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ささやかなる結婚
もしや、結婚するまで、このままか
しおりを挟む課長がB級ホラーが好きだなんて知らなかったな、と思いながら、万千湖はリビングを片付けていた。
駿佑にこいつとの共同生活は無理だな、と思われないよう、せっせと。
寝ようとしたら駿佑が言う。
「この間、絶対にこっちを覗くなよと言ったが。
もうけ……
……見学に来てもいいんだぞ」
……何故ですか。
ここはまだモデルハウスなのですか?
課長といると、何故ですかと思うことが多いな。
まあ、変わった人だからな、と思いながら、
「引越しのとき見ましたよ、課長の部屋」
と言ったが、
「そうか。
でも、来てもいいんだぞ」
と言う。
なんですか。
この間まで、
「絶対にこっちを覗くなよ」
とか言うから、これって押すな押すなだろうかな、と思っていたのに。
でも、覗くなよ、と繰り返すのが押すな押すなで、覗けという意味なら。
入れ入れという今は、入るなということなのだろうか。
そう思った万千湖は、
「おやすみなさい」
と深々と頭を下げる。
駿佑が、何故っ!? という顔をしていた。
……違ったのだろうか。
うーむ。
課長の表現わかりにくい……。
万千湖は、ぱたん、と扉を閉めた。
……おやすみなさい、と白雪は去っていった。
このまま結婚式を迎えてしまいそうな気がする、と駿佑は焦っていた。
まあ、それも俺たちらしいか、と思いながら、不安もあった。
もしや、結婚してもしばらくこのまま清いままとかっ?
ありうるな。
毎日、白雪のペースに巻き込まれて、おやすみなさいで終わる日々。
いや待て。
そもそも、白雪待ちなのがおかしいんだ。
俺が白雪のところを訪ねていけばいい。
駿佑はようやく覚悟を決めた。
万千湖の部屋のドアをノックする。
が、返事はない。
「白雪? 寝たのか?」
と呼びかけながら、駿佑はノブを回してみた。
鍵はかかっていなかった。
……これは『入ってきて』ということだろうかと駿佑は思ったが。
実は万千湖はこのドアに鍵をかけたことがないだけだった。
受け取りようによっては、いつでもウエルカムな行為だが。
もちろん、万千湖はなにも考えてはいなかった。
……夫婦になるのだから、入って行ってもいいとは思うが、怒られないだろうかな?
白雪に確認しようにも。
なんかもう、家の中、暗いし。
あいつのことだから、一瞬で寝てしまったのかもしれないな、と思う駿佑は気づいていなかったが。
実は駿佑は、結構長い時間悩んでおり。
万千湖が部屋に入ってから、すでにかなり時間が経っていた。
とりあえず、入ってみて。
起きていたら、その意思を訊いてみよう。
みだりにお互いの部屋に入らない、と最初に宣言したのは俺だしな。
……でも、寝てたら起こすの可哀想だから、明かりはつけないでおこう。
駿佑は暗闇を進もうとしたが、相変わらず、田舎の夜は暗く深く。
カーテンも閉まっているので、万千湖の家の中はほとんど見えず、駿佑は家具につまづいた。
おっとっ。
かえって大きな音を立ててしまうな。
駿佑は自分の部屋に灯りをとりに戻った。
ロウソクは危ないし……懐中電灯は何処だろうな。
そうだ。
あれがある。
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