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ケダモノは、やはりケダモノでした
古い知り合いは困る
しおりを挟む新幹線の指定席に座り、貴継が駅で買ったサンドイッチを食べようと袋を開けたとき、
「貴継」
と声がした。
荷物を抱えた笹原が通路に立っていた。
早朝だからというわけでもないだろうが、相変わらず、何処かぼーっとした顔だ。
ああ、と貴継は缶コーヒーを開けながら言った。
「お前も行くんだったか」
「忘れないで」
と言いながら、笹原は横に座る。
技術関係の人間も来るんだったな、と思い出していた。
「なに持ってくんだ、そんなに」
と貴継は笹原の大きめのキャリーケースを見る。
同じ会議に出るんだろ。
一泊のはずだが、と思っていると、やはり、まだ食べていなかったらしい笹原がカツサンドを出したあと、キャリーケースを上に上げながら、
「だって、いるものいっぱいあるじゃない、泊まりだと」
と言ってくる。
「……まさか枕とかまで入れてるんじゃないだろうな」
「入れてるよ。
だって、特注のだから。
マットレスも持って来ようと思ったんだけど」
「アスリートか」
と言いながら、並んで食べ始める。
明日実も今頃食べているだろうか。
ひとりでちゃんと注文出来ただろうか。
お金は持っているのだろうか。
この間まで、一人で暮らしていたのだから、なんでも一人で出来て当たり前なのだが、つい、心配になってしまう。
今にもなにかやらかしそうだし、と思ったとき、笹原が、
「なに笑ってんの?」
と訊いてきた。
「いや、明日実がまたなにかやらかしてないかなと思って」
と一人で食事に行かせた話をすると、
「ベタベタに甘やかしだね。
今まで女の人にそんな態度とったことなかったじゃない」
と言ってくる。
……これだから古い知り合いは困る、と思っていた。
余計なことばかり知っているから。
明日実に余計な俺の過去をしゃべったりしないだろうなと心配になった。
笹原も大和も、明日実をあずみんと呼んだ連中と一緒に磔にしたくなる。
「明日実は特別なんだ」
と言うと、
「ふうん。
まあ、いいことだと思うけど。
ところで、なんで、ガラス張りの店は駄目なの?」
と訊いてくる。
「会社近くのガラス張りのとこ、交通量の多いとこばかりじゃないか。
通行人とか、止まってる車の男とかに、明日実が見初められたらどうするんだ」
どうしよう。
莫迦だな……、と笹原は思っていた。
人目につくと自分の恋人が――
いや、恋人なのかは、明日実の態度を見る限り疑問だが。
自分の恋人がみんなに見初められるとか心配している。
賢いくせに、莫迦だなあ、と思う。
幾ら明日実が綺麗でも、人には好みというものがあるのに。
まあ、こういう可愛いところからあるから、生意気な後輩だが、なんとなく今まで一緒にやってきたんだろうな、と思っていた。
それに、明日実と出会ってから、貴継は変わった。
生い立ちのせいか。
にこやかに笑っていても、俺に逆らったら、斬り殺す、くらいのオーラが出ていたのだが。
明日実が逆らい続けているせいで、耐性が出来たのか、ずいぶんと穏やかになった気がする。
何年経ってもこの性格は変わらないと思っていたのに、すごいな佐野さん、と笹原は思っていた。
「ねえ、昼、弁当出ないみたいだから、なにか食べに行こうよ。
きしめんか――」
「味噌カツだろ」
「ええっ。
決定っ?」
もっと迷おうよ、とたくさん付箋の貼ったガイドブックを手に訴えてみたが、
「味噌カツだろ」
と切り捨てられる。
「たまには人の意見も聞きなよ」
「味噌カツだ」
と揉めながらも、別々に行くという選択肢は、何故かなかった。
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