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ささやかなる見学会

餅まきを愛する人々

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「ねえ、餅まきしないの?
 そのユニット組む日が棟上げってことになるんでしょ?」

「なんで、餅まきしないの?」

 駿佑と万千湖は、美雪と万千湖の母、浅海あさみに二人がかりで文句を言われていた。

 なんだかんだで開かされた、親族紹介を兼ねた食事会の日のことだった。

「餅はまかないとっ」

「そうよ。
 餅はまかないとっ」

 ……この二人、なんだかんだで似てるな、と万千湖は責め立ててくる美雪と浅海を見ながら思っていた。

 駿佑が二人に説明する。

「大工さんが作る木造の家とは違うし。
 
 餅は業者の人にも近所の人にも、母さんたちにも箱入りのを配るように手配してるから」

 だが、人の話を素直に聞くような人たちではない。

「なに言ってるのよ、餅はまかないと」

「ちょ、ちょっと清水さんに訊いてみますよ」
と言って、万千湖は清水に連絡してみた。

 すると、
「ユニットハウスでも、足場からまく方もいらっしゃいますよ」
と言う。

「えっ? そうなんですかっ?」

 棟上げとは言っても、バンバン、ユニットが組まれるだけなんで、まくタイミングがないよな~と思って最初から訊いてみなかったのだ。

「じゃあ、まいてもいいですかっ?」

 万千湖の言葉に、えっ? と駿佑が振り向く。

「まきましょう、課長っ」

「待てっ。
 お前までなんだっ。

 配る餅の手配はもう済んでるぞっ」
と駿佑は言ったのだが、美雪は、

「それはそれで配りなさいよ。
 まく餅は、私がつくわっ」
と言い出す。

「うちもつくわっ。
 まきましょう、万千湖っ、駿佑さんっ」
と浅海も張り切った。

「はいっ」
と万千湖が二人の母に勢いよく返事をする。

 駿佑が、裏切られた……という顔で、万千湖を見て言った。

「お前……、もしかして、餅まき見ると、燃える人種か」

 万千湖が笑顔で、はいっ、と答える。


 餅まきはユニットが組み上がったあと、夕方に行われた。

 足場に立つ駿佑が一言挨拶する。

「今度、こちらに越してくることになりました。
 白雪万千湖と小鳥遊駿佑です。

 工事中、皆様にいろいろとご迷惑をおかけすることになると思います。
 申し訳ございません。

 引っ越してからもよろしくお願い致します」

 駿佑の言葉に合わせ、下にいた万千湖も頭を下げる。

 二人の苗字が違うのは結婚前だからだと思われているようで、特に突っ込まれなかった。

 棟上げの餅まきは女性は上がってまいてはいけないことになっているらしいのだが。

 上がるのは足場だし、
「別にいまどきいいんじゃないですか?」
と清水たちには言われた。

 だが、万千湖は下から餅まきの様子を撮影することにして、上がらなかった。

 駿佑も万千湖が足場に上がることには反対した。

「……餅じゃなくて、お前が落ちていきそうな気がする」

 そう言って。

 まあ、まくより、取る方がやりたかったのだが。

 自分でとるわけにいもいかない。

 万千湖は、みんなが楽しく餅をとるのを眺めたり。

「それ、それとってっ、お嬢ちゃんっ」
とおばあさんたちに叫ばれ、近くのテントや重機の上にのった餅をとってあげたりして、楽しく過ごした。

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