカップルが、いきなり破局したら、部長は悲しんでしまわれないだろうか。

 いや、しかし、一生のことだしな。

 そもそも、課長は私と結婚する気などないだろうし。

 私も今は結婚とか考えられないな。

 もうしばらく、ゴロゴロしていたい。

 前の仕事を辞めるとき、
「お前も可愛いお嫁さんになりたいとか言うのか」
と言われたが。

「いえ。
 半年くらいゴロゴロして過ごしたいです」
と答えて、

「……そうか」
とちょっと呆れたように、でも、ちょっと納得したように言われた。

 そうっ。
 可愛いお嫁さんになるより、今はゴロゴロッ。

 そう思って、ちょっとゴロゴロし。

 それから働きはじめたが、今も家ではずっとゴロゴロしている。

 最高だ、ゴロゴロ! と思っている万千湖に駿佑が言う。

「ともかく、もうちょっと調子を合わせておいてくれ。
 部長の息子さん、結婚が決まったみたいで、もうすぐ忙しくなるそうだし」

 そっちが忙しくなったら、俺たちのことなど忘れるだろう、と言う。

「忙しいとこ、悪かったな」

「いえ、こちらこそ。
 すみません。

 では」
と万千湖はスマホを助手席に置き、発進した。

 あ~、昼間、外にいるっていいな。

 緑がまぶしいっ。
 空が青いっ。

 万千湖は歌い出した。


 ……これは一体、どうしたら。

 小会議室で作業していた駿佑はスマホ片手にフリーズしていた。

 自分以外誰もいない小会議室には、万千湖の歌声が響き渡っていた。

 ……白雪。
 切れてないぞ、電話。

 いろんな意味で目が離せない奴だ、と思いながら、駿佑は、そっと通話を切ってあげた。


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