OL 万千湖さんのささやかなる野望

菱沼あゆ

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ささやかなる弁当

とりあえず、なにか飲もう

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 心臓に悪い、ラジオから流れてくるおのれの歌を聴いたあと、しばらくトークが続いて、あはは、と笑っているうちに、抽選のコーナーがはじまった。

 住宅メーカーの人が住宅の宣伝をひとしきり語ったあとで、

「では、ここで、いよいよお待ちかねの抽選です」
とパーソナリティーの男性が言う。

 ガラガラとなにかを回す音がした。

「最初の数字は、2」

「2ですよ、課長っ」

 抽選の紙に印刷されている数字を見ながら万千湖は駿佑の肩を叩く。

「頭から外れてなくてよかったな」
と言いながら、駿佑は後ろを振り向き、レストランの方を見ていた。

 やれやれ、ラジオ長く聴いてたが、やっと終わるな、という感じで。

 今にも車の向きを変えて、後ろにあるレストランの方の駐車場に入って行きそうだった。

 またガラガラと音がする。

「次の数字は3」
「3ですよ、課長っ」

「そうか。
 よかったな」

「2」
「2ですよ、課長っ」

「3」
「3ですよ、課長っ、シラユキッ」
と万千湖は後ろで自分たちを見守っているのか、圧をかけているのかわからないシラユキにも言う。

 他にこの興奮を語れる相手がいなかったからだ。

 宇宙人シラユキが、うむ、と頷いた気がした。

「ちょっと飲み物足らなかったな。
 お前も喉乾いたか」
と言う駿佑の目はレストランを見ていた。

 早く水分をとりたいようだった。

「最後は0です」
「0です、課長っ」

「そうか。
 結構近かったな」

 駿佑はもう車を後ろの駐車場に向かい、動かしていた。

「いや、0なんですよっ」

「当選は、23230ですっ」

 おめでとうございますっ、とファンファーレとともに、スタジオのみんなが言ってくれる。

 駿佑は車を止め、万千湖が手にしていた紙を見る。

「0まで合ってたのか。
 次は何番だ」

「ここで終わりですよっ。
 当たったんですよ、課長っ。

 あのモデルハウスッ」

 もう一度、駿佑が番号を見たとき、駿佑の携帯が鳴った。

「ご当選おめでとうございます、小鳥遊様」

 営業の人と会う約束をして切った駿佑がこちらを見て言う。

「……なんで当たったんだろうな」

 いや、なんでって言われても……と思いながらも万千湖は言った。

「私は当たると思ってましたよ。
 だって、23230ですからね。

 ニーサン、ニーサン、オー!ですよ」

 だからなんだ? という顔で駿佑が見た。

「この番号を見たとき、兄さん、兄さん、当たってますよっ、と課長が呼ばれ。
 オー! と驚く姿が見えたんですっ」

「俺はオー、とか言わないが……」

「ありがとうございますっ、七福神様っ」
とまるで聞いていない万千湖はマンションの方角に向かって祈り。

 駿佑はマイペースに、
「住宅メーカーに行く前になにか飲もう」
と予定通りレストランの駐車場に車を入れ直す。


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