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ささやかなる見学会
地鎮祭です
しおりを挟む地鎮祭はいいお天気だった。
周りは山と畑と草まみれの荒地。
だが、目の前には大きな道路が走っている。
まあ、いい場所かな、と万千湖は思っていた。
我が家でカラオケ大会やっても、何処からも苦情が来なさそうだ。
いや、課長が参加してない場合は、課長から来そうだが……と思いながら、万千湖は神妙な顔で祝詞を聞いていた。
しかし、どんなに騒いでも何処からも文句を言われない場所ということは、なにか事件があって、悲鳴を上げても、誰も助けてくれない場所だと言うことだ。
万千湖は想像してみた。
なにかで殴りかかられる自分。
悲鳴を上げても誰も来ない。
殴りかかってきているのは駿佑だった。
他の人間がこの辺りに存在しそうになかったからだ。
きっと、私がなにか余計なことを言って怒らせたんだな、と思ったとき、祝詞が終わり、同じく神妙な顔を作っていた母親が後ろから小声で言ってきた。
「あんた、なんで今日いきなりなのよ」
「は?」
「なんで、ここで顔合わせになるのよ。
地鎮祭より先に席を設けなさいよ」
「えっ? なんの席?」
「親族紹介の席よ」
……何故、シェアハウスに住む者同士、親族の紹介が必要なのでしょうか。
「あの、課長と私はいっしょに家を建てるだけなんだけど」
と言ってみたが、母は、
「誰が信じるのよ、それ」
と言う。
そのとき、
「では、ご主人」
と神主が駿佑に呼びかけた。
いや、ご主人ではないです、と思った万千湖の後ろから、
「ほら見なさいよ」
と母親が言ってくる。
駿佑が盛り土に鍬を三回入れる。
その様子を駿佑の家族とともに眺めた。
次に玉串を順番に捧げる。
駿佑の次に、神主は万千湖の方を向いた。
「では、奥様」
「ほら見なさないよ」
とまた母親が後ろから言ってきた。
地鎮祭が終わったあと、双方の両親はまたペコペコしながら挨拶しはじめた。
そして、共闘して、娘息子を攻めはじめる。
「なんで、地鎮祭の前にいろいろしておかないのよ」
「そうよ。
このあとの挨拶回りで、どう言って回るのよ。
籍だけでも早く……」
と言いかけた駿佑の母、美雪は、はっ、と口を押さえ、当たりを見回した。
「いや、でも、二人が結婚してるって広まらない方がいいのよね?
どこに二人の結婚に反対しているマチカさんの熱烈なファンがいるかわからないものね」
周りは見渡す限りの荒地ですが。
私のファンは何処に潜んでるんですか。
忍者かなにかですか。
そして、そんな方向に熱心なファンの人はいません、残念ながら……。
何故か、美雪は、ファンに遠慮して結婚しないのだと思っているようだつた。
だが、万千湖の母は、そんな美雪の心配を笑い飛ばす。
「この子のファンなんて、おじいちゃんとかばっかりですよ~。
可愛い可愛いって言ってくれるのも、孫に似てるとか、犬に似てるとか、そんなのばっかりなんですから~」
犬!?
……いやでもまあ、ペットっぽい感じに思われているのはわかりますよ、母よ、と思っている間に、みんな、
「先行ってるから~」
と宴会会場に向かい旅立って行った。
「では、行きますか」
と笑顔で業者さんに言われる。
万千湖たちは、これから業者さんと一緒に、ご近所さんに洗剤を配って歩くのだ。
はい、と言ったあとで、万千湖は、
「……ところで、ご近所さん、何処なんですかね?」
と狸とイタチくらいしか住んでそうにない周囲を見回す。
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