OL 万千湖さんのささやかなる野望

菱沼あゆ

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ささやかなる見学会

イケメンいろいろですが

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「餅、とれなかったわ」

 餅まきの時間に駆けつけた瑠美が後片付けを手伝いながら愚痴ってきた。

「だって、いつの間にやら、黒岩さんに雁夜課長まで来てるし。
 オラオラッて人押しのけてはとれないじゃない」

 だが、そんな瑠美に、やはり手伝ってくれながら、安江が言う。

「なに言ってるのよ、餅まきよ。
 恥じらってる場合じゃないわよ」

 安江は、万千湖たちと同じく、餅まきに命をかける人種のようだった。

「私、結構とれたから、おばあちゃんちに持ってって、ぜんざい作ってもらおうっと」
と安江は機嫌がいい。

 瑠美が、
「ところで、可愛いお巡りさんは何処よ」
と周囲を見回しながら、訊いてきた。

 そう言われると、犬のお巡りさんかなにかのようだが……と万千湖が思ったとき、
「あれかしらっ」
と瑠美が笑顔で、駿佑と話している若い男を見る。

「あれは私の従兄の純くんです」

「独身っ?」

「はあ、そうですね」

「……でも、長身でイケメンだけど。
 あの人と結婚したら、あんたと親戚になるわよね」

 ……なってはいけませんか?

「次々厄介ごとが舞い込みそうで怖いじゃない。
 で、お巡りさんは?」

「あっちで鈴加ちゃんと話してますよ」

 万千湖は鈴加と楽しげに話している田中洋平を手で示した。

 だが、そこで叫んだのは瑠美ではなかった。

「制服じゃないじゃないっ」

 何故か、安江はそんな文句をつけてくる。

 仕事中ではない洋平はもちろん制服ではなく、普通に小洒落た黒のブルゾンを着ていた。

 安江はじっくり洋平を観察しながら呟く。

「でも、顔は可愛いわね。
 ……あともうひとり、屈強な制服のお巡りさんがいるといいんだけど」

 何故、もうひとりっ!?
と思う万千湖の横で瑠美は、鈴加と洋平が話しているのを見ながら、

「なによ、大学生カップルみたいでお似合いじゃない」
と言って、舌打ちをする。

「公務員、安定してていいと思ったのに。

 小鳥遊課長や雁夜課長みたいな出世頭もいいけど。
 派閥争いに破れたら一気に窓際だものね……」

 実は瑠美の真後ろに雁夜がいた。

 美雪たちがみんなにお茶を配るのを手伝ってくれていたのだ。

 雁夜は、シビアだな~という顔で苦笑いしている。

 ……可哀想だから、瑠美さんには教えないでおこう、と万千湖が思ったとき、瑠美が言った。

「……やっぱり、黒岩さんがいいなあ。
 大人の魅力があっていいわよね」

 いや、あの人、公務員的安定性から、もっともかけ離れた人なんですけどね……と思いながら、万千湖も美雪たちのところに行き、熱いお茶を配る。


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