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ささやかなる見学会
いよいよ、ユニットが組み立てられる日です
しおりを挟む工事の人にお茶やお菓子を差し入れたり。
通りかかった近所の人にもお茶をご馳走したりしているうちに、ユニットが組み立てられる日がやってきた。
万千湖も駿佑もコートを着込み、白い息を吐きながら自分たちの家が運ばれてくるのを息を詰めて待っていた。
天気はいいが、かなり寒かったのだが。
たくさんのトラックやクレーンが到着し、家が組み立てられはじめると、あれよあれよという間に家が出来ていくのが面白いからだろう。
近所の人たちもやってきて、眺めはじめた。
挨拶回りのときには出会わなかった人たちも覗きに来てくれたので。
引っ越し前に、みんなとお話できてよかったな、と万千湖は喜んだ。
そんな万千湖の横で駿佑がぼそりと呟く。
「なんかあの中にお前、入ってそうだな……」
振り返ると、駿佑の目は、クレーンで天高く吊るされているリビングを見ていた。
私、ここにいますよっ!?
と思ったのだが、おそらく、万千湖は駿佑に、
なんだか、うっかり入り込んで、リビングと一緒に吊るされそうな奴、と認識されているのだろう。
……やりそうだけど、やってませんよ。
万千湖は駿佑と一緒に、その自分が入ってそうなリビングが運ばれるのを見ながら言った。
「そういえば、夢を見たんですよ」
「どんなくだらない夢だ」
あの、何故、話す前からくだらないと決めつけるのですか……と思いながらも、めげずに万千湖は語る。
「なんかここの地下に神様が住んでて。
ああ、地鎮祭の日、神様へのお弁当手配してなかったなって思う夢です。
今からでもハウスメーカーさんに配ったのと同じ仕出しを買いにいこう、と思ってたら。
恵比寿様の格好をした田中さんがあのカマキリみたいなバイクを貸してくれるんです」
「待て。
何故、田中さんが恵比寿様だ」
「田中さん、恵比寿様の扮装で小脇にブリを抱えて、釣竿と魚入れるびくを持ってました。
おそらく、いただいた魚のせいでは……」
と万千湖はおのれの夢の解説をする。
「で、そのバイクに乗って仕出し屋さんに買いに行くんですが。
いざ、注文しようとしたとき、ふと不安になりまして。
神様とハウスメーカーさん、同じものでいいのかなって。
でも、仕出し弁当、一種類しかなくて。
じゃあ、二個買って神様に差し上げたら、二倍な感じがするからいいかな、と思ったところで、寒くて目が覚めました」
「とりとめがないな……」
はい、と言いながら、万千湖はなんとなく、夢で見た土地の神様に向かって手を叩き、拝んでみた。
駿佑も、まあこれから、ここに住もうというのだから、土地に手を合わせるのも悪くないだろう、と思ったらしく、一緒に手を叩いて拝んでくれた。
しょうもない万千湖の夢のせいだとは思わない近所のご老人たちの間では、偉く信心深い若い人たちが引っ越してきたと後から噂になったようだった。
ところで、このユニットが組み上がる日が、一般に言う棟上げの日なのだが。
実はこの日を迎えるにあたり、ちょっと一悶着あったのだ。
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