ケダモノ、148円ナリ

菱沼あゆ

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ケダモノは、やはりケダモノでした

絶対、嘘ですっ

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 明日実の両の手首をつかんだ貴継は顔を近づけ、笑って言った。

「お前は金目当てに、三日以内に俺と結婚したくなるんだ」

 また大予言っ!?

「って、金目当てとか、私ないですからっ」

「じゃあ、物目当てだ」

 貴継は時計を見、
「見ろ。
 お前がゴタゴタ言っているから、もうこんな時間になったじゃないか」
と文句を言い始める。

 それ、私のせいなんですかーっ?

「俺は明日、五時起きなんだ。
 お前もだぞ」

「ええーっ。
 なんでですかっ?」

「俺が居ない日に、一分一秒だって、此処に居るな。
 何処のわずかな隙間から顕人が入り込んでくるかわからんからなっ」

「おにいさまは、ゴキブリですかっ」

 貴継は少し考え、
「言うこと聞かないお前より、顕人に手錠でもかけておいた方がいいかもな。
 いや、あいつも一緒に出張に連れていこうか」
と呟き出す。

 そう聞いたとき、明日実の頭の中では、貴継と顕人がお互いの手を手錠で繋ぎ、新幹線で並んで弁当を食べていた。

「それはそれで、なにか変なので、やめた方が……」

「そう思うのなら、お前がいい子にしてればいいんだ」

 そう言いながら、貴継は強引に明日実を抱きかかえる。

「ちょっ、ちょっと待ってくださいっ」
と言ってみたが、貴継は聞いていない。

「大丈夫か?
 他の男にちょっかいかけられたりとかしてないか?

 あのあずみんとか」
と栗原のことを言ってくる。

「いや、あの人があずみんなわけではなくて、私をそう呼んでるだけなんですけど。

 っていうか、それ呼んでるの、栗原くんだけじゃないですよ。

 今日、大和さんもあずみんって呼んでたから、きっと、あずみん広まってます」

 貴継は明日実をお姫様抱っこしたまま、職場で見せるような爽やかな笑顔で、にっこり笑い、

「じゃあ、お前をあずみんって呼んでる奴、全員連れてこい。
 端からはりつけにしてやる」
と言い出した。

 え、えーと……と思っている間に、貴継のベッドに投げられる。

「い、いや、あの、勘弁してくださいっ」

 さっきの奉行がまだ頭にあったので、殿っ、おやめくださいっ、という勢いで言ってしまう。

「いや、無理だ。
 俺は今日すると決めたんだ。

 っていうか、今までよく我慢したと思わないか?
 お前のために」

 だから、そこ感謝するとこですかっ? と思いながら、自分にのしかかってきた貴継に明日実は訴える。

「いっ、嫌ですっ。
 嫌っ。

 痛いのも怖いのも嫌ですっ」

「お前、それ、俺が嫌とかじゃないじゃないかっ」

 単に怖いだけだろう、と言う。

 大丈夫だ。
 痛くも痒くもないっ、と言ってくるが、
「絶対嘘ですーっ」
と泣くと、

「嘘だ」
とあっさり貴継は認めた。

 やっぱりか、この人殺しーっ、と思っていると、貴継は上に乗ったまま、頭を撫でてきた。

 きつく目を閉じ、胸の前で、腕を十字に組み合わせ、アンモナイトのように丸くなって、防御姿勢をとっていた明日実だったが。

 ちょっとだけ目を開けてみた。

 明日実の上から降りた貴継がすぐ側に横になり、溜息をついて言う。

「まあ……そういう性格だから、今までなにもなく来たんだろうな」

「す、すみません」
とまだ防御姿勢を取ったまま言うと、

「しょうがない。
 ゆっくり行こう。

 今日はヨシヨシしてやる」
と言って、頭を撫でてくれた。

「今日は抱っこでヨシヨシだ」
と言いながら、明日実の顔を自分の胸に押しつけるように抱き、上から布団をかけてくれる。

 貴継はまだスーツを着たままだった。

 なんか……職場で抱き締められてるみたいで、ちょっとドキドキするな、と思いながら、その服の匂いを嗅いでいた。

 なるほど。
 大和が言うように、自分と同じ匂いがした。

 洗剤の匂いなのか。

 それとも家の中のいろんな香りが混ざっているのだろうか。

 自分と同じ匂いだからかもしれないが、こうしていると、不思議と落ち着く。

 明日実は貴継の胸で目を閉じ、その香りに浸りながら言った。

「……すみません。
 ありがとうございます」

 うん、と貴継は言うが、冷静な自分がちょっと思ってはいた。

 待て。
 なんで、私が謝らなきゃならんのだ。

 だが、つい、そのままじっとして――。

 そして、うとうととしてしまう。

 あったかいなーと思いながら、いつの間にか眠ってしまっていた。


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